45 サプライズ

 しばらくすると、ジュエルもやって来た。俺がここにいると予想していたのかしていなかったのかは定かではないが、俺の顔を見た瞬間、目を見開いて驚いていた。

「よし! 全員集まったな!」

 メドウがパンと手を叩くと、騒がしかった集団が一斉に静まる。そのままメドウは昨日と同じようにパーティを分けて行った。分けられたパーティから、昨日と同じように出発していく。

 最終的に残ったのは俺、メドウ、ビュール、ジュエル、そして残りの男三人だった。

「残った奴は今日は特別クエストだ! 昨日呼んだ奴は来い! あとヤマト、お前もな」

「えっ!? なんで!?」

 ジュエルが今度は本当に目を丸くしてこちらを見る。その大声に「ウルセェな」とメドウから言葉が飛ぶ。

 ジュエルは反射的に「ごめんなさい」と謝り、俺の元に駆け寄ってきた。

「一緒に行くんですか!?」

「そうなんですよ。どうなるかはわからないんですけど……メドウでしたっけ。アイツに聞いたらオッケーって言われて。まあ、ジュエルさん一人だと不安かなって思ったら着いてきちゃいました。それに、俺がCランクになる一番早い方法はジュエルさんもCランクになることかなって」

「はは……何言ってるんですか。本当に」

 ジュエルが笑いながら目元を拭う。

「ヒヒッ、感動してるところ申し訳ないんだが、さっさといくぞ。今回はカシラも一緒なんだから、昨日みたいにチンタラするなよ」

 ビュールが指差した先では、もうすでにメドウが立ち上がって歩き出していた。男三人はそれにもうついていっており、俺とジュエルは置いていかれそうな立ち位置だ。

「やべっ!」

 俺とジュエルは小走りでメドウについていった。


・・・


 王国から出たところで、ビュールが口を開く。

「ヒヒッ、お前らちゃんと準備はしてきたか?」

「もちろんっスよ!」

 男の一人が答える。

「準備?」

「ヤマトさんは知らないんでしたよね。シノヴァの森までは結構遠いんで、日帰りじゃなくて野宿なんですよ」

 俺の独り言にジュエルが囁いて補足してくれた。なるほど、それで準備なのか。

 俺自身の準備は必要ない。最低限だけの持ち物で十分だ。

 リュックの中に入れていた食料は保存の効くものばかりだから一日二日程度放置したところで特に何も起こらないだろうし、しばらく教会に来ないとジュエルが伝えているのであれば俺も一緒にいるのではないかと向こうも予測してくれるだろう。

「なら良かった。ヒヒッ」

 それ以降、会話という会話もなく俺たちはただただ歩き続けた。

「そら、じゃあ俺たちはここまでだから、あとはお前ら勝手に行ってこい」

 一晩野宿をし、またしばらく歩くと目の前に森が見えてきた。途中に出てきた魔物はビュールと俺とがメインとなって倒していたおかげで、他のメンツに疲労感がたまることはなく、またビュールがほとんどメインとなって動いてくれたおかげで俺もほとんど疲れは出なかった。

 その森を前にしてメドウが言い出す。俺はそれに驚いたのだが、他の四人は納得した顔をしていた。

 面倒くさいクエストをこちらに回していると言っていたのだから、メドウたちがここで帰ってしまうのもよくよく考えれば納得はいくのだが。

「ヒヒッ、依頼書の写しは持ってるな? いいか、俺たちにちゃんと依頼された物を持ってきて、依頼が完了するわけだからな?」

「そんじゃ、お前らには期待してるぞ。依頼品を持って帰ってこれたら借金はゼロ。それ以外の理由で帰ってきたら、この前契約した通りだからな? クソデブ、お前は帰ってきた時に処遇を決めるから、逃げんなよ。逃げたらお前の分もジュエルに肩代わりだからな!」

 メドウは脅しのように言うと、その場を去っていった。俺の預かり知らぬところで何かが行われていたのだろう。

 ジュエルが荷物から依頼書を取り出す。メドウの持っていたものと比べると質の劣った紙には荒い字で今回の依頼内容について書かれていた。

 突然の参加だった俺は、彼女の手元にあるものを一緒に見せてもらう。

 言われていた通り、貴族のなにがしかがシノヴァの森に落とし物をしたらしく、それの回収を目的としたクエスト。Aランク以上の冒険者推奨、ってことはAランクじゃなくても受けられるクエストってことか。

 ただ、ギルドから受け付けたものではなく、メドウかあるいは誰かが取ってきたものだからこういった書き方になっていると言い換えても良いわけだ。

 そして、その探すべき落とし物というのが……

「ペンダント? これ」

「さぁ……でもなんというか、探しにくそうですね」

 他の三人も同じような顔をしている。

 探して欲しいと記載されていたものは穴が開けられ、紐が通されたワインのコルクのような見た目のものだった。サイズ感はわからないが、見たところ首から下げるものが外れて落ちたのだろう。紋様が施されており、近くの魔力に反応して光るものだそうだ。おおよそ森の中で迷わないためのお互いの目印か、あるいは何か他に作用があるアイテムなのだろう。

「それっぽいものを見つけたら魔力を込めてみるのもありですね」

「ですねぇ」

 そんなことをジュエルと話していると、男三人がこちらに寄ってきた。

「あの、よろしくお願いします」

 一人の男が話しかけてくる。

「あ、よろしくお願いします」

「自己紹介とか、役割分担とか、色々考えてから入った方がいいですよね。多分」

 一人が森の奥を見て言う。奥の方とは言われていたが、どこまで続いているかわからない森の中を無闇矢鱈と進んでいくのは確かに得策ではない。

「俺はヤマトって言います。一応肉弾戦が得意で物探しはあんまり……って感じですかね。ここでは無いですけど森で暮らしていたのでそういう意味では土地勘が強いと思います」

「ジュエルって言います。攻撃系の魔法が得意で、まあまあ魔力はある……と思います」

 俺たちが自己紹介すると、男たち三人もそれぞれが口を開いた。

「自分はトーヴっス! シーフ志望なんで、探し物とかは結構得意っス。戦いはあんまり得意じゃないっスけど、今回みたいなクエスト自分の独壇場っス!」

 胸を叩いて元気に言うのはバンダナの少年。ポケットの多いベストを着ている。メドウが居なくなると一瞬で明るくなったところを見るに、本来の性格はこっちなのだろう。

「ぼ、僕はユージンです……。槍を使ってて、魔法も一応できるんですけど、どっちもまだまだなんで役立たないと思います……。それに槍は森の中だと役に立たないと思うんで……」

 こちらは丸くて大きなメガネの少年で、トーヴと違いおずおずとした様子はさっきと変わらない。が、持っている槍の長さが尋常ではない。あれを持って振り回すだけでも相当力がいると思うのだが、今回ばかりは確かにその強みも役に立ちそうもないか。

「で、最後はボクかな」

 最後に口を開いたのはハスキーな声で端正な顔立ちの少年だ。腰には剣をつがえており、タイトなズボンとワイシャツを着ている。

「ボクはミレイ。見ての通り剣士だからよろしく。か弱い乙女だとは思わずに、気軽に接してね」

 えっ。

「えっ」「えっ!?」「っ!?」

 全員が一斉に驚く。中性的な顔立ちのミレイは何事かときょとんとしていた。

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