33 合格、しかし

「試験の結果を発表する。今回の試験の合格者は二十四名。不合格者は九名。召喚獣を倒せなかったチームのメンバーが不合格となる。合格者は冒険者カードの刻印を変更するからこちらに並べー」

 淡々とレイラーニが言う。それに対して一人、手を挙げる人物がいた。名前はわからないが、そばかすのある大きな杖を持った少女だ。油断して負けてしまったチームのうちの一人だということを、顔を見ていたら思い出した。

「最後のチームはそこのおっきな男の人が一人だけ強かったんですけど、それでも全員合格なんですかぁ? アタシ結構活躍したつもりだし、そういう貢献度でも見てほしーんですけど?」

 もったりとした話し方で、正論ではあるがレイラーニに対して挑発めいた言い方だ。ジュエルとヤックルも自分の中に納得感はないようで、反論はしない。

 レイラーニは咥えていたタバコをポケットから取り出した小さな皮の袋に捨てながら、発言者の少女に近づく。

「答えよう。アンタがどんなに自信家であったとしても、どんなに実力があったとしても、メンバー選びというものがこの世界において一番大切な要素だ。多ければ良いというものではなく、少なければ当然リスクも高まる。自分がいかに強くても、周囲のせいで死ぬ冒険者は山ほど居たし、逆にメンバーに恵まれて強くなっていった冒険者もたくさんアタシは見てきた」

 その場にしゃがみ込んで、レイラーニは目線を合わせる。その顔は威圧的な怒りが滲んでいた。

「アンタはメンバー選びを間違った。あの二人はメンバー選びに正解した。運であろうとなんであろうと、その時点でアンタは死んで、あの二人は生き残る。そんなことも判断できないならまだEランクから昇格させてあげるわけにはいかないね。子供を治療する趣味はアタシにはない」

 怒りながらも諭すように、懇々とレイラーニは続ける。少女も多少腹が立っていただけなのだろう。その言葉に納得して、目を逸らしながら小さく「ごめんなさい」と言った。

「わかればよろしい」

 レイラーニは立ち上がり、周囲全員の顔を見た。

「アンタたちも、今回の合格は当然だと思ってはいけないよ。一歩間違えれば死ぬ世界で正解を常に選び続けることが冒険者の役割だからね!」

 子供達の目にこの一瞬で喜びの中に覚悟が混じっていた。

 それから俺たちはレイラーニにカードを書き換えてもらった。相変わらずなにが描かれているのかさっぱり表面上はわからなかったが、魔力を通してみると確かにランクの部分がDになっている。

「では、試験を終了する! アタシはギルドに報告があるので、ここからは各自で解散するように」

 レイラーニはそう言うと、グラウンドから立ち去った。静かだったそれぞれが、だんだんとざわめいていく。遠くではさっき意見を言った少女が仲間であろう二人に謝られて「また強くなればいいの!」と励ましていた。

「いや、ほんと助かったぜにーちゃん! マジでオレだけEランクだったらアイツらにバカにされかねなかったしよ!」

 ヤックルが俺のケツをバシバシと叩きながら笑顔で話しかけてくる。背中でも叩きたかったのだろうが、背丈の関係でケツを叩くしか無いのだろう。同性であり子供であるということが何か逆に危ないことをしているような気分にさせられる。

「私も、ありがとうございました。足がすくんじゃってなにもできなくて……」

 ジュエルもおずおずと頭を下げてくる。

「気にしないでください。半分は俺のせいであんな虎が出てきたってことなんで。それよりもヤックルは友達のところに行かなくていいの?」

「ん? ああ、そうだ! ごめんにーちゃん! 行ってくる! マジでありがとな!」

 俺との会話を待ってくれていたヤックルの友人三人を見つけ、彼はそちらの方に走って行った。

「元気な子どもたちですね」

 それを眺めながらジュエルが呟く。

「そうですねぇ。これからの未来が楽しみです」

「ジュエルさんはこれからどうするんですか?」

「あ、私は教会に戻ってお仕事です。ヤマトさんはどうするんですか?」

「俺は……このままCランクの昇格試験を申し込みに行こうかなって思ってます」

「お、てことはもう三ヶ月の履修は済んでるんですか?」

「三ヶ月の履修?」

 聞き覚えのない単語が少し長い期間必要そうな雰囲気を感じて、俺の額に汗が流れ落ちる。

「ええ、知りませんか?」

「あいにくというか、本当に世間を知らずに育ったんですよね……」

「あら、珍しい。EランクからDランクになる試験が受けられるのは年齢が一定以上だってことが条件なんですけど、DランクからCランクに上がるのはDランクの人がうける授業? みたいなのを受けないといけないんですよ」

 そうなのか。ミーナを早く助けに行きたいのだが、何ヶ月もかかってしまうのであれば少しプランを変えなくてはならない。

「ジュエルさんは大丈夫なんですか? その、教会の人たちと国境の先に行くためにランクを上げるとかそういう目的でしたよね?」

「私は特別に先に受けさせてもらったんで、いつでもCランク昇格試験が受けられるんですよ。ここにいる子達の中にも何人かいるんじゃ無いですかね? 成績優秀な子は先んじて受けられる、なんて話をよく聞きますし」

 見渡してみると、確かにCランク昇格試験に挑もうとしている子どもたちの話し声が聞こえてくる。

「そうか……そういう条件が必須になってくるのか……。考えてなかったな」

「それじゃあもしかして泊まるところとかもまだ考えてなかったりします……?」

「あ! それも考えてなかったです。適当なところで野宿でもしようかな」

「ふふ、そういう人のために教会は開いているんですよ。今日の恩もありますし、もしよければ一宿一飯程度ならお出しいたしますよ」

 そう言いながら笑うジュエルの顔が女神に見えてくる。夜は暖かいが、なにが襲ってくるかわからない状況で気を張りながら眠るのは気が休まらない。これから先どうするかを考える上でも安心して眠れる場所が欲しかった。

「じゃあ……お願いしても良いですか?」

「ふふ、わかりました。じゃあ司祭様に挨拶もありますし、早めに行っちゃいましょうか」

 ジュエルに手を引かれ、俺はグラウンドから出た。ヤックルが手を振っていたのが見えていたので、最後に振り返しておいた。

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