第二章 冒険者の本質

31 急拵えのグループ

 試験に指定された場所は、小さな闘技場のような場所だった。ギルドの敷地内にあり、完全に屋内で壁と天井に囲まれてはいるが学校のグラウンドのような場所だ。

 俺を含め大体三十名ほどがいる。が、俺ともう一人の女性以外は子供ばかりである。

「もしかしてDランクに上がるのって中学に上がるみたいなもんなのか」

 ワイワイガヤガヤとした子供特有の騒がしさに、そんな独り言はかき消されてしまった。

 また、子供たちはみなシャツとズボンというラフな格好をしている。考えるに、冒険者ランクというもののうちEは登録、Dは身体測定程度で上がることができる初心者向けということだろう。

 せっかくだからとマワシでもつけて参加しようかと思わなくてよかった。そんなことになってしまえば目立つことこの上ない。

 もう一人の女性も大人というよりも俺と同じくらいの年齢で、子供達から頭ひとつふたつ分ほど背が高いことを除けば顔つきは若く全員子供だと言っても遜色はない。それは俺も一緒なのだが。

 そんなことを考えていると、入り口からレイラーニがゆっくりと入ってくる。試験の時間ということだろう。それを見た子供たちはざわつくことをやめ、静かになった。

「よし、三十三名全員揃っているな」

 一瞥しただけで人数を数えたような口ぶりだ。レイラーニはそのままタバコを咥えながら手元の資料を確認し、片手に持っていた木製の椅子に座る。

「じゃあ……と、とりあえず適当に三人組作れ。出来たやつから組で集まって座れ。試験内容はその後に発表だ」

 すでに知り合いであろう子供たちはその言葉に倣うように三人組で続々と座っていく。残念ながら知り合いなんて一人も居ないこの状況で俺があたふたしていると、一人の女性が声をかけてきた。

「あの、すみません。組んでもらっても構いませんか……?」

 俺と同じように少し他の子供よりも頭が一つ抜きん出た背の高さをしており、年齢も俺と同じほどなのだろう。綺麗な水色のロングヘアーにキャスケット帽のようなオーバーサイズの帽子を被り、白と水色のローブを纏った少女だ。手には小ぶりの杖を持っており、先端にはめられた宝石がきらりと光っている。

 少し垂れた目尻が特徴的であり、美少女、なんて言い方をして良いのかはわからないが、目鼻立ちの整った綺麗な顔立ちである。

「ええ、ぜひぜひ! 俺もどうしようか悩んでたところなんで」

「良かったぁ……じゃあもう一人ですね」

 安堵した表情で杖を握りしめながら少女が笑うと、こちらも笑い返してしまう。そんな朗らかさがあった。

「にーちゃん達、相手いないの?」

 そんな時、一人の少年が声をかけてきた。活発そうな、それでいてまだ成長途中なのか中性的な顔の少年だ。ところどころ跳ねた赤茶けた髪は少し伸ばしているのか耳が隠れ肩にかからないほどであり、インナーカラーのように緑色が入っている。

 服装は他の十把一絡げの子供達と代わりなくシンプルなもので、腰には小ぶりではあるが剣が鞘に収まっていた。

「そうなの! ボク、一緒に組んでくれる?」

「ありがと! いつも四人でつるんでんだけど、俺あいつらにちょっとだけ返してない貸しがあってさ」

 少年が手を振る先には、確かに三人が手を振っている。活発そうな少年三人組であり、いじめで抜けさせられたというよりも本当に誰が抜けようかとなってこの子がたまたま抜けたのだろう。一人で話しかけてきたのかと心配してしまった俺は少し安心した。

 そんなこんなで即席のグループが結成され、三人でその場に座る。尻の部分に土がついてしまうが、こればかりはしょうがない。少女は少し嫌そうにしていたが、地面に尻をつけないことでなんとかしたみたいだ。

 他のグループもある程度決まり始めてはいたが、まだ少し時間はかかりそうだ。レイラーニがイラついている顔は見なかったことにしておこう。

「じゃあせっかくだし自己紹でもしますか?」

 女の子が切り出すと、少年は「さんせーい!」と元気よく手を上げた。

「じゃあ言い出しっぺの私から。ジュエルです。魔法が得意です」

「オレはヤックル! 剣めっちゃ得意!」

「俺はヤマト。身一つでやってる」

「武器ねぇの!? めっちゃ図体でっけぇからなんかデカくてかっけぇの使うかと思ったのにー! というか、それ目当てでにーちゃんに声かけたのに」

 残念がるヤックルに俺はどうすることもできず「ごめんね」と笑いながら言うしかなかった。

 三者三様の挨拶が終わる頃、レイラーニが手を叩く音が響いた。周りを見ればもう全ての組が出来上がっているようだ。

「それでは今から試験を始める。代表者を一人選んで前に来るように」

 少しの話し合いのすえ、それぞれの組から代表者が選別されていった。

「オレ行っていい?」

 ヤックルが言い出す。拒否する理由もないので、俺は黙って首を縦に振った。

「いいよ。いってらっしゃい」

 ジュエルもそう言う。単純な子供のようで、喜んでレイラーニの方に飛び出して行った。

「可愛いですね」

 それを眺めながらジュエルが呟く。

「そう……なんですかね? 俺あんまりそういう感性は持ち合わせてなくって」

「あはは、でも私もそんなもんです。私、教会に所属してる魔法使いなんですけど、その活動の中で子供と触れ合うことが多いからそう思えるようになっただけですよ。まあ、そっちに注力しちゃって国の移動に必要な資格を取り忘れちゃってたんですけどね」

 にっこりと笑うジュエルのその笑顔がとても可愛くて、なんとなく俺は目を逸らしてしまう。

「シスター? でしたっけ。そういうのとはちょっと違うんですか?」

「ええ、私はそこまで敬虔な信徒ってわけじゃ無いですから」

 笑顔のままだが、なんとなく少しだけ憂いを帯びているような気がした。

 レイラーニの元に十一人の代表者が集まったようで、もう一度手を叩く音が聞こえる。

「これよりDランク昇格試験を始める! 試験内容は私の出した召喚獣を討伐すること! 気を引き締めるように! それでは順番を決めていく」

 体力測定では無いのか。案外真面目な試験だけれど、死にそうになればブレーキも効く、良い試験だなと俺は思った。それに、レイラーニが医者であると同時にそういうこともできるのだということも驚きだった。

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