ループ・ザ・ダンジョン🌀一度の失敗が人生終了のダンジョンで、ただ一人セーブできるようになった底辺ぼっちの成り上がり

やまたふ

覚醒編

第1話 GW明けにテストなんてやろうとする学校は滅べばいいと思う

「ゴールデンウィーク明けすぐに実力テストをやります」


 4月の最終日。

 教壇の上で担任の女教師がアホみたいなことを言った。


「え……?」


 ホームルームも終わり、意気揚々と帰り支度を始めていた全生徒がピシッと音を立てて硬直する。


「せ、先生……今なんて…………トースト?」


 生徒の誰かが震えながら訊き返す。

 その声に、他の生徒たちも「そ、そうか、トーストか」「パンなら仕方ない……」「先生、よく食べるもんね……」と納得しかける。


「いえ、テストです。GWが明けて二週間後の金曜日にテストを行います」


 ――その瞬間、教室内は天国から地獄へと落ちた。


 ある者は怪鳥のような奇声を上げながら卒倒し、

 ある者は「みんなごめん! わたしちょっと異世界行ってくる!」と掃除ロッカーの奥へ消え、

 ある者はいつ着替えたかわからない袈裟を纏いながら「南無阿弥陀仏なむあみだぶつ」と念仏を唱えだした。


 まさに阿鼻叫喚。

 このままでは確実に学級崩壊と思われた。


「ちなみになのですが……」

「!?」


 生徒たちの動きがピタッと止まる。

 微かな可能性に一縷の希望を託し、担任へと視線を戻す。


 すると、担任はニコリとほほ笑んでこう言った。


「《ダンジョン攻略》です」



 ………………。

 …………。

 ……。



「あぶね~! 超ビビった~!」

「ミホノちゃん、マジ驚かさないでよ~」

「ヤベェ、一瞬数学かと思って魂抜けてたわ……」


 口々にホッとしたような声を漏らす生徒たち。

 地獄から天国に返り咲いた瞬間だった。


 新学期が始まってまだひと月。

 授業でやったことと言えば、モンスターの生態に関する座学と模擬ダンジョンでトラップの対処法の実践をやった程度。


 実力テストが授業のおさらいであることを考えれば、他の教科に比べて遥かに楽なのは間違いない。



 ――――――しかし。



「終わった……」


 周囲が歓喜する中、ただ一人だけ教室の隅で絶望する者がいた。

 いや、あるいは今頃他のクラスでも同様のお告げをされているとすれば、学年で一人と言い換えてもいいかもしれない。


 もしくは全校。もしくは世界。


(ふざけやがって、GWなんだから楽しく過ごさせろよ……。少しもきんじゃねーよ、むしろどす黒いよ……)


 彼の名は時杉ときすぎ蛍介けいすけ

 都立赤羽あかばね深淵しんえん高校の2年F組に通う男子生徒。


 彼だけは、いまだ絶望の淵に取り残されていた。

 その理由は言うまでもない。


「あ、でもアイツだけ終わったくね?w」

「あ~たしかにw」

「え、誰のこと?」

「は? 知らね~の? ほらアイツ。去年、一生学年で最下位ドベだったヤツ」

「ん~? ああ、あの!」


 クラスのど真ん中で繰り広げられる陽キャ集団の会話。

 そして、その中心で机に腰かけていた親玉みたいな男子生徒が、後ろを振り返って叫んだ。


「お~い、《スキルなし》く~ん。生きてるか~?w」


 直後、全クラスメイトの視線が一斉に時杉に向いた。


 《スキルなし男》。


 それが小学校からの時杉のあだ名だった。



 この世にダンジョンが出現して早80余年。


 今や《ダンジョン攻略》は義務教育の一つとなっていた。

 その生徒がどれだけ攻略に長けているかはすべて評価され、進級や受験はおろか、就職にも直結する。

 授業の時間割を見ると、どの学校も毎日ひとつは“ダ”の文字が並んでいる。


 そんな世の中にあって要となるもの――それが《スキル》である。


 スキルとは、ダンジョンの出現とともに人々に目覚めた未知なる能力チカラ

 誰もがひとり一つだけ持ち、特殊な効果を発揮する。


 目覚めるタイミングはまちまちだが、だいたいの人間は小学校に上がるくらいには発現する。少なくとも平均的には精通よりも早い。もし逆のヤツがいたとしたら、そいつはエロガキである。


 ともかく、それくらいスキルとは誰しも当たり前に身に着くものなのである。


 それなのに――。


(ちくしょう、どうしてスキルがないんだ……)


 いったいもう何度呟いたかわからない。


 この世に生まれ落ちて16年。

 どれだけ願っても、時杉にはスキルに目覚める兆しすらなかった。


「あーあ、きっとこのGWもなんにも起こらず終わるんだろうな……」


 すっかり諦め癖のついた思考で呟く。







 結論から言うと、はGWの最終日にやってきた。

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