第13話 エンディング

あの後、道尾まどかは治療も虚しく病院で息を引き取ったという。才賀はまどかを殺した罪で裁判に掛けられた。長い裁判の結果、執行猶予がつくことになった。


裁判に際して、才賀は事件の全容を聞くことになった。


道尾まどか本人は死亡しているため、5年前のあの日、福原ちよりちゃんが殺害された際に何があったのかは、同級生の証言や遺体の状況から推測されたものだ。


夕焼け小学校では、給食は班ごとに机をくっつけて食べることになっていた。


当時のまどかは歯に矯正器具をつけていた。


事件のあった日の給食は、提供された食事のほうれん草が矯正器具と歯の間に挟まってしまった。それを善意から福原ちよりに指摘され、まどかは人前で指摘されことに激怒した。


元よりまどかには怒ると後先が考えられなくなる傾向があった。そして、暴力に訴えて同じ学校の児童を叩いたことがあったという。


ちよりに怒りを覚えたまどかは犯行を決意。給食の際に使った箸を返却せず隠し持った。そのとき、既に箸で刺し殺すという計画があった。


体育館のステージ裏に大きな穴が空いていることは児童みんなが知っていた。子供たちの間では奈落やブラックホールと呼ばれていて、何でもそこに隠せば一生見つからない感じがしていたと当時通っていた生徒が証言した。


ステージ裏にちよりを呼び出したまどかは、その場でちよりの左目を刺して、悲鳴を上げる間もなく右目を刺した。そのとき、おそらくまだ息はあったが、まどかはちよりが死んだと思った。履いていた内履きを脱がせて、まだ生きているちよりを掃除ロッカーにあったゴミ袋に入れた。そして袋の口を結んで穴に突き落とし、下駄箱で靴を入れ替え、外履きも穴から落とした。


教員たちは何も知らなかった。以前から建物の腐食が問題になっていたが、偶然、このタイミングで体育館は立ち入り禁止となった。


そのため、匂いで遺体の存在が気づかれることはなかった。


中学に上がったまどかは、旧校舎の建て壊しの噂を聞く。体育館も取り壊すことを知った。


まどかは小学校で外から運動会や学習発表会など保護者や地域住民が訪れるタイミングで何度も夕焼け小学校に訪れ、体育館の遺体を回収しようと試みた。


しかし、回収できないまま解体工事が始まり、遺体が見つかったという訳だ。



◇◇◇


才賀は才賀探偵事務所の入口前に立っていた。懐かしい我が家だ。才賀は、ハンチング帽を胸に抱えていた。深呼吸の後、ドアを開ける。


クラッカーの音。三森夫人だ。


「才賀さん、おかえりなさい」


三森夫妻が、ご馳走を用意して待っていてくれた。


「一足先にいただいてましたよ」


三森はじめが半分ほどまで中身が減ったビールジョッキを持ち上げて見せた。


才賀は久しぶりに笑顔になった。


「ただいま」


大切なふたりの笑顔を守れたことに、才賀はこの上ない喜びを感じていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハンチング探偵と学校のミイラ @mayoinu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ