第11話 行方不明

探偵事務所に帰った才賀は容疑者を絞ってみた。まず、福原ちよりちゃん殺害においては、ほんの少し時間があれば犯行ができるため、教師、生徒共に1度でも昼休みに1人になった人なら全員が可能。しかし、既に当時の同級生や教師はマスコミ等から質問責めに合っていて、才賀が直接話しを聞こうとしても、即断られた。ネットにまとめられた情報は詳細にまとめられているものの、虚実入り交じっており、これを証拠に犯人を絞ることはできない。


しかし、町屋隆斗殺害については、確実に犯人が口止めのために殺したと言える。町屋が犯人に気づいたことを知っていた人物。それは町屋の母、才賀、道尾まどかの3人。このうち第1の事件の容疑者はただ1人、道尾まどかだけだ。しかし、これは町屋が犯人と直接話しをつけようとしていない前提である。才賀に電話してきた時の言い方から、おそらく町屋は確定するまで本人に「お前が犯人だろう」と言いに行ったりする人ではないと才賀が予想したものだ。


道尾まどかは次にどんな行動を起こすだろうか。そう考えた時、才賀は、次は自分が命を狙われるのではないかと怖くなった。そのため、慌てて入口や窓全てを施錠して回った。


その入口に人がたち、開けようとドアを勢いよくガチャガチャする音が聞こえた。才賀は飛び上がった。心臓がバクバクする。次いで、ドアが勢いよくノックされた。


「才賀さん! 才賀さん! 開けてください!」


しゃがれた男性の声。かなり慌てている。


「三森さん!?」


慌てて入口のロックを外すと、そこに立っていたのは、三森夫人の旦那、三森はじめだった。既に長いこと会社勤めをしていて地位があるはじめは、いかにも偉い人といった風格がある。背が高くて姿勢がよく、服や靴は良いものを身につけている辺りがそうだ。


「晶子は来てませんか?」

「見ていませんが、自宅に居ないんですか?」

「それが、私が家に帰ったら家がくらいままで、玄関のカギも掛かっていたもんだから、どこかに出かけているのかと思って待ってたんですけど、電話にも出なくて」


三森はじめは落ち着かない様子で、その場をウロウロしている。


才賀は顔から血の気が引いていくのを感じた。


「まどかさんだ」


まどかが事件に気づいた町屋を殺したなら、次に殺すのは事件に近づきつつある才賀だと、才賀自身そう思っていた。しかし、才賀は忘れていた。まどかの前で、三森夫人に得意げに推理を聞かせていたことを。恐らくまどかは、三森夫人をどこかに呼び出したんだろう。どこに呼び出した?


『うちの親は私に興味無いんです、帰り遅いし』


まどかが才賀に帰りたくないとせがんだときの、まどかの言葉だ。


「まどかさんの家だ! 三森夫人はそこに居るはずです。夫人が危ない!」


才賀は三森はじめに全てを説明した。才賀はひとりでまどかの家を探しに行こうとしたが、はじめは自分も行くと言う。


この時間、まどかの同級生が居そうな場所はどこだろうと才賀は考えた。今から夕焼け中学校へ行っても、誰もいないだろう。そうなると、次に思いついたのは塾だ。中学三年生なら塾に通っている生徒も多いだろう。夕焼け町にある塾は数が少ない。


直接行って、まどかの家を知っている生徒を探した。2軒目で、おおよそこの通りに住んでいると証言してくれた同級生がいた。


電車やバスを待っている時間が惜しい。距離も遠くないため、走って行くことにした。はじめは苦しそうに胸に手を当てている。


「無理しないでください。私ひとりで行きます」

「ここで行かずに晶子に何かあったら、絶対に後悔する。まだ走れます、ついて行かせてください」

「三森さん……」


才賀が三森夫人に話したせいでこのような事になったという負い目から、はじめを置いていく訳にも行かなかった。


まどかの家に行く途中、才賀は余計なことばかり考えてしまう。三森夫人が、ちよりや町屋のような目に遭ったら。幼い頃に母を亡くしている才賀にとって、三森夫人は才賀の第二の母だった。絶対に失いたくない。

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