第10話 本性
才賀は町屋の家から探偵事務所へ向かっていた。あそこは自宅を兼ねている。ベッドなどは置いていないから、いつも才賀は以前の住人が置いていったソファに寝ている。
雨が本降りになって、コンビニでビニール傘を買ってしまった。町屋の母からの電話で慌てて飛び出してきたため、天気を気にしている時間が無かったのである。才賀は自分に、これは仕方の無い出費だと言い聞かせた。
才賀は普段は通らない細道へ入った。なぜなら、方角的にこちらの道を通れば早く家に帰れると考えたからだ。
住宅の中に混ざって所々店屋が立っている。昔ながらの商店、塾、クリーニング屋。
店のシャターが開いたり、通勤、通学する人達が見られる。
バス停に立っている中学生の女子たちが、ヒソヒソ話しながら才賀の方を見ている。
才賀は自分がどこか変なところがあるだろうか、笑われているのではないかと不安と恥ずかしさ、情けない気持ちに駆られた。
しかし、バス停を通り過ぎたところで、彼女たちのうちの1人が「探偵さんですか?」と話しかけてきた。
「はい? そうですが」
(ここは、いかにも私が才賀探偵事務所の……とでも言えばよかったか?)
「道尾と一緒にいるところを見たんですけど、あいつ何からやらかしたんですか?」
彼女たちは、顔を見合せ笑いあっている。
才賀は、変な聞き方だなと思った。探偵と一緒にいるところを見たら、普通はなにか困り事を抱えているのかと心配するものでは無いだろうか。
「なぜ、そのように思ったんです?」
「だって、ねぇ」
「あいつとウチら、小学校一緒だったんですけど、マジで急にキレるし、ヤバい子だったから」
ボブカットの活発そうな子が口火を切った。
「学校で飼ってたヒヨコ殺したのも道尾でしょ?」
一見大人しそうなひっつめの子が付け足す。
「そうそう! 見たヤツいたもん。だからなんか悪いことして、探偵さんに調べられてるのかなって」
いちばん背が低くて負けん気の強そうな子が腰に手を当てて言った。
「何調べてるんですか? ウチらなんでも話しますよ」
才賀には、彼女たちが全員、正義感と言うより悪口大会を開きたいだけのように思えた。
「気持ちはありがたいですが、今は間に合っていますので。もし調査して欲しいことがあれば、才賀探偵事務所へ!」
そう言って、才賀は彼女たちに手を振りながら、その場を後にした。詳しく聞くほど有意義な話ではなかったが、少なくとも、まどかが才賀に見せていたのはほんの一面の取り繕った部分に過ぎず、怒りに任せて人を殺すはずがないとは言いきれないということが分かった。
それに殺人犯の過去を辿ると、まずはペットなど動物を殺しているという例がよく見られることを才賀は本を読み漁って知っていた。
世の中には意外と、行き当たりばったりの犯行が上手いこと警察にバレず長いこと見つからなかった例はある。
線と線が繋がっていく感覚。才賀はとにかく事務所に戻って考えを纏めたかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます