第2話
現場まではマイクが運転してくれた。いや、運転させた。
現場はパーティー会場だった。といっても、個人邸で行われたこじんまりとしたものだ。あたりにはクラッカーの残骸が散乱していた。テープの残骸をつまむ。こんなところで事件? とてもそうには見えない。
「それで通報されたのは、あなたですね?」
そこにはこのパーティーの主催者である女性が立っていた。見たところ、40代前半くらいだろう。後ろには同年代の男女が立っている。
「で、事件現場はどこですか?」
「刑事さん、これはどういうことですか? 事件現場にロボットだなんて!」
やはり、そうなるか。
「私はマイクと申します。こちらのとおりです」
マイクが警察手帳を見せる。まだ疑っているのが、表情にありありと浮かんでいる。
「まあ、警察ならどうでもいいわ! このロボットが人を殺したのよ!」
女性は隣にいるロボットを指す。マイクとは違い、かなりの旧型だ。全体的に錆が目立つ。
「ロボットが人を殺す、これはロボット三原則に違反しているわ。警察が事件性を調べて、早くこのロボットをスクラップさせてちょうだい」
「まあまあ、落ち着いて。それで、具体的にはどうやってロボットが被害者を殺したんですか? それが分からなければ、話は進みません」
現場に横たわる女性からは血は流れておらず、かといって薬品の匂いもしない。死因がピンとこない。何かに対する恐怖の表情をしている。
「簡単な話よ。このポンコツがクラッカーを鳴らしたら、心臓麻痺を起こして死んだのよ!」
「ちょっと待ってください。クラッカーの音なんかで心臓麻痺を起こすとは考えられません。もしかして、被害者には心臓の持病があったのですか?」
「ええ、そうよ。このパーティーは退院祝いだったの。彼女、心臓の手術が成功したから。それで、こいつにサプライズをお願いしたら、とんでもないことになったのよ!」
かなりヒステリックではあるが、状況が理解できてきた。もともと心臓が弱い女性にクラッカーを鳴らしたら、心臓麻痺で死ぬ。なるほど、あり得る話だ。ロボットが人を殺したことになる。だが、ロボットが心臓が弱いことを知らなければ、話は別だ。それは不慮の事故となる。
「失礼ですが、ロボットは被害者の心臓が弱いことは知っていましたか? つまり、サプライズの方法はロボットが選んだのか、あなたが指示したのかが知りたいのです」
女性はうつむく。何かやましい事情があるに違いない。しかし、一転して強い口調でまくし立て始めた。
「私はクラッカーでのサプライズを依頼しました。心臓が弱いのは伝えていません」
それなら話は早い。ロボットは心臓が弱いことを知らずにクラッカーを鳴らしたのだ。これは悲しい不慮の事故で片づきそうだ。
「では、後日、署で話を聞かせてください。不慮の事故とは言え、人が亡くなっているので」
「ちょっと待ってちょうだい! このポンコツは処分できないわけ?」
「まあ、ロボットが意図して殺したのではありませんから、三原則には反していません」
定型的な回答をする。
「それはおかしいわ。現に人が死んだのよ! こいつを処分しなきゃ、腹の虫がおさまらないわ」
どこかおかしい。この女性は何がなんでも、このロボットを処分したいらしい。
「隼人さま、よろしいでしょうか?」
「ああ、マイクか。すっかり忘れていた。で、そこのお友達としゃべって、時間を浪費していただけじゃないよな」
もし、無駄に時間を使っていたのであれば、上層部に報告してこのヒューマノイド型ロボットを追っ払う口実の一つになる。
「それが、このロボットと会話していたら、最近、ご主人様にメンテナンスしてもらってから、体が重いそうです」
「はあ? お前はそんなくだらないことを話していたのか!?」
素人のメンテナンスには限界があるし、変にどこかをいじってロボットが異常を感知するなんて、よくあることだ。
「あのな、マイク。俺たちはそのロボットの体重を知りに来たわけじゃないぞ」
「隼人さま、話には続きがあります。体が重いだけではなく、胴体の中に何かが入っている感覚がするようです」
「そりゃ、ロボットだ。部品が入っているだろうよ」
もうやけくそだ。だんだん、マイクに腹が立ってきた。目の前にいる主催者の女性の気持ちが分かってきた。俺もマイクをどうにかして、追っ払いたいのだから。
「今、このロボットに許可を得ました」
「なんの?」
「電源をオフにして、胴体を開くことについてです」
「勝手にしろ。だが、人のロボットだ、壊すなよ」
やはり、ロボットに刑事なんか務まらないのだ。最後には長年の勘がものをいう。
「ちょっと、人のロボットに何するのよ!」
女性がマイクの腕をつかむ。二人揃って床に倒れる。ガシャーンと嫌な音が響く渡る。思わず耳に手をやる。
「冷静になってください。ただ、ロボットの中を調べるだけですから」
この女性、さっきからロボットを処分することに執着しているし、触っても欲しくないらしい。おかしい。
「マイク、そのロボットの胴体を開けろ! 今回の事件の糸口があるに違いない!」
俺は女性を床に押し付けながら言う。
「それでは、失礼します」
マイクの繊細な手がドライバーに形を変えて、ロボットのねじをゆっくりと回す。胴体に入っていたのは部品と――袋に入った白い粉だった。
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