♯32 社会人と学生の恋愛①
「ただいま」
「おかえりなさいっ!」
家に帰ると、すぐに
「本当に早く帰ってきてくれたんですね!」
「今は生臭いからくっかないほうがいいよ」
「値下げで慣れてるから大丈夫です!」
いつもにも増して
ちょっと明日のことは言いづらいな……。
「
「見つける?」
リビングのテーブルの上には求人票が置いてある。
その求人票を横目で見ながら、ゆっくりと
「どうしたのこれ?」
「ほらー! 鮮魚部門のアルバイト募集してますよ!」
「あー、そういえば店長が募集するって言ってたような……」
「えへへ~、応募しちゃおうかなぁ」
勤務時間は夜17時~20時。時給はかなりお安め。
学生アルバイト大歓迎の文字が一緒に添えられている。
「いつから働けるかなぁ」
テーブルの上には履歴書が置いてある。コンビニかどこかで買ってきたのだろう。
少し前に話した暗黙のルールの話を忘れてしまっているようだ。。
「
「……」
ボールペンを握ろうとしていた
「じゃ、じゃあレジ部門にでも……」
「どうしたの? そんなに急いでアルバイトなんてしなくていいのに」
「……」
俺の言葉に
社会人の俺からすれば、そんなに急いで働かなくていいのにと思ってしまう。
今しかない学生の時間を、アルバイトなんかしてないで全力で楽しんでほしいなと思ってしまう。
「す、すみません……」
「謝ることではないけど……」
「
「……」
「俺、
しばらくすると
「連休になると、一番近くにいるはずなのに一緒にいる時間が前よりも少ないような気がしてしまいまして……」
「……」
「それに悔しいんですもん」
「悔しい?」
「私の知らない
「それはごめん……」
職場の人間との時間のほうが、家族と過ごす時間よりも長くなる。
……確か、
「なんで! なんでダメなんですか! 私が、私が本当は!」
「ごめん……」
謝ることしかできない。
これは間違いなく事実だから……。
俺は
少しでも落ち着くように髪の毛を撫でた。
「うぅ……」
俺が思っているよりも、俺と
俺が過ごしていている一か月間よりも、ずっと色んなことを感じていて、ずっと色んなことを考えていたのかもしれない。
「ほら、泣かない! 明日、お父さんとお母さんが来るんでしょう」
「うっ!」
「目、真っ赤にしたままだったら心配されちゃうよ」
「それは嫌です……」
「うん、明日は元気な姿を見せてあげよう」
「はい……」
……明日はやっぱり
「
「は、はい!」
「今日さ、昔お世話になった人に会って――」
※※※
次の日になった。
……正直、今しかできない仕事をやりたい気持ちは大いにある。顔合わせなんていつでもできるじゃんという気持ちもある。
だが、今日は
そうこうしていたら、うちのアパートの駐車場にうちの親の車がやってきた。
何年も乗っているボロボロの普通車だ。
「あら~、
「
車から出てくると同時にオフクロと親父にそんなことを言われた。
実の息子に言う台詞じゃねーよ。
しかも予定時間よりも一時間も早く着きやがって。
それに、できればもう少し
だって――。
「なにそんなにムスっとしてるのよ!」
「そうだぞ
「そうよ! 笑顔笑顔!」
「笑う門には福来るだぞ」
もう既にうるさい!
うちの家族は非常に賑やかだからだ!
こっちは今、そんなテンションじゃないっていうのに!
「絶対に! 絶対に
「分かったわ! 絶対に言わないから!」
「フリじゃないからな!」
「ぜーーったいにしなから!」
母親の鼻息が荒くなっている。
不安しかない。
両親はお笑いが大好き。
いっつもノリと勢いだけで生きているような人間だ。
こんなのが、
「お父さん!
「おう、任せろ
「本当にフリじゃねーからなッ!」
嫌だ嫌だ。本当に
うちの両親を見たら
ただでさえ、今の
(
ないないない!
ないとは思うけど、そういった悪い妄想が膨らんでしまう。
「地面を足でドンッってやったらジャンプしないとね」
「うんうん、分かったか
「アパートだからなッ! 下の階の人に迷惑になるから!」
頼むから空気読んでくれぇ……。
今日の俺はこいつたちを押さえつけないといけない。
(はぁ……)
心の中で溜息をついていたら、早くも部屋の前に到着してしまった。
「は、はははは初めまして!
ドアを開けると同時に
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