♯34 水野チーフと江尻風香
「なーーんで結局来てるんですか!」
鮮魚の作業場の後ろにあるパソコンで仕事をしようとしていると、すぐに
「なんで怒っているのさ」
「来ないって話を聞いたときは安心したのに! 今日は大切な用事があったんじゃないですか!?」
「大切な用事だったけど、店長に呼ばれたら来るしかないじゃん。俺も売り場計画の修正をしたかったし」
「そ、それはそうかもですが!」
俺だってとても複雑だ。
仕事に集中したい自分と、
「
「……分かってるよ」
「分かってるならなんで!」
「俺、チーフだからさ。チーフとしてみんなの仕事を守らないといけない。数字が落ちたら人員の削減にもなる。賞与だって減らされちゃう。そのための対策会議でしょう」
「それは分かりますが、それって自分のプライベートなことよりも優先するべきことなんですか!? チーフがそこまで犠牲になることなんですか! 二人はまだ正式に付き合って一ヶ月程度ですよね! 本当にそれでいいんですか!?」
だから分かってるって。
……それに、
本当に優しいんだから。
「それは分からないけど……。けど、俺も仕事をやりたい気持ちもあったから」
「どういうことですか?」
「今の自分のルーツになった人がライバル店にいるんだ。みんなが慕ってくれている今の俺はあの人のおかげかもしれないから。その人を越えられる最後のチャンスかもしれないから」
「うぅー!」
それくらい俺たちのことを思って怒ってくれている。
「ふんっだ。よく分かりませんけど、私はそんなの関係なしに
俺があの人に言いたかった台詞を
「私、決めましたから! 最速でサブチーフになってチーフのことをちゃんと休ませるって! 誰よりも優秀なサブチーフになってみせますから!」
「ぷっ……」
笑いが漏れてしまった。
良い奴すぎるよ
俺って本当に周りに恵まれている。
ずっと上司には恵まれているとは思っていたけど、まさか部下にも恵まれることになるとは。
……いや、この場合は友達かな。
俺も
「
「はい!」
(ごめん今だけ……。今だけだから)
ライバル店のリニューアルオープンまでおよそ一ヶ月弱。
色んな意味での俺の戦いが始まった。
※※※
「今日は本当にすみませんでした! うちの両親に失礼はなかったでしょうか?」
『全然! とても楽しいご両親でしたよ! 一緒に焼肉を食べにいっちゃったんだから』
会議の休憩時間。
「すみません、今日はまだ帰れそうになくて……」
『気にしないで、
「本当にすみません」
『お仕事頑張っているほうが家庭は円満に行くよ。私は応援しているからね』
「ありがとうございます……」
思えば、この人はずっと俺たちのこと応援してくれているような気がする。
『
「そんなことないです。
それがありがたくもあるし、申し訳なくなるときもある。
「あの……! 仕事が落ち着いたら、遊びに行ってもいいでしょうか!」
『歓迎! 歓迎! いつでも来てよ!』
「ありがとうございます!
『うふふふ、実は今日、
「はい!?」
その展開は予想していない。うちの親には後で詳細を聞いておかないと。
『それでね、
急にお母さんの声色が真剣なものに変わった。
『
「……」
『
「はい……」
少し涙が出そうになってしまった。
お母さんや
(言おう……!)
突発的な衝動だったがどうしてもその言葉を
今度は値下げされる前にちゃんと俺から言おう。
俺がもし
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