♯26 応援に来るあの人たち 前編
「ごるぁ!
「うるせぇぞ
ゴールデンウィーク初日。
鮮魚作業場に怒声が響き渡る……。
本日の応援者は
朝から何故か、
「ちっとも変ってねぇなお前はよぉ。全然成長してねぇじゃんか」
「そういうお前は相変わらずしけた面しながら仕事やってんな、
「お前がにやけながらやっているだけだろうが!」
「客商売やってるんだからもうちょっと愛想よくしろってんだ」
親父同士が煽り合いながら仕事をやっている。
だが、作業のスピードはお互い競い合うようにしてやっているので異常に早い。
俺にはあのスピードで魚を切ることはできない。
「……」
っていうか
元から技術はすごい人だと思ってたけどさ!
「こーにしさんっ! お久しぶりですっ!」
「おっ、
「そんなことないですよ~。もー、誰にでもそういうこと言うんだから」
「いいなぁ、なんで
「
応援に来た人とは思えないほど、うちの作業場の雰囲気を掌握している。
「サブチーフも可愛いし……」
「わ、私ですかぁ!?」
急に
「えへへへ、久しぶりにそんなこと言われちゃったなぁ」
「鮮魚にこんな可愛い子がいるって知らなかったよ~。俺、あっちの店やめてこっちに来ようかな」
「えー、そんなー……」
あ、あの
顔がたらこみたいにほんのり赤くなってしまっている。
ダメだ、
「
「そ、そうですよね!」
もしかしてかなりチョロい人なのでは……? 良い意味でいうと純粋というか。
「ほらー!
「そんな話は一切なかったですよねっ!」
俺もつい食い気味に大きな声が出てしまった。
※※※
お昼の十二時。
他の部門の方には休憩に行ってもらった。
今、作業場にいるのは俺と
久しぶりにむさ苦しい鮮魚作業場になっていた。
「
「特にトラブルなくやってます」
「そっか、向こうの店はみんな二人のことを心配してたよ」
「えー、じゃあ近くに行ったら寄ってみようかなぁ。
「なんでだよ!」
今日の仕事は順調すぎるくらい順調だ。
というか、この二人の仕事はほとんど午前中に終わってしまった。
ベテランの本気を初めて見た気がする。
「ん?
「知ってるよ。だってうちの値下げちゃんだったから」
あっさり
まぁ、いいか……。
どうせ
「へぇ~、うちの娘とチーフの彼女って友達みたいなんだよね」
「娘って何番目の?」
「三番目。今年、大学一年生」
「もうそんなになるのか」
今日は
「お二人は一緒に働いていたことがあるんですか?」
「一緒に働くもなにも同期だよ。俺と
「はぁ!?」
初めてその話を聞いた!
確かにそう考えると、
「こいつ、馬鹿でなぁ~。女に手を出してばっかりいてさ」
「お前には言われたくないよ。レジの
え!? それも初耳だ。
次から次へと新情報が出てくる。
「
「特に変わりなく。ぶくぶく太りはしたけど」
「えー、俺たちのアイドルの今日子ちゃんがー……」
この二人の話は面白いな。仲悪いとは聞いていたけど、なんだかんだで親し気に会話をしている。
「チーフと一緒に仕事しているとラクでしょう? なんでもやってくれるし」
「俺はお前と違って、チーフになんでもかんでも任せてねぇよ!」
そうだ! もっと言ってやってくれ!
俺の作業段取りが悪かったところもあるけど、今日の本気の仕事を見ると昔を思い出して段々腹が立ってきた。
「本当に
まさかこのタイミングでその名前を聞くことになるとは思わなかったからびっくりしてしまった。
「
「そりゃあ、この会社に長くいれば鮮魚の人間で知らない人はいないよ」
普段ならこのへんで雑談もほどほどにして仕事に戻るのだが、もうちょっとだけ二人の話を聞きたくなってしまった。
「
「俺たちにカッコつけたかったんだろうなぁ」
「え?」
「
か、カッコつけって……。
言われてみれば、確かにそういうところはある人だったけど。
「
「その話はやめようぜ。真面目にやっている
……なんとなく察しがついてしまった。
二人とも昔はチーフをやっていたと聞いている。
もしかして
「師匠と弟子の関係を気にするところなんてそっくり」
「うっ」
「師匠と弟子って?」
「
「ただのハーレムじゃねーかッ!」
またしても
そろそろ雑談もほどほどにしないと。
最後に、俺は今まで一番気になっていたことをこの二人に聞いてみることにした。
「……ところでお二人は
「知らないよ。風の噂では別会社の鮮魚部門に行ったとは聞いたけどね」
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