♯15 恋人としての白河さん①
「うぅ……」
四月七日。
リニューアルしてから初めての休日。
連日の早朝出勤による寝不足と疲れ。
もうお昼前になるが、俺は布団から出れずにいた。
今日はバイヤーの最終応援日。つまりは俺が休日を取れるラストチャンス。今日はしっかり休んで、また明日から仕事を頑張らないといけない。
キッチンからは
結局、仕事が忙しくて
四月一日は家に帰ったら、もう
「
「んー……もうちょっと寝てる……」
「はーい」
サークルとかは考えているのだろうか……。
最近は仕事ばかりで
(……)
「……やっぱり起きる」
「えぇえ!? お疲れなんですから寝てていいんですよ!?」
「大丈夫、一緒にご飯食べよう。手伝うよ」
なんとか立ち上がって、
体が痛い。頭がボーっとする。
「いいですから! ご飯は私が用意します!
「でも……」
「でもじゃないです! 彼女のことあんまり心配させないでください!」
「まったく!
「そんなことはないけどなぁ……」
「
「そんなに大層なことはしてないけどなぁ……」
「惚れ直したとも言ってました」
「なに言ってんだあいつ!」
「惚れ直したとも言ってました」
「なぜ二度言った!?」
(ま、まずい!)
その声を聞いて、霞がかった頭がどんどん晴れていく。
本能が今すぐ起きろと告げている。
「でもいいなぁ~、楽しそうだなぁ、鮮魚のお仕事」
「け、決して楽しいものではないけどね……」
「でも、
「……そ、そんなに
「毎日、メッセージのやり取りしてます」
な、仲良いな……。とても喜ばしいことだと思うが、内外、油断できない状態にもなっているような気がする。
「
「しないしない。するわけがない」
「サブチーフの
「なんで名前知ってるのさ!?」
予想外の名前がでて飛び上がりそうになってしまった
絶対に密告者はあいつだろ!
そんな会話をしながら、なんとも言えない表情のままの
メニューはご飯に味噌汁に野菜炒めの他数品。
一緒に暮らすようになってから、
「ところで
「まだ全然決めてないです。あっ、でも新歓コンパには誘われました」
「新歓コンパぁ!?」
社会人ではあまり耳にすることがないその言葉。
大学に行ったことのない俺は、その響きにとても不穏なものを感じてしまう。
「行くの!?」
「どうしようかなぁと思いまして」
「お酒は飲まないよね?」
「未成年なので飲めないです、飲まないです」
真面目な
「行くなら送り迎えしようか?」
「
「いや、前もって言ってくれればその日は早めにあがるようにするし」
心配だ。
非常に心配だ。
この前、売り場に来たときも可愛いって言われてたもんな……。
彼氏というフィルターがなくても、
この前は、
「心配ですか?」
「とっても心配」
「えへへへ」
「……狭くない?」
「一緒に並んで食べたいんです。いただきます」
「あっ、いただきます」
広い部屋なのに、何故かわざわざ二人寄り添って昼食を取ることになった。
※※※
「私、これ一度やってみたかったんですよ!」
「……」
上から
横を見ると、
「頭、痛くないですか?」
「痛くはないけど……」
俺の頭は
俺は今、
「なんだかこうしていると
「うん……」
少しばかり気恥ずかしい。
まるで子供をあやすかのように、
まさか俺の人生で、年下の女の子に膝枕をされる日がくるとは思っていなかった。
「
「本当かなぁ……」
「私、
らしくない強い口調で、はっきりと
「じゃあ安心……なの……かな……?」
「はい、安心してください」
ほっとしたからかな……また瞼が重くなってきた。
やっぱり、まだちょっと寝足りなかったみたいだ……。
「
「うーん……トラブルというか、ちょっとすれ違いみたいなのがあって……。
回らない頭のまま、ただ思ったことが口に出る。
「眠たいならそのまま寝ちゃって大丈夫ですよ」
「うん……」
「私、お仕事の愚痴ならいつでも聞きますからね。
「うーん……あんまり愚痴っぽいと男として情けないというか……」
「そんなの気にしないでください。私は
「そっか……分かった……」
ぼんやりと会話をしながら、俺はまどろみに身を任せてしまった。
「……でも、そんな
一瞬だが、ほんのちょっぴり唇に暖かくて柔らかい感触がしたような気がした。
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