♯12 白河さんの新店視察
その後は特にトラブルもなく、仕事は進んでいった。
売上の進捗も上々。
今日は問題なく予算は達成できそうでひと安心だ。
「大盛況だね、この感じだと早く帰れそうだね」
上機嫌の青沼バイヤーが俺にそんなことを言ってきた。
今は午後の三時。
売り場は大体決めて、作業は明日の仕込みに入っていた。
ちなみに
「ですね、あがれる人からあがってもらいましょう」
「うん、
「ちなみにバイヤーはいつまで応援なんですか?」
「一週間くらいはこっちにいる予定だよ」
ということは、一週間後から作業はきつくなるな……。
一応シフトは作ったが、俺休める日あるのかなぁ。
「あれ?
「へ?」
急に
いや、誰かとじゃない! どう見ても
お父さんとお母さんもビシッと正装をしている。
こうして客観的に見ると、すごい良い所の家族に見えるな……。
品があるというかなんというか。
「
「ねー、あのスーツの子めっちゃ可愛いね」
女性陣からもそんな声が聞こえてきた。
「ん?」
作業場のガラス越しに白河家のことを見守っていたら、
「あれ? 誰かの知り合い?」
「すみません! ちょっと俺も行ってきます!」
みんなにそう言って、俺も売り場に向かうことにした。
「チーフ!
「あっ、すみません! ありがとうございます!」
「すみません、気を使わせてしまって! 今日は大切な日なのにすみませんでした」
頭にかぶっていた衛生キャップを外して、
「ううん、忙しい所ごめんなさいね!
「私は言ってないでしょう! お父さんが
お母さんにそう言われて
後ろでどっしりと見守っていたお父さんに矛先が向いてしまった。
「いや刺身でも買おうと思って……」
「あっ、じゃあ今から切りますか? 今日は
「いや、売り場にあるの買っていくから大丈夫だよ。
「それにしても本当に綺麗な売り場ですね! 前の店とは全然違います」
「でしょう。商品もいっぱいだから値下げも大変だよ」
まるで遊園地のアトラクションでも眺めているかのようだ。
「
「いや、
「それは黙っていてください!」
ついツッコミを入れてしまった。
「
「すみません、仕事の進捗次第なのでなんとも……」
「残念、みんなで食事でもと思ったのだけど」
「ほら! お父さん、お母さん! もう行くよ!
「も~、もっと
「後で話せばいいでしょう!」
「それじゃ
「うん、また後で」
「はい!」
そう言って
「……」
「“あっ、スーツ似合ってるって言うの忘れた”」
「勝手にアフレコするな」
仕事も順調だし、今日は早く帰れるといいな。
……そんなことを思っていたら事件が起きてしまった。
※※※
「
作業場に戻るとすぐに怒号が飛んできた。
この声はサブチーフの
「は、はいっ!?」
鮮魚作業場に響き渡る声に、
「特定のお客様と仲良くするのは良くないんじゃない!?」
「え?」
かくいう俺も、何故
「売り場にあんな風にしていたら他のお客様の邪魔になるでしょう!」
あー……ようやく状況を理解した。
売り場で特定のお客さんと親しくしていたのがダメだったのか。確かに
「すみません、
顔を伏せてしまっている
それを言われるなら真っ先に怒られるべきなのは俺のはずだ。
「チーフもああいうのは良くないと思います! 他のお客様も店員が特定の人と親し気に話しているのは気分が良くないと思います」
「……すみません」
詰め寄るような口調で
かなり固いなぁとは思うが、
……お店の接客マニュアル的にも綾瀬さんの言い分はおそらく正しいだろう。
でも――。
「お言葉ですが、あれくらいではお客様のご迷惑にはならないと思います」
「確かに友人が来ていて私の対応は良くなかったかもしれないです! でも、
「……
「二年目ですが……」
「ふーん」
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