♯11 リニューアルオープン!
“それではインター店リニューアルオープンです!”
店内アナウンスが店中に響き渡った!
このアナウンスの声はレジ部門の統括の人の声だ。
はきはきとしてとても聞き取りやすいアナウンスだ。
「いらっしゃいませー!」
「いらっしゃっいませぇー!」
今日は主に本部の人間が売り場に出て、盛り上げ方をやっている。
普通では中々見ることのできないほど売り場が活気づいている。
「メバチマグロの角切り、すぐなくなると思うから、補充できるようにスタンバイしていてください!」
鮮魚部門、メインの平台はメバチマグロの角切り詰め放題が繰り広げられている。
青沼バイヤーと
こういうときの
鮮魚部門の入り口のところが一気に華やかになっている気がする。
「チーフ、これから忙しくなるね」
一旦、作業のほうが落ち着いたので、今日初めて切身をしている小林さんに声をかけられた。
年齢は確か六十二歳だっけ。前の店の
「そうですね、小林さんのお力も沢山お借りすることになってしまうと思う」
「
作業をしている手は休めないまま、小林三郎さんが話を続ける。
「……
「もう五年くらいになるかな、チーフが前にいた店の小西さんとも一緒に仕事をやっていたことあるよ」
「そ、そうですか、小西さんとは親しくさせてもらってました」
「俺は仲悪かったけどね」
三郎さんの目元が優し気に笑った。かなりの強面だが、声色がとても優しい。初めて話す方なのに何故かとても話しやすい。
「計画だとこれからどれくらいの売上で見ているの?」
「前年比110%くらいでみてます。でも多分、それも厳しいと思ってます」
「冷静な分析だねぇ」
――リニューアルオープン。
売り場が綺麗になって、商品の品揃えも増える。
これだけ聞くと良いことづくめだと思うだろう。
でも、実際に働く我々にとってはそうではない。
今はバイアーたちが本部から応援にきているがその後は……?
店舗にいる人間だけでこの綺麗な売り場を維持しなければならないのだ。
それは商品の品揃えであったり、売り場のクオリティであったり。
もちろん清掃面等も含めて全てだ。
それができなくなった瞬間、売上はリニューアル前のものに戻ってしまうだろう。
リニューアルって言っても、結局は商圏が変わるわけではない。
どんなに良い売り場を作っても、100のお客さんしかいない場所が200に劇的に変わるなんてことはあり得ないのだ。
そこを間違えると発注や在庫だけが多くなって利益が取れなくなる。
売り上げと利益のバランス。
これはスーパーで働く俺たちにとって永遠の課題なのかもしれない。
「リニューアル前は前年比90%切ってましたよね?」
「うん、ちょっと足を伸ばせば全国規模の大型スーパーができちゃったしね」
「あそこは競合店としては強すぎますよねぇ」
つまるところ、今回のリニューアルは老朽化している店舗の改築。
そして落ちていく売上に対するテコ入れだろう。
まぁ、そこまでは一社員の俺がそこまで考える問題ではないのだろうけど。
「ところでチーフ」
「はい?」
「
「はい!?」
急に三郎さんが話題を変えてきた。
「あっ、私も気になってましたー!」
後ろで詰め物をしていた
「そう見えますか?」
「見える」
「前も同じ店だったから仲良いだけですよ……」
「「「へぇ~」」」
今度はお刺身を切っている
「なんですか! やっぱり皆さんそういう話大好きじゃないですか!」
「いや、美男美女同士でお似合いだなぁと思って。二人ともモテるでしょう」
「
硬派な人かなぁと思ったけど誤解していたようだ!
きっと
「はぁ、うちのサブチーフにもそういう話があればちょっと違うんだろうけどねぇ」
「
「そうそう堅物だから。
そっか、
……それはそれでちょっと
「恋人でもできれば仕事の見え方も変わるかなぁと思うんだけどね」
「……それ、俺も前の店で似たようなこと言われたことあります」
「ところでチーフは彼女いるの?」
ふと
この話の流れならそのズバリ聞かれると思ったよ……。
大体はどの店に行っても最初に聞かれる質問だ。
(……)
……少し前までなら秘密にしていたんだけどな。
でも、今日から彼女は大学生だ。隠す必要も意味もないだろう。
「はい、いますよ」
「えぇええ!? どんな人!?」
間髪に入れずに女性陣が食いついてきた。
「ほら! あれでしょう! 実は
「だから違いますって!」
やっぱりどこの店もこの手の話は大好きである。
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