♯10 作業場の雰囲気
朝の五時前。
鮮魚作業場は戦場と化していた。
「小林さん! お刺身のサクが足りないみたいなので、そこの作業を終わったらまたお願いしてもいいですか?」
「分かりました」
「
「は~い」
新しい鮮魚メンバーに指示を出しながら、売り場を着実に埋めていく。
この店では切り身をベテランの小林さんに任せているらしい。
今日は切り身のまな板には、
お刺身には、パートの
詰め物担当は
俺は商品の値付け&売り場管理。
忙しいには忙しいが、作業の進捗は非常に順調だ。
「
「はいはい」
サブチーフの
このメンバーと本格的に仕事をやるのは初めてだが、作業の動きや段取りを見て大体の力量は分かった。
なるほど、かなり優秀なメンバーがそろっている。
チーフの俺が細かい所を見なくても作業は順調に進んでいく。
これはサブチーフの
でも――。
「……」
「……」
「……」
「……」
空気が非常に悪いんだよなぁ……。
全く日常会話がない。
ただ黙々と全員が必要不可欠なコミュケーションだけをして仕事をしている。
まるで早く仕事を終わらせたいがために、急いで仕事をしているみたいだ。
それって決して悪いことじゃないのだけど、どこか作業場の雰囲気に違和感を感じてしまう。
「
「気づいた?」
売り場で品出しをしていたら、
「インター店、めちゃくちゃ空気悪いでしょう!」
「ま、また答えづらいことを!」
青沼バイヤーがケラケラと笑っている。
あっ、この人この状況のこと知ってたな。
「みんな仕事はできるんだけどさ、なんかこうスーパーらしくないっていうかさ」
「た、確かに」
「工場みたいでしょう? 普通はリニューアルっていったらもっと和気あいあいとやるものなんだけどねぇ」
「ですよねぇ……俺が前に応援でリニューアル店舗に行った時もそんな感じでした」
業務内容自体は非常につらいリニューアルなのだけど、普通はどこか明るい雰囲気に包まれる。
新しい売り場、新しい備品、綺麗になった店舗に華やかな宣伝広告。
その店舗で働くということは、少し大げさ言い方になってしまうが希望に包まれたみたいな感覚は少なからずあると思う。
「はっきり言うと、ここの店舗はサブチーフに問題ありだから」
「あーー! 言っちゃいましたね! 俺も薄々そう思ってましたけど!」
バイヤーがど真ん中直球を投げてきた!
「
「なるほどです……」
「というわけで、どっちも育ててあげてね
「と、とんでもないプレッシャーですって!」
「大丈夫!
「俺にならってどういうことですか!?」
「だって、あのクセつよの
「それはそれでその二人に失礼な気がしますが……」
実に鮮魚部門の人間らしい青沼バイヤー。話す言葉に裏がなくいつもあっけかんとしている。
(誰かを育てるか……)
俺にそんな大役が本当に務まるんだろうか……。
※※※
「疲れた~」
時間は朝の七時過ぎ。
朝ごはん休憩を取るために、
俺と
「
ピカピカの休憩所のテーブルには、他の部門の人も食べるだろう朝ごはんと差し入れが沢山置いてあった。
リニューアルなどのイベントがあると、休憩室には沢山の差し入れが置いてあったりする。
「寝不足はお肌の敵なのに~」
「めちゃくちゃ余裕あるじゃん」
軽口を叩く
「
「本当ですかぁ~!? 私、ただ
「値付けのパックに販促シール貼ってもらうだけでも全然違うんだって。すごく助けてもらってるよ」
コーヒーを飲みながらそんな会話をする。
静かな作業場だったから、今日はこんな風に話すのは初めてだ。
「鮮魚って、こんなに静かなものなんですか?」
「うっ」
「前の店の青果はもっとやかましかったですよ」
「やかましかったって」
まぁこれに関してはまだ初日だし、俺からできることはまだないだろう。
「宴会部長の
「おっ、いいんですか。鮮魚部門を私色に染めあげても」
「汚い色になりそう」
「どういう意味ですか!」
とりあえず人がどうのこうのは、このリニューアルオープンを成功させてからだ。
開店までおよそ残り三時間。いよいよそのときがやってきた。
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