後日談 私はこんな風にしたのは誰ですか?
「
「もう少しです!」
三月の下旬。
今日は
荷物の運び出しが終わって、今は部屋の整理をしている真っ最中だ。
新しい住まいは、俺が新たに配属された店舗と
「二人分の荷物って意外に多くなるなぁ。あまり荷物は増やさないようにしてたんだけど……」
「そうなんですか?」
「うん、異動もあるし、引っ越し代も馬鹿にならないしね」
特にこの三月のお引越し屋さんは繁忙期なので料金が高い!
なので、俺は今までは自分のクルマの往復で済むくらいの荷物しか持たないようにしていた。
でも今年は違う。
初めて親元を離れる
ついさっきも、
「足りないのは後でホームセンターとかで買ってこようか」
「
「何が?」
「お引越しが手慣れてます」
「この仕事をやってるとそうなるだけじゃないかなぁ」
俺のお引越しを伴う異動はこれで三度目だ。
二度も三度もやっていればそりゃ慣れてくると思う。
普通は引っ越しなんて、人生に何度もあるものじゃないしなぁ。
「
「お父さんが明日は仕事だからそのまま帰るって言ってました」
「そっか……」
さっきまでは騒がしくしていたのだが、今は部屋に二人きりだ。
……
「
「
「俺はこっちにこのまま寝泊まりする予定」
「わ、私もそのつもりだったんですが……」
「……」
「……」
お互いに気まずい雰囲気が流れる。
三月いっぱいは名目上、
変な気を起こさないようにしないと……。
そもそも俺たちキスすら――。
「よし! じゃあ早く片付けちゃおうか!」
「は、はい!」
「終わったら近所の散策ついでに何か食べいこうか」
「わっ、楽しそうです!」
うぅ……この同棲は思ったよりも大変になるかもしれないぞ。
※※※
「
「台所でいいんじゃない?」
「分かりました」
「……これから一緒に住むんだから自分が良いと思うところに勝手に置いていいんだからね」
「すみません」
お互いが片付けに集中すると、ついスーパーの作業場みたいなやり取りになってしまう。
相変わらず
多分、癖なんだろうなぁ。
どうにかして崩してやりたいとは思っているんだけど。
「……
「えっ!?」
「これからずっと一緒にいるのに敬語はおかしいでしょう」
「そ、それは分かっているのですが……」
「早速、敬語だし」
「あっ」
思ったよりも重症っぽい。
「
「な、なんでしょ……なーに?」
下手くそ! あまりにも不自然すぎる。
まぁ、こっちは
「お互いに遠慮しないこと。言いたいことはちゃんと言うこと」
「は、はい!」
返事が固い。
もうちょっとラクにしてもらわないと、これからが大変そうだ。
「
「
「普通だって」
俺がそう言うと、
「ん? どうしたの?」
「……」
自分からこっちに来たくせに、
この雰囲気はどこかで見たことがあるような……?
「
緊張からか、
正座でじっと俺のの反応をうかがっている。
「急にどうした!?」
「や、やりたいことがあったらって言ったじゃないですか!」
あっ、そうだ。
この感じは最初の値下げ発言のときに似ているんだ。
「……はいはい」
今度はちゃんと伝わったので、俺は
彼女の体がすっぽりと俺の胸の中におさまる。
「あ」
※※※
「おーい! 早くやらないと終わらないぞ! 大学の準備もあるんだろう!?」
「もうちょっとだけお願いします」
それから小一時間が経ったが、一向に部屋の片付けが進んでいない。
それもそのはずだ!
だって、俺はずっと
「動きづらい……」
俺が行く方向に、わざわざ
いつの間にか
これじゃ恋人同士というより、コアラの親子みたいだ。
「もー、ちゃんとやれよ」
「……私、どうやらぎゅーが好きみたいです」
「
「私はこんな風にしたのは誰ですか……?」
また
「白河さん!」
「は、はい!」
「早くそっちの片付けをやって! ご飯に行けなくなっちゃうでしょう!」
「わ、分かりました!」
俺がそう言うと、
「私、チーフに
「なんで?」
「分かりません! でも私、
「俺はプラベートでチーフって呼ばれるのは嫌だけどな……」
「ふふっ、じゃあ気をつけるね」
おっ、ようやく自然に敬語を崩してくれた。
「
「……」
付き合う前に抱きしめてしまったのが悪かったのかもしれない……。
(キスかぁ……)
今はそのことは考えないようにしよう。
しばらく悶々とする日が続きそうだ。
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