♯39 お酒の力とぎゅー 前編
早いもので忘年会当日。
今日は仕事を早く切り上げて、みんなでいつもの居酒屋に来ていた。
「鮮魚部門の皆さんはあちらの席でーす!」
夏のときも思ったが、新人なのに異常に手際が良い。
「
「早く帰りたい……」
「ひどい」
今日はみんながいるのに、
「チーフ、お隣いいですか?」
なーんでこうなるのが分かっているのに、
「ほらほら! 後ろが詰まってるんだから行くよ!」
「よし、今日は飲むぞー! 俺はあっちの席に――」
「
「チーフだけずるくない……?」
※※※
うちの店舗の忘年会は比較的気楽な感じで行われる。
飲み食いするならアルバイトが来ても誰も文句は言わないし、忘年会あるあるの出し物もしなくいい。
飲み会の雰囲気は、店長次第なところがある。
これが少し固い店長になると社員のみの飲み会になったり、部門ごとに出し物をしたりしないといけなかったりするところもある。
「それでは、皆さん! 年末に向けて頑張りましょう! 乾杯!」
最初の乾杯の音頭が終わったら、後はみんな自由にに飲み食いをするだけだ。
お座敷の長テーブルには鮮魚部門が固まっている。
場所的には
みんなは気にしていないが、これは俺なりの気遣いでもあった。
職歴が一番長い
俺の隣には
その対面には、
「あの、折角の機会なので皆さんにお話ししたいことが」
「どうしたのチーフ?」
俺がそう言うと、口をつけたグラスをみんながテーブルの上に置いてしまった。
しまった! 思ったよりも真面目な雰囲気になってしまった。
「あっ、すみません。お酒を飲みながら聞いて欲しいんですが」
いつもは恥ずかしくてこんなこと言えないけど……。
今日は、お酒の席の力を借りてみんなにあるお願いをすることにした。
「今年の年末は俺を助けて下さい! お願いします!」
そう言って、みんなに頭を下げた。
去年の年末は俺一人でやろうとして失敗してしまった……。
「今年の年末もまた過酷なものになると思います。去年は、皆さんに負担をかけまいとして一人でやろうとして失敗してしまいました」
去年の俺は仕事に対してかなり後ろ向きだった。
全部一人でやったほうが精神的にラクだと思っていた。
……でも、今年は、いつも真っ直ぐで一生懸命な彼女が俺の仕事に関する考えを少し前向きにしてくれた。
「なので、今年は皆さんの力を貸してください! お願いします!」
「えっ? 今更?」
真っ先に俺の言葉に反応してくれたのは、去年一番ボロボロになった
「今年は私にとってもリベンジの年でもあるので言われなくても頑張りますよ」
「
お酒をぐいっと飲みながら、
「チーフは真面目だなぁ」
「うん、真面目過ぎると思う」
「そ、そうですか?」
「どの店舗でも年末はみんなイライラしてるから。いちいち気にしてたら身が持たないよ」
いちいち気にしていたら身が持たない――。
それはこの前、俺が年下の
この人たちから見れば、俺も年下のただの若造なのかもなぁ。
「じゃ、じゃあイライラしないで下さいよっ!」
「だって、あの荷物の量の絶望感はやばいでしょう!」
「それは分かりますけど! でも、去年の売り上げ通りに発注しているだけですからね!」
「最初見たときは無理だぁと思っても、気が付けばいつもちゃんと処理できちゃってるんだよなぁ……」
「そ、それは
「大体、チーフだってムッとしているときあるでしょう! そういうときは黙って売り場に前出しに行ったりするくせに!」
「知ってたなら黙ってて下さいよ!」
くぅ……。
お酒が入って言いたい放題言われるようになってきてしまった。
「チーフって結構抜けていることあるよね」
「ほ、星さんに言わると地味にダメージが……」
「この前シフト表、二回みんなに配ってたもんね」
「配ったの忘れてるかなぁと思ったんです! 念のためにもう一度配っただけです!」
「自分で作ったくせに」
「そうそう! この前なんて、発注書のケースとkg間違ってたからな!」
「それは未然に防いだでしょう!」
「8kgの鮭のケースが、8ケースもくるところだったよ!」
くぅうう……!
俺いじりの場が出来上がってしまった。
これは俺も飲まないとやってられないよ。
「
やけくそになって、俺もお酒を飲んでしまった。
「
「はい?」
「チーフの介抱は宜しくね!」
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