♯36 束縛するタイプ?
十月下旬
サンマの旬が終わると微妙に忙しくなってくる。
鮮魚が売らなければいけない商品が増えてくるからだ。
鮭に、筋子に、タラに、ブリに……。
これが出回ってくると、いよいよ年末が近づいてきたなと警戒をするようになる。
……それは俺だけかもしれないが。
「
夜の七時前、今日も
「なんでいちいち
「
「俺、ちゃんと言ったよね?」
「気になる子がいるとだけは」
「それが誰かはもう知ってるよね?」
「そこにいる子ですよね?」
作業場の片付けをしている
めちゃくちゃ気になっているくせに、いつも声をかけようとはしてこない。
「私、
「本人に直接言えばいいじゃん」
「あの目つきをしている女の子に声をかける勇気はありません!」
「
「今、軽く馬鹿にしましたね」
鋼の精神力を持つ女がなんか言ってる。
俺だったら絶対に部門にすら近づけない。
「な、なんで
おっ、珍しい!
「なんでって言われてもね。ねぇ?」
「俺に同意を求めないでよ……」
「
「そう見えますか?」
「どう考えても遊んでいるでしょう」
「だって、二人とも可愛いんだもん」
「遊んでるのは否定しないのな」
一方、うちの
「
「え?」
「異性がいる飲み会に行かれるのを嫌がるタイプっぽいよね」
「うぅ……」
ダメだ……口の上手さでは圧倒的に
肝心の
「別に! そんなことありませんもん!」
「本当に?」
「す、好きな人のことは信じてますから!」
……よし、恥ずかしい話になってきたから仕事に戻ろう。
なんで女子はこういう話を平気でできるかなぁ……。
女子が男子がって話をすると、またコンプラとか言われちゃいそうだけど。
「本当に本当?」
「もちろんです!」
「じゃあ、私が
「……」
「
「チーフぅうう……」
※※※
「
「だ、だってぇ……」
半べその
「……それで、
「行くわけないじゃん。俺、そんなにお酒好きじゃないし」
「そうなんですか?」
「言ってなかったっけ? 俺、めちゃくちゃ弱いからさ」
「へぇ~、初めて聞きました」
最近、本っっ当に分かりやすく顔に出るようになったなこの子!
「お店の飲み会のときも飲んでなかったですもんね」
「次の日、仕事だったしね。
「……」
急に
ちょっと恥ずかしそうにしている。
「
「ち、チーフって、お酒が入るとエッチになるタイプですか……?」
「どんなタイプだ!」
思いっきり大きな声が出てしまった。
いや、理性の部分が鈍くなってどうのこうのって話は聞いたことはあるけどさ!
「笑い上戸になるとか、泣き上戸になるとかは聞かれたことあるけど、今までそれを直球で聞かれたことはなかったよ!」
「あははは……少し気になりまして……」
「……」
「……」
き、気まずい雰囲気が流れる。
「……ただ具合が悪くなるだけだよ」
「へ?」
「俺がお酒を飲んでもただ具合が悪くなるだけ。だから面白くもなんともないよ」
「じゃ、じゃあ
「
※※※
“
家に帰り、携帯を見ると
実際に会うとチーフ呼びに戻ってしまうのに、メッセージのやり取りだと名前呼びになるのはいつも通りだ。
「うーん……」
俺は迷っていた。
最近、
余裕があるのに、
……最近、
アルバイトが終わった後も毎日毎日頑張っている。
(普通なら受験の追い込みの時期だもんな)
アルバイトも普通にシフトに入れてしまってるわけだし……。
十一月の下旬になると、いよいよ
十二月は言わずもがなだ。
職場恋愛にはちょっと否定的な俺がだったが、こう考えるとちょっとは良いことあったのかも。
――一緒にお出かけなくても、毎日その子の顔を見ることができる。
前に
「お疲れ様、ビールはそんなに美味しくないよっと……」
……普通に返信をしてしまった。
ラスボスの前には、店の忘年会があるんだよなぁ……。
さすがにそのときは俺もお酒も飲まないといけない。
「クリスマスもあるよなぁ……」
今までは憂鬱だった年末がほんの少しだけ楽しみになっていた。
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