♯14 気になる子がいる
「チーフ! チーフ!」
次の日のお昼休憩後、お刺身担当の
「青果の子とどうするの?」
「……」
「手紙貰ったんでしょう?」
「……なんでそれを知ってるんですか?」
「だって、私、いつもその子と休憩時間が一緒なんだもん」
「えぇえ……休憩時間にそんな話をしているんですか」
「私、チーフのことをめちゃくちゃ褒めておいたから! あと、今彼女はいないよって教えておいたから!」
「だぁあああ!?
部門内に内通者がいた!
このおばちゃんは本当にこういう話を楽しそうにする。
「俺がそういう話が得意じゃないのは知ってるくせに! からかわないでくださいよ!」
「けど、私は本当にチーフは優良物件だと思っているんだよ?」
「それを他の人に薦めるのやめてくださいよ! 不動産の営業マンじゃあるまいし!」
「チーフが上手いこと言ってる」
「でもなぁ、私、心配しているのは本当なんだよ?」
「心配? 何のですか?」
「チーフ、この仕事をやめたいって思ってない? 大丈夫?」
「……」
うっ……。
急に話の風向きが変わってしまった。
確かに俺はこんな仕事はやるものじゃないと思っているが――。
「彼女が出来れば、仕事に張りが出るからね」
「そんなもんなんですか?」
「そんなもんだよ。一人で職場と家の往復じゃもやもやしちゃうからね。これはどの仕事で言えるかもだけど」
く、口調は軽いが謎の説得力がある……。
何故か言っていることに重みがあるんだよなぁこの人。
「だからチームも恋愛を前向きに……」
「いいです、いいです! それにもう気になっている子がいますから!」
「へぇ~」
あっ……しまった。
勢い余って、歩く拡声器に余計なことを言ってしまった。
「誰? 誰? どんな子? もしかして私が知っている子?」
「いいから早く刺身を切ってください!」
「おぉ~、初めてチーフに怒られたかも」
はぁ……何を言ってもこの人の手の平の上で転がされているような気がする。
しばらく
※※※
「
「はい、何でしょうか」
夕方、
丑の日のシフトのことで散々悩んだのだが、どうにも上手く人員配置が組めない。
やむを得ないので、アルバイトの
「来月の丑の日なんだけどさ、無理じゃなかったら早めに出社できないかな?」
「早めにですか? 何時からでしょうか」
「できれば土日は午後の二時くらいに出社してくれると助かるなぁ。その分、早めに上がっていいからさ。あっ! 予定とかあったら全然そっちを優先してね!」
「い、いえ……大丈夫ですが、私が早く出社してもできる仕事なんて値下げくらいしかないですよ」
「そんなことないよ!
丑の日の人員配置で一番困っているところ!
それは――。
「売り場の試食係をお願いできないかな? はっぴを着て、鰻をホットプレートで焼くだけだからさ」
「わ、私がですか!?」
「お願い! 俺と
丑の日のメインイベントともいえる、売り場の試食係を
ここに一人取られると、中の作業が上手く回らなくなって大変なのだ。
俺と
シングルマザーの
そして、もう一人がうちの部門にはいるのだが、あの人はまた別のところで問題を起こしそうだ。
そうなると、ちゃんと仕事をしてくれて、愛想のある
「俺ももちろんフォローするからさ! お願いできないかな?」
「チーフがそこまで言うなら……」
よ、良かったぁ……。
見た目的にもうちの女性陣が売り場に出るよりもずっと――。
いや、これは怒られそうだから心の内に留めておこう。
「じゃあ、それでシフト作らせてもらうからね」
「は、はい……」
良かった、良かった。
これでシフト問題は解決だ。
後は鰻の発注数量の確定と、予約の取りまとめを――。
「ち、チーフ……?」
「ん? どうしたの?」
「あ、あの……私……」
「あっ、やっぱり無理だった? 無理はしなくていいからね!」
「いえ……その、できればなのですが」
「できれば?」
「来月もシフトを合わせることができないかなぁと……」
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