♯13 白河さんはやっぱり値下げシールを間違える
ピッ
ピッ
ガラララララ
夕方の値下げに行っていた
「チーフ、戻りました」
「お疲れ様ー。後はいつも通り、作業場の片付けをお願いしてもいい?」
「……? 分かりました」
俺の言葉に、
「チーフそれは?」
「あっ」
しまった……。
パソコンの隣に置いた、ハート柄の封筒を白河さんに見られてしまった。
「あぁ、これ青果のチーフが持ってきてさ」
変に隠し事をするのはおかしいので、事実をそのまま
ちょっと気まずい。
……けど、この子に嘘をついたり誤魔化したりをしたくなかった。
「ま、まさか
「誰?」
「青果の新人さんです!」
「へぇー、そういう名前なんだ」
「あぁあああ! 私の馬鹿馬鹿! 私からチーフに教えてどうするの!」
「な、中身は見たんですか!?」
「まだ見てないよ」
「そ、そそうですか……」
いや、
普通に、直接言いづらいクレームを書いてきただけなのかもしれないし。
「み、見ないんですか?」
「……」
「い、今見ないのでしょうか!?」
「はぁ――」
「あのさ、多分
“お疲れ様です! 青果部門の
「……」
可愛らしい手書きの丸文字でそんな文章が綴られていた。
「ち、チーフ……?」
思ったよりも好意丸出しの手紙だった!
い、今の若い子でも、こういう手紙を書いたりすることにびっくりだ。
「わ、私! チーフのことを買います!」
「は?」
「チーフに私のことを買ってもらおうと思ったのがおこがましかったんです……私がチーフのことを買います……」
「
「だ、だって私! チーフのことを取られたくないんですもん!」
「わ、私! チーフに買ってもらえるなら半額でも、70パーセント引きでもかいません!」
混乱しているのが目に見えて分かる!
自分が買うって話をしていたのに、今度は自分の値下げの話をしている。
「……もう仕方ないなぁ。
「は、はい?」
俺は
※※※
「おー、今日も値下げバッチリだね。ちゃんと商品を売り切れそうで良かった」
「あ、ありがとうございます」
「
「は、はぁ」
さっきまで手紙の話をしていたのに、いきなりこんな話されたらこうなるよなぁ。
――でも、彼女にはこれだけは言っておかないと。
「値下げって難しくてさ、売れないやつはどんなに安くしても売れないし、魅力的な商品は少し値下げするとすぐ売れちゃうんだよね」
「値下げしなくても売れるのが一番なんだけどね。作業的にもラクだし」
二人で、値下げされた売り場をぐるぐる見回りながらそんな話をする。
「だから
「えっ?」
「
「け、けど自分で言ってしまっているので……」
話をふられて
その様子に少し頬が緩んでしまった。
「この前も言ったけど、
「えっ?」
「こういうことはちゃんとしたいんだ」
「……」
「それまで自分のことを値下げしないで待っててくれる? ってこういう言い方はずるいか」
「そんなことはないです! もちろんです!」
「ありがとう。ごめんね、ヤキモキさせて」
「わ、私! チーフがゴーサインを出したらすぐに値下げをしますので――」
「すぐ値下げしたがるんだから!」
「だって早く買ってほしいんですもん……」
※※※
言いたいことを彼女に伝えることができたので、売り場から作業場に戻ってきた。
職場で思いっきり恋愛の話をしてしまったが、傍から見れば、チーフがアルバイトの子に指導しているようにしか見えないから大丈夫だと思う。
「チーフ、それでそのお手紙はどうするんですか?」
「うーん」
「どうするんですかっ!?」
「そ、そんなに気になる……?」
「当然です!」
「とりあえず貰ったからにはちゃんとしないといけないなぁとは思ってるけど……」
「やっぱりラブレターだったんですね!」
「げぇ!? ハメられた気がする!」
「チーフは誰にでも優しいんですから!」
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