♯8 白河さんとお食事デート 前編

食事に行く当日



「チーフおはようございます!」

「おはよう白河しらかわさん」


 店とは少し離れた公園で白河しらかわさんと待ち合わせをした。


 離れた場所にした理由は、もちろん店の人たちに見つからないようにするためだ。


「じゃあクルマに乗って」

「す、すみませんじゃあ失礼します……」


 緊張した様子で、白河しらがわさんが俺のクルマの助手席に乗り込む。


 どこにでもあるセダンタイプの普通車だから、そんなにかしこまる必要はないのだが……。


「あ、あははは……店の外で会うと緊張しちゃいますね……」


 白河しらかわさんがガチガチに緊張してしまっている……。

 体がかちんこちんになってしまっている。


「大丈夫だよ。今日は俺も緊張してるから」

「チーフもそうなんですか?」

「そりゃそうだよ。女の子と出かけるなんて全然ないから」

「ち、チーフはてっきりそういうのには慣れているものかと……」

「慣れてない慣れてない!」


 俺ってどんな印象なんだ!


 白河しらかわさんがシートベルトを付けるのを確認し、クルマのアクセルを踏んだ。


「でも本当に良いの?」

「な、なにがでしょうか……?」

「いや、本当に安いファミレスで良かったのかなって」

「はい! そこでなら沢山話せますし! それにお金のこともありますし……」


 うわっちゃー。声が奮えちゃってるし。

 白河しらかわさんの緊張がこちらにまで伝わってくる。


 それに、ちゃんとお金は自分で払うつもりでいたんだ。


「……服、店ではいつもエプロンだから新鮮だね」

「こ、この一週間はずっと今日着ていく服を悩んでいたのですが中々良いのがなくて……。私、おしゃれとかには疎いものでどうしようかと……」


 今日の白河しらかわさんは白い半袖のカーディガンに黄土色のスカートを合せたものだった。


 ふわふわの栗色の髪を、今日は後ろに短く結んでいる。


 店のエプロン姿に見慣れているので、まるで別人みたいだ。


「そんなに気にしなくても似合ってるよ」

「ほ、本当ですか……? なら良かったです……」

「でも、おしゃれとかにお金を使わないならバイト代は何に使ってるの? 白河しらかわさんって、がっつりシフトに入ってるから結構稼いでるよね?」

「ぜ、全部貯金してます……」

「真面目だなぁ」

「い、いえ……」


 うーん。

 こちらから積極的に話しかけはているが、ぎこちない会話が続いてしまう。


 白河しらかわさんも、俺とコミュニケーションを取るために頑張ろうとしているのがひしひしと伝わってくる。


「ふぅ」

「どうしたんですか?」

「ちょっとコンビニ寄っていい?」

「はい、全然大丈夫です!」


 少しクルマを走らせると、コンビニが見えてきたのでそこに寄ることにした。

 入り口前に前進で駐車する。


白河しらかわさんも一緒に行こう」

「えっ? 私、特に買い物は……」

「いいからいいから」


 そう言って、白河しらかわさんとコンビニに入ることにした。


 ……店から離れたコンビニなので、知っている人には多分見つからないだろう。


「俺、コーヒー好きなんだ。朝に飲むとスカッとしてさ」


 飲料コーナーの棚を白河しらかわさんと眺める。


「はい、知ってます! チーフっていつもコーヒー飲んでますもんね!」

「飲まないと一日が始まらないって感じがしてさ」

「チーフ、夕方もいつも決まった時間に飲んでますよ」

「そうだっけ?」

「だって、いつも私にもコーヒーを用意してくれるじゃないですか」


 そんな会話をしながら、俺はいつものコーヒーを手に取る。


白河しらかわさんはどれ飲む?」

「あっ、じゃあ私も同じやつを……」

「今日は気を遣わなくていいから。白河しらかわさんって実はあまりコーヒーは得意じゃないでしょう?」

「えっ、な、なんでそれを……」

「あんまり飲んでいるところを見たことないからさ。いつもごめんね、あれって部門の人はみんな同じやつだから」

「い、いえ――」


 俺がそう言うと、白河しらかわさんが首をかしげて少しの時間悩んでいた。


 ……が、結局俺と同じコーヒーを手に取ってしまった。


「もー、今日は気を遣わなくていいって言ったのに」

「いえ今日はこれがいいんです。それにチーフと働くようになってから飲めるようになったので」

「本当に?」

「本当です。ふふっ」


 がちがちに緊張していた白河しらかわさんがようやく笑顔を見せた。


「はい、じゃあレジ行ってくるから」

「あっ、お金……」

「今日はお金いいから。白河しらかわさんと割り勘したって言ったら笑われちゃうよ」

「で、でも……!」

「いいから、ちょっとは格好つけさせてよ」

「ち、チーフはいつも格好いいと思いますが……」

「え?」

「な、なんでもないです!」

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