♯10 歳の差恋愛、何歳までなら有り?
「
「なんだいチーフ」
「
「どうしたの急に?」
「人生経験が豊富な
「チーフにちやほやされると照れちゃうなぁ」
「ちやほやはしてないです」
朝の荷物を下ろしながら、
俺なんかとは比べ物にならない経験値を持っている。それは仕事の技術でも、業界での生き方についてもだと思っている。
「何歳でもいいんじゃないの? 別に」
「適当だなぁ」
「丁度いいほうの適当だと思っていい?」
「いい加減のほうの適当です」
はぁ、セクハラ親父の
「けど、俺は本当にそう思っているけどなぁ」
「へぇ~」
「チーフが適当になってるじゃん」
「チーフはこの仕事をやるようになってから何年?」
「バイトをしてた頃を含めると四年くらいですかねぇ。今、五年目になるのかな?」
「じゃあー、まだまだ分からないことだらけだよな」
えぇー……。
朝から晩までこの仕事をやっていて、大体のことを分かったつもりでいたんだけど……。
「東店の
「一緒にお仕事をしたときはありませんが、お名前だけは」
「
「えぇええ!?」
よく知らないだけど、真面目な印象がある人なのに!
「この業界にいれば、沢山そういう話は出てくるよ」
「へ、へぇ……」
「既婚者同士が不倫をしているなんてよくある話だし」
「それは俺も結構聞いたときがあります」
「昔、俺の上司が、応援先のバイトの子を嫁さんにもらったって話もあったなぁ」
「応援って他店舗にヘルプに行くことですよね?」
「今、ヘルプって言うの!?」
「はい」
それにしてもすごい話だ……。
お手伝いに行っている店舗で、恋愛をしてくるなんて。
「人の気持ちなんてそんなもんでしょ。だから歳の差は関係ないと思うけどな」
「そ、そうですか」
「チーフも、アルバイトの子とくっつくなんて全然珍しくないよ」
「……半分、分かってて言ってますよね」
はぁ、さすが長年いるだけであって、うっすらバレてしまっていた。
まぁ、俺も多分そうかなと思ってこの人に聞いたんだけど。
「チーフはもっと気を抜いたほうがいいと思うけどなぁ」
「どういうことですか?」
「この業界って、“真面目な人”とか“良い人”はすぐに辞めていっちゃうからさ」
「あー、俺の同期なんてもう半分も残ってませんよ」
「きっと、仕事のつらさもあるけど、そういう人間関係が嫌になるんだろうな」
「……それは分かる気がします」
人間関係が嫌になるかぁ……。
今まで辞めていってしまった人たちの顔が浮かんでしまい、気分が少し落ち込んでしまった。
バァン!
「いって!」
いきなり
「俺は良い子だと思うぞ」
「絶対に誰にも言わないでくださいね」
「分かってるって」
年配のおじさんに文字通り背中を押されてしまった気がする。
「ところで
「なに?」
「生臭い発泡を触った手で叩きましたよね」
「ごめん」
※※※
「おはようございます! 今日も一日よろしくお願いします!」
今日は仕事の進みが順調で、部門の人はほぼ帰ってしまった。
「おはよう
「お、おはようございますぅ……」
あれ? いつも挨拶のあとに一言二言は話すのだが、今日は俺から逃げるように、
「ね、値下げに行ってきますね……」
「うん、いつも通りよろしくね」
全然、俺に目を合わせてくれない。
あれ? もしかして避けられている?
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