第9話 逆襲
朝、部屋の窓から城壁の向こう側の山から狼煙が上がっていた。
イリヤに依頼した、バーダル市の軍隊が到着した際の合図だった。
早すぎる?バーダル市と往復するには、あと数日かかると思っていた。しかし・・・。
わたしはギャンベソンを着て、その上から
「行くよ」
言葉はわからなくても、これから力尽くで脱出する!それは伝わった。少女はわたしの後ろに隠れる。
ガシン!!
部屋の扉を蹴り破る。
「どうした?」
「何ごとだ!」
何事かと飛び込んで来た衛兵を、剣を振り降ろして叩き斬った。
ガラン・・・ガラン・・・ガラン・・・。
非常事態を知らせる鐘が鳴らされるが構わない。鐘を鳴らしている衛兵を背中から斬り伏せて、その死体を蹴り落とした。鐘の音で、教会の各所から身廊へ衛兵が集まるのが階段から見える。
少女を背中に置いて、わたしは階段の中段辺りに腰掛けた。階段は人一人が通れる程度の幅しかない。ここで斬り合うなら、相手が何十人いようと一対一である。
「さあて。イリヤ、早くこの娘を迎えに来てよね」
思惑通りに、衛兵たちは階段を駆け上がって来た。わたしは剣を握り直して立ち上がった。
「12!」
「13!」
13人を斬り倒したところで、階段を上ってくる衛兵はいなくなった。そろそろ相手も学習してきたようだ。階段も斬り倒した死体が重なっている。死体を蹴り落として足場を広げても、血糊で滑りやすくなった石の階段はやはり戦いにくい。
衛兵どもは階段の踊場で剣を構えたまま上がって来ない。それなら休ませて貰おうと、また階段に腰を下ろす。
しばしの間、踊場の衛兵と睨み合う。
バァァン!
教会入口の扉が勢いよく開かれた。
「マグナオーン!」
バーダル市の兵士とイリヤが飛び込んできた。
わたしは立ち上がり、一気に踊場へ飛び降りた。踊場にいた衛兵を撫で斬って、イリヤに少女への道を開いた。
「あの娘は任せるからね」
「はい、ありがとうございます」
少女の元へ、階段を駆け上がるイリヤを背中に感じながら、わたしは身廊の中央通路に立った。ここから先は遠慮なく戦える。
更に3人の教会衛兵を斬り倒すと、中央祭壇へ向かったはずのバーダル兵士が弾き飛ばされるのが見えた。それを追うように、巨体のゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「へえ、大男だねえ」
並の男より、頭二つ分くらいは大きい。腕も脚も筋肉が盛り上がり、胸板も厚そうだ。
大男の衛兵は剣を振り下ろしてきた。頭上で水平に構えた剣で、それを受け止める。
重い!
数歩下がって剣を両手で握り直す。大男が剣を振り上げるのに合わせて、わたしも剣を振り抜いた。
グワン!
「え?」
間の抜けた声が出てしまった。わたしの剣は刃の半ばからグニャリと曲がってしまっている。刃の焼き入れで固めた表層部分が、十数人との剣戟でボロボロと剥がれ落ちてしまい、芯の軟鉄部分が剥き出しになっている。そのために大男の一撃に曲がってしまったようだ。
大男の次の一撃が来る!
わたしは剣を投げ捨てて、別の剣を探した。いつもなら倒した敵の剣を拾って、取り替えながら戦うのに・・・調子に乗りすぎて忘れてた。大男の剣を躱すために床を転がって逃げた。
尻餅をついたような格好で床に落ちた剣を探していると、イリヤが駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?」
「あんたの剣、貸して」
イリヤのローブの中へ手を入れて剣を握った。
「マグナオーン、それは・・・」
「なに、この剣?」
それは奇妙な剣だった。
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