第6話 市警官助手

「ウィザルタル市の教会が、あの神託で何かやってるのは間違いないんだけど・・・心当たりはあるの?」

「奴隷商人と関わってました」

「奴隷商人?」

「あの教会は、ロマニア市のゲルトランド商会と取引してます。取引額はすごく小さいのに、商会の頭目であるロージン・ゲルトランド自らが来訪して商談をしていました」

 戦争で捕虜にした敵兵を身代金と交換できればいいが、そうでなければ捕虜を奴隷商人に売る。ゲルトランド商会も奴隷の売買をやっているが、裏では誘拐した子供らを不法に奴隷として売っている噂があった。

 神託で、町の外へ働きに出るような仕事を決めてしまえば、怪しまれずに奴隷として商品にできる。可能性はあるだろう。

「証拠は掴めたの?」

 イリヤは悔しそうに首を横に振った。

 商会頭目のゲルトランドと司祭長が、祭壇下の隠し通路へ入るのをイリヤはたまたま目撃した。隠れて追いかけると地下の陰湿な部屋で二人は町の子供の商談を始めた。だがイリヤも見つかってしまい、衛兵が集まって来た。

 追ってくる衛兵と戦いながら、何とか城壁の外まで逃げ延びたが、司祭長は残してきた少女を人質として教会に幽閉してしまった。

「もうひとつ、訊いていい?」

「はい、何か」

「あんたはウィザルタル市の市警官助手ではないでしょう。何で関わったの?」

「でも、目の前で犯罪が行われてるなら、何とかしないと・・・」

 おめでたいと言うか、人が良いと言うか・・・まあ、そう言う人だから行き倒れてる女戦士も助けてくれたんだろう。


「何か書くモノない?」

「はい」

 イリヤが手持ち袋から羊皮紙とインクを取り出した。

 わたしは、今回の護衛の仕事の依頼主であるバーダル市のクロイツ家当主へ宛てた手紙を書いてイリヤに手渡した。

「これをバーダル市のクロイツ家へ届けて。それと、これ」

 クロイツ家の紋章の入った短剣も渡した。これは仕事に際して当主様から預かったもので、この短剣を持っていけば、わたしの使いだとすぐわかってくれる。

「娘の嫁ぎ先がヤバイことになってると知ったら、手を貸してくれるよ。あんたの望む形ではないかも知れないけどね」

 イリヤは少し怪訝そうな顔をした。

「この手紙には何て書いてあるんですか?」

 例の古代文字で書いたから、イリヤには読めない。

「要点だけ言えば、兵隊を貸して下さい、だよ。教会の中だけで20人から30人はいるし、町中の兵士が集まったら百人じゃきかないだろ?」

 イリヤも頷く。

「司祭長とゲルトランドを捕まえれば、町の兵隊も領主様の命令に従うだろうけど、そうでなければ教会には逆らわないよ。クロイツ家の兵隊に町の兵隊を牽制して貰いましょう」


 町から何とか逃れたイリヤは、城壁の外の森にある木樵小屋を点々としながら町の様子を伺っていたようだ。悪徳商人のゲルトランドもまだ町からは出ていない。

 旅の身支度をしているイリヤに、思いついたことを訊いてみる。

「ねえ、わたしがあの娘に会った時に、あんたの仲間だとわかる目印ないかな?」

 イリヤは少し考えてから、ローブの中をモゾモゾさせて金属製の板のようなモノを差し出した。

「何これ?」

 掌より少し小さく、平べったい。装飾があって真ん中には楔形の穴が空いている。

「これを見せれば、わかってくれますよ」

「ふーん」

 どこかで見たモノのような気がしたが、思い出せなかった。

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