第3話 聖女

「そう言えば、わたしが町に着く前に聖女の神託受けた女の子がいたんだって?」

 わたしに取ってはこれから本題だ。

 わたしがウィザルタル市に入る一週間くらい前に、イリヤは妹を連れて入ったそうだ。そして、この地の教会に挨拶に行くと神官から妹に神託を受けさせてはどうかと提案された。



「なんで、教会に挨拶に行くの?」

 疑問に思った。

「地元の教会の神官にお願いして、紹介状を書いて貰ってあるんです」

 そう言って、イリヤは羊皮紙を広げて、それをわたしの方へ向けた。

「薬や医療は、多かれ少なかれ教会が関わりますから。不用意に薬を使ったら、異端の疑いかけられることもある。

 挨拶しておけば無用なトラブルが避けられるし、宿や食事を提供してくれることもありすから」

 ちょっとクセのある筆跡で読みづらい。

「今は教会にしか伝わってない古い文字で書かれていて、この文字で書かれた文書なら、教会でそれなりの地位にある者が書いたって教会の関係者にはわかるんだそうです」

「へえ、その田舎の教会では薬草に関する仕事を任されてたんだね」

 イリヤが目を丸くして、わたしを凝視する。なぜ?

「これ、読めるんですか?」

「地名とか正確に読めないけど、意味がわかる程度には読めるよ。読めないの?」

「教会にしか伝わってない古い文字ですから、読めるわけないじゃないですか!」

 教会にしか・・・と言うのは正確じゃあない。王族とか高貴な身分の方々の間で交わされる書簡もこの古い文字で書かれる。

 傭兵の契約を交わす書面もそう。読めて当然だろうに。

「あんたの調合した薬で何人も助かっているから、知識や技術はきっと役に立つ。もしも何かあったら助力をしてやって欲しい・・・って書いてあるよ」

 イリヤの、わたしを見る目が露骨に変わった気がした。キラキラしてる?

「腕が立つだけじゃあ、名門の御令嬢の護衛は任されないわよ」

 ちょっと自慢してみたが、イリヤも故郷では高く評価されてたのは間違いなさそうだ。



「ああ、あの兄妹だな」

 複数の客が口々に言う。

「妹の方が、ここの大神官様の神託を受けることになってな。それで聖女の神託が下りたんだよ」

「でも、あの娘さん。病気だったんじゃないのか?喋れないみたいだったし」

「フードで顔を隠してたが、酷い皮膚病だって聞いたぞ」

 何やら訳ありらしいが、それはイリヤから聞いてない。

「聖女ってどんな仕事するの?」

「さて・・・聖母か女神様の代わりに、奇跡とかを起こすんじゃないか?」

 全然ピンとこないが、みんなもよく知らないらしい。変な話だ。

 ここの神様が聖女と言ったら、不幸な死を遂げた信心深い女性が死後に天国に取り上げれた時に使う称号みたいなものじゃないの?

「あの兄ちゃん、意外だったよな。衛兵相手に大立ち回りで引かなかったからな」

「え?」

「聖女は教会で修行するんだそうだ。それで教会預かりになるのを納得しなくてな。兄ちゃんが妹を連れ帰ろうとしたんだが、衛兵たちが出てきてチャンバラになった。結局、妹は教会が保護して、衛兵どもは兄ちゃんに逃げられたんだ」

 訳ありの妹を自力で守ろとしたのか・・・でも、イリヤは剣が使えるんだ?

「聖女はどんな修行するの?」

 みなが顔を見合わせる。誰も知らないらしい。

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