第35話 【混ぜるな危険!】の出番です!

「バ、バズボンド様は、ご無事なのかい!クラーリー?」


「つ、杖、「従属封じの杖」は奪われちまったって本当なのかい?」


「バ、バズボンド様~!!」


「バズボンド様と戦った敵っていうのは、まだいるのかい?」


 西の門の前で、人々が集まり、そのざわざわとした雰囲気が広がり続けている。その騒動はまだ終わる様子が見受けられるない。


 ある者は、バズボンドという者のことを心の底から無事を案じ、ある者は「従属封じの杖」を心配する。更にはバズボンドたちと戦った敵のことに対しても危惧をしている。


 門から駆けつけてきたクラーリーの、次の言動に皆が注目をしている。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「皆んな、安心しろ!バズボンド様は深手を負っているが無事だ!バズボンド様の強力な一撃が、敵に致命的なダメージを与え、その結果、奴は逃げて行った。だが、その戦いの最中、「従属封じの杖」が、奴に奪われてしまった...」


 クラーリーはとても悔しそうな表情をして語った。


 クラーリーは、その事実を伝えるために声を張り上げ、村人たちの前で叫ぶように伝えた。彼の声には、戦いの激しさとバズボンドの勇敢さ、さらには「従属封じの杖」が奪われた悲しみの全てが含まれていた。


 村人たちは、男の話を聞きながら、心配そうに顔を見合わせた。村人たちの目は不安でいっぱいで、口元は固く結ばれていた。


 そして、一人の老人が立ち上がり、声を震わせながら口を開いた。


「バズボンド様は、どこにいるんだ?深手って...どのくらいの状態なんだ?」その質問は、村人たちの心の中にある不安を代弁していた。


 他の村人も「そうだよ!領主様の姿が見えないじゃないか。あんたらもしかしたら、自分達だけ逃げて来たんじゃないだろうね?」と、疑念を抱きながら、けげんな表情を浮かべて男たちに詰め寄った。


「違う、ちがう!俺たちは斥候隊だ!バズボンド様は本隊にいる!魔物たちがうようよいる6階に取り残されている。10階のワープゾーンに行くにも、1階に戻ろうにも、身動きが取れない状況だ!」


 村人たちの厳しい視線を向けられたクラーリーと数名の男性たちは、圧倒されながらも、慌てたように弁明を始めた。


「バズボンド様に「地上に帰り、応援部隊を呼んでくるのだ」と命を受けたんだ!」と、村人たちを見ながら、信用してくれという表情で訴えた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「まあ、そう言う事なら仕方がない」と、一人の村人が立ち上がり、「応援隊を結成して、バズボンド様を救いに向かおう!」と力強く宣言した。


 その言葉に、他の村人たちも頷き、「そうだね。ごめんよあんたたち、バズボンド様を置いて逃げてきたと勘違いしてしまったよ」と、男たちに謝罪の言葉を述べた。


「間際らしい言い方をクラーリーがするからだよ!まずはバズボンド様の状況から説明しないから!しないあんたが悪いんだよ!」と、一人の女性がクラーリーたちに詰め寄った。その声は、彼女の不安と怒りを如実に表していた。


 命からがらに帰ってきた男たちは、村人、特にご婦人たちに攻め立てられ、身を小さくしていた。


 どこの世界でも女性にはかなわない様だ...。


「よし、すぐにバズボンド様の救出に向かおう!」と、ウィリーが力強く宣言した。「ヤールン!交代勤務の連中を叩き起こしてきてくれ!」


「おう!」


 ヤールンは快く応じ、急いで街の中に消えていった。


 ウィリーは村人たちからの信頼も厚く、頼りになる男のようだ。彼の指示に従い、村人や役人たちは、着々と救出作戦の準備を進めていった。そして、バズボンドは村人から深く愛される領主であることが伺えた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ただ、マゼールとゼファーは大丈夫なのか?2人が偵察に行ったダンジョンでそんな物騒なことがあって、巻き込まれていないだろうか?


「マゼール、聞こえるか?大丈夫なのか?偵察に行ったダンジョンで魔物が出現したと聞いたぞ?無事なら応答してくれ」とマゼールに連絡を取る。さっきの川沿いのダンジョンと言い、急に不穏な状況になって来たな。


 今回も考えたくはないが、古代魔族の影響なのだろうか?マゼールやゼファーに、何もなければよいのだが...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『デニットさん、ご心配なく。我々は無事です。ダンジョンの状況としては、この村の領主であるバズボンドさんが、古代魔族オロイドと同じゾーンという古代魔族と壮絶な戦いを繰り広げ、お互いに深い傷を負いました』


 マゼールはダンジョンで起こりえたことを、鮮明に俺たちに伝えてくた。更にマゼールは少し間をおいて...。


『ゾーンは「従属封じの杖」を奪い、その場から姿を消しましたが...それが何とも残念な事態となりました...』


 何とも歯切れが悪い。なにかあったのか?ゼファーが何かに巻き込まれたのか?何がそんなに残念なんだ?


 マゼールの歯切れの悪い言葉を聞いた直後、再び門の外から大きな叫び声が響き渡った。

 

「た、大変だ!「「従属封じの杖」が、ダンジョン入り口近くで真っ二つに折られていたぞ!」と、クラーリーと同じような装備をした男が、息を切らして駆けこんできた。彼の手には折れた杖が握られていた。


「ビッキー!その手に握っているのは!まあ、なんていうこと!」


「お、終わりだ...。この村は終わりだ!」


「は、早く逃げる用意をしよう!魔物が攻め込んでくるぞ!」


 ビッキーが持っている真っ二つに折れた「従属封じの杖」を目の当たりにすると、恐怖にかられて騒ぎ始めた。「魔物が攻めてくる!」という声や、「もう終わりだ!」という絶望的な叫び声が空に響き渡った。


 何でここの村人たちは、こんなに「従属封じの杖」を大事にするんだ?


 俺は村人を見ながら「従属封じの杖」の重要性について考えていると、 「おい!落ち着け。皆、パニックになるな!」とウィリーが大声で叫んだ。


「領主を救い、村を守るために何ができるか考えるんだ。ただ騒ぎ立てても何も解決しないぞ!」


「ウ、ウィリーさん」


「確かに、ウィリーさんの言うとおりだよ!!ビッキー、あんたがあんな勢いで、折れた「従属封じの杖」を持ってくるから!こんな騒ぎになっちまったんだよ!やれることをやるんだよ、皆んな!私は孫の未来のためにも、諦めないよ!」


「俺もだ!バズボンド様とダージリン村を救うんだ!子供たちの未来のために!」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 村人たちは少し落ち着きを取り戻し始めたが、その「従属封じの杖」がなぜそんなに重要なのか、俺たちには理解ができなかった。俺たちは俺たちでタイタンを救う手段がなくなり深い絶望感に陥っていた。


 そんな時、ウィリーが近づいてきて話しかけてきた。


「あんたたち、見たところ強そうだな。頼む!力を貸してくれ。この村にはバズボンド様と、「従属封じの杖」が必要だったんだ。その杖が無くなった今、優秀な冒険者の力が必要なんだ!」と彼は俺たちに力強く訴えてきた。


「従属封じの杖」は、この村のダンジョンに安置されていた杖で、魔物の活動を抑える力があるらしい。


 このダンジョンの魔物の発生率は非常に高く、「従属封じの杖」があったおかげで、何とか魔物の数を抑えることができていた。しかし、その杖が無くなった今、村は再び魔物の脅威にサラされている。


「ダランバーグ大聖堂の神父様に相談をしたら、「この杖をダンジョンの下層に祠を作って安置するように」と譲り受けた村の大切な杖だ」とウィリーは語った。


 この杖は「従属封じの杖」と呼ばれていて、魔物の心を浄化する力とさらに、この杖をダンジョンに設置すると、魔物の出現率を下げる効果があった様だ。


 この「従属封じの杖」の力は、神から与えられたものらしい。


 そこで何とか村人たちでも行ける、7階層に祠を作り祀った。


 だが、その結果、「従属封じの杖」を失った現在、魔物の出現率が高まり、領主を地上にまで連れ戻すのが難しくなった。


 マゼールとゼファーは6階に領主たちが留まっていることを知り、「デニット様なら多分こうするでしょう」と言って、ゼファーは領主たちの援護に向かった。


 しかし困ったな。「従属封じの杖」が無いとタイタンが...。そしてこの村のダンジョンまで大変なことになっちまうな。


 ウィリーによれば、この杖はダランバーグ大聖堂の神父が祭壇に捧げ、神からの恩恵を受けたものだという。しかし、新たな「従属封じの杖」を作るには時間がかかりすぎる。


 新しい杖が出来るのを待っていたら、タイタンが「従属の魔核」の浸食が進まってしまう可能性が高い。ダランバーグ大聖堂まで行くべきか?しかし、ここの領主を見捨てて大聖堂に行くのも気が引ける。


 俺が悩んでいると、買い出しチームが帰ってきた。途中でマゼールから状況を説明されていたらしい。ありがたい。ズリーやレバルドが俺の方を見て来る。どう俺が動くか見極めているのだろう。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そんな時、マゼールの声が頭の中で響いた。


『デニットさん!村人たちとは別行動を取りましょう!領主を助けに行くとは別に、もう一つ私たちだけにしか出来ないことが判明しました!』と、この場にそぐわない明るい声で俺に伝えてきた。


 もう1つ、俺たちにしか出来ないこと?


『はい!私の力で、新たな「従属封じの杖」を作っちゃえばいいのですよ!そのために必要なスキル本を集めましょう!杖はダランバーグ大聖堂関係者が神に捧げ、普通の杖に神の力を宿したモノですから!今回はスキルの力を宿しちゃいましょう!』


 俺も驚いているが、ズリーがものすごく驚いている。小さな声で、「マゼール様はやはり神様に匹敵するほどのお力をお持ちの方なのだ...」と呟いた。


 まあそうだよな。俺もそう思う...。


『私の力で普通の杖にエンチャントすればいいのです。【混ぜるな危険!】の本領発揮ですよ!』


 マゼールは力強く俺たちに語って来た。


 すげえなマゼールの力は...。確かにスキルを混ぜれば、「従属封じの杖」が作れるかもしれないな。


 いや、その方法しかないだろう。領主とタイタンの両方を救うには。


 皆んなの表情を見ると、ズリーとレバルドは深く頷き、「その方法でいきましょう!と言ってきた。バリーは...よく分かっていない様だ...。


 よーし、新たに「従属封じの杖」を作りに、ダンジョンに向かうぞ!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 マゼールも『私に任せて下さい!』と言って、『さあ、ゼファーさんも頑張っています!皆さんも必要なスキル本を集めながら、すぐにゼファーさんと合流しますよ!』と、俺たちにゲキを飛ばした。


 俺とズリー、それにレバルドは、マゼールの示すダンジョンの方向に向かって駆け出した。その時、後ろからバリーが「ま、まつんだな!」と慌てて追いかけてきた。その大きな体がドスドスと地面を揺らした。


 ズリーはバリーを見て、「おそい!おそいよ、バリー!タイタンさんの為にも、早く早く!!」と急かした。


 バリーはズリーの言葉に焦りを感じながら、必死に俺たちの後を追った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る