第三章 マゼール達に襲いかかる魔の手

第30話 古代魔族

 中ボスとの戦いが行われる場所、10階層の扉手前にたどり着いた。バリーとズリーが先頭に立ち、ここに来るまでに百体以上の敵を倒した。


 その間に、ゼファーが追い求めていたスキル、【征矢召喚】が50冊集まり、マゼールの能力によってランクCの【召喚五百矢】を得ることができた。


 このスキルは名前の通り、500本の征矢を異空間から召喚できるという便利なものだ。インターバルは2時間で、2時間経てば再び500本の征矢を召喚できる。これは非常に便利なスキルだ。


 ただそれだけではない。命中率と連射能力も向上するという優れた特性も持っている。ゼファーは嬉しさから、50m以上離れたリバーオークに向かって、その眉間を貫いてみせた。


 止まっている物体に当てるのならまだしも、動き回っている魔物に当てるとは...さすがだと感じる。


「これで私は最強です!」とゼファーは胸を張り、鼻高々に高笑いを上げた。


 何となく悪者の雰囲気を感じる。こういう場合、後で痛い目に遭うことが往々にあるものだが...大丈夫だよね...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『ゼファーさん、確かに強くなられましたが、これから戦う中ボスはなかなかの強敵ですよ。油断大敵ですよ!』とマゼールが、ゼファーに注意を促した。さすがマゼール!ナイス判断だ。


 確かに皆が強くなった。ゼファーだけでなく、バリーとズリーもある程度、戦力としての目星がついた。


「油断をすると痛い目に遭います。今回の中ボス戦で得られるスキルは、非常にレアなスキル【転移】です!ランクCでも、ダンジョンなら5階層を一気に進むことができます。地上なら、5km移動が可能です。是非今後の冒険に供え、取っておきたいスキルです!」


 伝える口調にも力が入っている。でも...確かにすごいスキルだな。そんなすごいスキルを守る魔物は、やはり強いのだろう...。


 しかし、まだランクCという現状では、制約が厳しいようだ。【転移】スキルを使用すると、インターバル期間として1日が必要となる。さらにその間、他のスキルを使用することはできないというおまけつき。


 今のところは、ダンジョンからの脱出時に活用できそうなスキルかな?


 しかし、無闇に使うと他のスキルが使用できなくなるのは確かに恐ろしい。そのため、スキルを使用する際には冷静な判断が必要となる。それでも、使えるスキルであることには違いない。ランクアップすれば制限も減るだろう。


 取っておきたいスキルではあるが、そのスキルを守る中ボスも厄介な相手だろう。そう、俺は一人で熟慮した。


 そんな中、俺と同じことを感じたのか、ズリーが少し怯えるような表情でマゼールに向かって、「中ボスはどんな魔物でしょうか?」と聞いた。


『スキルを守る魔物は、ビッグオクトパスです!体長は胴体だけで5m、2本の脚と6本ある腕は1本の長さが25mほどあるようです!腕に捕まった場合、ぐるぐる巻きにされて、締め付けてきます。圧死を覚悟して下さい!大変危険ですよ!』


 凄いな...。さすがは川辺のダンジョンだ。中ボスも水系の魔物か。


『本来は海水を好む水系の魔物ですが、10階層に現れて、転移スキルを守っています。ただ皆さんなら勝てるレベルだと思います。油断は禁物です。2本の脚と6本の腕を自在に操り、私たちに襲いかかってくると思われます。十分にお気を付け下さい!』


 まぁ、簡単にレアスキルが手に入るとは思っていない。腕や脚を千切られたり、即死的な攻撃を受けない限り、俺の【高度先端医療】で復活は可能だ。ただ油断はできない。気を引き締めないとな。


 そんな俺たちは、10階層のビッグオクトパスが待つ扉を開け、中に入った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 中には広い池、いや湖と呼んでもいいほどの空間が広がっている。本当にダンジョン内なのか?広大な空間には巨大な湖。本当にビッグオクトパスはいるのか?気味が悪いほど静かで、湖面も穏やかだ。


「何もいないみたいだな」


「そうみたいね。私たちが怖くてなかなか出て来られないのかしら」と、バリーとゼファーは湖面に石を投げながら、悪者のような発言をしている。そんなことを言っていると、突然現れるかもしれないから注意をしろよ…。


 そう思っていた次の瞬間!湖面から太い腕が2本現れ、油断していたバリーとゼファーの身体に巻き付いた。


 いけない!湖の中に引きずり込まれてしまう!ビッグオクトパスの右腕は、重いバリーを湖面に引きずり込むことに苦戦をしている。しかし、左腕で巻き付けたゼファーは、軽々と持ち上げられ湖の中に連れ込まれそうだ!と思った瞬間、ズリーがレイピアでゼファーとつながっている腕を切り落とした。


 バリーに絡まった腕は、俺が切り落とした。


「あ、ありがとうなんだな!主人!」


「ズ、ズリーありがとう!」


「ゼファー姐さん!油断しすぎですよ!マゼール様もおっしゃっていたはずです!」と、ズリーがゼファーを叱った。「わ、分かってるわよ!もう大丈夫だから!」とゼファーは照れくさそうに反論した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 プリプリとした態度でゼファーは、「よくもやってくれたわね!いくら大きいと言っても、オクトパスの分際で!」と悪者感満載の発言とともに、征矢を水面に現れたビッグオクトパスの胴体めがけて当てていく。


「クワ~!」


 凄い連射能力だな。オクトパスの胴体にどんどん弓矢が突き刺さっているぞ。


 効いているぞ。いい感じだ。レバルドやズリー、そしてバリーも適度な距離位置を保ち、ビッグオクトパスに挑んでいる。


 特にズリーの活躍は目覚ましかった。10階層に到達するまで、ズリーは積極的に戦闘に参加し、レベルも20にまで上がった。


 さすがは優等生。ズリーは自分の身体を極限にまで酷使し、俺の【高度先端医療】を受けて、再び敵に突っ込んでいく。


 無茶苦茶な戦い方だが、「早く旦那様を守りたいです!荒っぽいですが、この方法が一番レベルが上がりやすいです!骨が折れても旦那様に直して頂けます!身体の一部がちぎれなければ 大丈夫です!」


 恐ろしいことを平気で言ってのける。ドMか!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ただ、【レイピアの使い手】になってからは、ズリーの戦闘力は急速に向上し、前衛を任せられるほどの攻撃力を誇った。。


 そんな私たちの全力攻撃に対し、ビッグオクトパスは「グヲ~!」と最後の雄叫びを上げ、湖に沈んでいった。


「「やった!」」


 皆なの表情は、味気ない10階層のダンジョンの中とは思えないほど明るかった。


「さあ、一旦ダンジョンから出るか。食料と酒が底をつきそうだ。ダージリン村で大量の食料と酒を買いつけないと、あと4日ほどで全部なくなってしまうぞ。俺の【異世界車庫】には、空の酒樽しか残っていないからな」と、笑いながら皆なに伝えた。


「もう、レバルド様が飲みすぎなんですよ!せめて一日のお酒の量を、今の半分にしてくだされば!」と、ゼファーがレバルドに喰ってかかる。


「そうなんだな。レバルドは、のみすぎなんだな」と、バリーも笑って言う。


「「バリーも食べ過ぎだ(よ)!!」」と全員から突っ込みが入った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そんな和気あいあいとした時間を過ごした後、宝箱を開けて地上に戻ろうと思った瞬間、突然その静けさが破られた。


 ビッグオクトパスを倒した湖のほとりで、空間がビシビシ、ビシビシと苦しそうな音をたて始めた。


 空気が震え、一瞬で周囲の気温が上昇した。辺り一面に稲妻が走り、その軌跡から煙が立ち上がった。その煙は次第に形を成し、一匹の羽と尻尾の持った魔物の姿へと変化した。


「な、何が起こっているのですか?」


「なんなんだな?」


 ズリーは後ずさりをしながら、バリーはウォー・ハンマーを自身の身体の前で構え、やや強張った表情をさせながら、今...抱いているであろう感情を声に出した。


 皆なが目の前の魔物に注目をしていると、脳内でマゼールが非常に慌てた声で俺たちに注意を促してきた。


『デ、デニットさん!それに皆なさん!気を付けて下さい!素性の分からいモノが、いきなりこのダンジョン内に入ってきました!私の【詮索】を跳ね返します!ま、まさか私の【詮索】を跳ね返すなんて!』と今までに無い、非常に焦ったマゼールの声が皆なの脳内に響いた。


 マゼールの声に集中している間に、体長80cmほどの翼を持つ魔物が俺たちから200mほど離れた湖のほとりに突如として現れた。


「何だ、いきなり?中ボス戦の続きか?」と俺は愛用のダガーを胸元で構え直し、少し強張った表情で現れた魔物と対峙した。


 すると、目の前の魔物は、「ヒャッハハハ!そんなやわな【詮索】など俺には通用しねえよ!驚くこともねえ!」と、汚らしい笑い声をあげ、マゼールを侮辱した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 さらに「てめえに実力がねえか、それともまだ身体を1つも見つけていねえだけなんだよ!今のてめえの【詮索】スキルなんて、あってもBランク程度だ!てめえにできるのは【混ぜるな危険!】だけだ。なあ古代人の巫女、リーナ様よう?」


 ニヤニヤと俺たちを見て笑っている。それよりも驚いたことに、マゼールの素性や能力を知っている?身体も探していることや、まだ身体が集まっていないことも...。一体、目の前の汚らしい魔物は何者なんだ?


『気を付けて下さい!何者かも分からない相手です!このダンジョンにいる魔物ではありません!』


 マゼールが俺たちの脳内に警告を発した。先ほどのオクトパスの時の失敗もあることから、ゼファーとバリーも慎重な態度になっている。


 しかし、そんな俺たちに向かって目の前の魔物は、「俺を!俺の姿を見ても何者か分からないだと!寝ぼけたことをほざくな!リーナ!俺はお前に封印された古代魔族の一人、インプのオロイド様だ!」と大声をはりあげた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る