第31話 Vs.古代魔族オロイド
「何者だ、あいつは?突然俺たちの前に現れて、マゼールの声が聞こえるのか?それにマゼールのことを知っているのか?マゼール、あいつは誰なんだ?」
レバルドや、ゼファーも同じことを思っている様であった。皆なが魔物の動きに注意を払いながら、緊張した表情で俺を見てきた。
「わ、分かりません。私は過去の記憶の殆どを思い出せません!ただ、私のことを知っている、そして敵対する関係であることだけです!」
「俺、いや古代魔族を知らないだと...?寝言も大概にしろよ。今から嫌ってほど俺たち古代魔族のことを思い出させてやるわ!ヒャハハハハァ~!」と言った後、驚くほどのスピードで俺に向かってきた!
「は、速い!!」
俺は自分の顔の前でクロスし、魔物がぶち当たるのを覚悟した!
ガゴン!!
大きな物音が辺りに響き割った。
『主様はわしが...守りますのじゃ!」
レバルドが俺の前に立ちはだかり、魔物の突撃をリジェネレーション・シールドで防いでくれた。
「ケッ!なかなかいい盾を持っているじゃねえか...。リーナ!どいつに取り憑いていやがる!教えろリーナ―!俺たち古代魔族の存在を忘れたなんて言わせねえぞ!てめえのせいで俺たちはどれだけ長い時間を封印されたと思っているんだ!」
オロイドという魔物は、俺たちいや...マゼールに向かって、怒りをぶちまけている。
『な、何を言っているの!わ、私は災害を止めただけよ!あなた達を封印したことなど知りません!』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
マゼールの語気が強まる。本当に思い当たる節が無いのか、それとも記憶を忘れたのか、あるいは都合の悪い部分を消されたのか。
そんなマゼールの言葉が聞こえているのだろう。マゼールの言葉に対して、目の前のインプのオロイドはイラついた表情を浮かべ、俺たちを睨んでくる。マゼールを探しているのだろう。
しかし、マゼールは俺の脳内にいる。俺の脳内からマゼールを連れ出すとでもいうのか?俺が死んだら、マゼールはまた隠し部屋に強制的に戻されるはずだ。
執拗にマゼールを探す理由は何だろう?恨みを晴らすだけなのか、それとも...他にも理由があるのか?
「俺らは、この星を古代魔族のモノにするために様々な災害を起こし、イダリアス様を中心にこの星を乗っ取ろうとした。もう一歩のところで、お前ら2人の巫女が善神などに協力して俺たちを封印してくれたおかげで、長き年月を苦しむ結果になっちまった!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
自然災害の背後には、そんな事情があったのか...。そして、古代魔族が関与していたとは...。マゼールは本当にすべてを忘れちまったのか?
災害ではなく、古代魔族の侵略を防ぐために生贄になったとしたら、理由も不明確のまま犠牲となった姉妹は非常に不憫だ。
自分たちが犠牲となった理由をしっかりと伝えられずに、命を捧げたとしたら...。
俺が考えていると、オロイドが「だが!」と言い、先ほどまでの怒り狂っていた表情を少し和らげた。
「だが、てめーがダンジョンから離れて人間にとり憑いたことで、俺たち古代魔族を抑えていた封印力が少し弱まった様だ...。やっと俺たちの様な下級古代魔族が、外界に飛び出せるようになったみたいだ。感謝だぜ?人間どもよ!ヒャハハハハァ~!」と高らかに笑った。
ニヤニヤと空中で翼を羽ばたかせ、時折感情を表わすかのように、尻尾を縦横無尽に動かしている。
「だがなあ、マゼールがとり憑いた人間は、一緒に俺達の元に来てもらう。イダリアス様を復活させるためには、リーナとシリアがどうしても必要だからな!早くリーナを取り込んだ奴、前に出ろや!古代魔族流のおもてなしをたっぷりとしてやるぜ!ヒャハハハハァ~!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
何とも身勝手な奴だな、名乗り出るわけねえだろ...。それにしても、この実力で下級。
おいおい...古代魔族の中級や、こいつらのトップのイタリアスとか言う野郎が復活したら、あっという間にパラクール星なんて消えて無くなってしまうぞ?
ただ、強力な魔物を封印している者か手段だか何だか知らないが、手一杯なのだろう。こいつらはまだその選定から外れた弱い部類に入る様だ。これで弱い部類に入るのか...十分強いと思うがな...。
ただし...。どう考えてもやるしかねえよな。向こうもマゼールのことを探しているようだし。「またね~」なんて言って帰れる雰囲気じゃねえよな?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そんな中、状況が動いた。オロイドが我慢の限界に達し、その醜い身体を振り乱しながら大声で叫び、襲いかかってきた。
「マゼールを取り込んだ奴が出てくる気がねえのなら、全員に聞くまでよ!死ぬほど後悔させてから吐かせるまでよ。まずは半魔デッカイの!てめえから血祭りにあげてやる!ヒャハハハハァ~!」
オロイドは凄まじい勢いでバリーに向かって突進した。
「バリー逃げ...」と言いかけた瞬間、場の空気が一変した!
「何だ、この感覚は!幻影?こんな低レベルな幻影に俺様が引っかかるわけがないだろう!」
どうやらゼファ―が【無限流氷地】を仕掛けた様だ。良い判断だ。一瞬オロイドは怯んだ。奴の突進力は明らかに弱まった。
『皆さん!単体では勝てない相手ですよ!力を合わせますよ!』と、マゼールが俺たち全員に声をかける。おそらくゼファ―に指示を出したのもマゼールだろう。タイミングが良すぎる。
「烏合の衆が!てめえらに俺の動きが止められるか!」と、バリーに向かって、オロイドが再び動き出した。
『バリーさんウォー・ハンマーを10時の方向に振りぬいた後、3時の方向に避難する!ズリーさんは12時方向に向かって風きりのナイフを思いっきり振り回して!デニットさんも9時の方向です!突進して下さい!』
凄い勢いでマゼールから指示が飛ぶ。
「バリーさん!しゃがんで!」と、マゼールが大きな声でバリーに呼びかけた。
この川沿いのダンジョンでは、レベル上げだけではなく、マゼールを司令塔とした連携も徹底的に鍛えた。
「おらたちちならでぎる!」と言いながら、マゼールの指示に従い、バリーはウォー・ハンマーをオロイドに向かって振り下ろした。
「ちょこまかとゴミどもが!」と言って、寸前のところでオロイドはバリーの攻撃を避けた。ただ、さっきまでの余裕は感じられない。いくら単体では強くても、1対6は相当のハンデとなっている様だ。
バリーの攻撃を寸前で避けたオロイドに対し、レバルドがリジェネレーション・シールドで強烈な一撃を喰らわせた。
ゴグァン!!
「ぐへっ!このデカブツが!」
『レバルドさん!すぐに後ろに飛びのいて!』
畳みかけるようにマゼールの指示が乱れ飛ぶ。マゼール様、絶好調!
『【詮索】は通らなかったようですけが、私の【先読みの力】はあなたにも通用するみたいですね。でも、あなたみたいな下級なモノには通用するかもしれませんが、もっと手強い敵が出てきた時のために、私も実力を上げなければならないようですね』と脳内で呟いた。
オイオイ...挑発するなよ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「このアマが~!」と言いながら、レバルドの盾に向かってやみくもに攻撃を繰り出す。攻撃が明らかに雑になっている。
どうやらオロイドは、単細胞の愚か者の様だ。
こういうタイプは、自分より弱い敵に対しては冷静に対応ができるが、強い相手だと力まかせに攻撃をすることが多い。もう...こいつの負けは確定だな。
なら俺も。「おい!くそインプ!そんな大振りじゃ俺にあてる事なんて、もう一度封印されても無理だぞ!」
「このクソ野郎どもが!一人ずつかかってきやがれ!卑怯者が!」と、怒りと憤りで顔を歪ませた。
そんなオロイドに向かって「何言ってんのよ、羽ありゴブリン!もうすぐあなたの汚い羽根を、私の征矢でズタズタにしてあげるわ!」と、とどめの挑発を放った。
は、羽ありゴブリン。ゼファー姐さん。挑発がお上手で...。
「き、貴様~!俺様の外見をゴブリンと一緒にするんじゃねえ!」
激高の頂点に達した表情で、ゼファーに向かって突進していく!それを迎え撃つ体制で、ゼウスの弓で征矢を乱れ打つ!
「私の弓技術を舐めないで頂戴!森の中では一番の使い手だったんだから!それに...あなたの敵は私だけじゃないわよ?」
真っ赤に激高したオロイドは、その最後の言葉にはっとした表情となり、横を振り向く。
そう...俺と目が合った。
「さよならだ。羽ありゴブリン...」
俺もゼファーの一言をオロイドにぶつけた後、奴の心臓を愛用のダガーで貫いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺の一撃をくらったオロイドは「ケッ!...イダリアス様の...封印を解くカギは、てめえと...シリアの身体と一緒に、収納されている...はずだ。俺の仲間たちが、絶対に手に入れるだろう...」
そう言ってニヤッと笑い、震える手で胸ポケットから何かを取り出し、湖に投げ込んだ。
「置き土産だ...せいぜい楽しむんだな。ただ...まだ...不完全だから、使いたくは...なかったんだが...ヒャハハハハァ~!」と、最後に高々と笑った後、汚い笑顔を残したまま、オロイドは動かなくなった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「なんだ....終わったのか?どうなんだマゼール?死んだのか、奴は...」
疲れ切った目で...オロイドを見つめながら、脳内でマゼールに聞いてみる。
『オロイドの生命反応は消えました。ですが!また得体のしれない魔物が現れました。多分...オロイドが投げ捨てた何かが、ダンジョン内の魔素エネルギーを急激に吸収して異常な速さで成長しています!危険です!危険です!皆さん逃げて下さい!』
非常に切迫した、最大級の危険が迫っていることをマゼールの語調から、容易に知ることが出来た!
湖面には不気味な泡が、ブクプクと徐々にその勢いを増していく...!
「やばいぞ!戦える相手ではない!ワープゾーンから撤収だ!」
俺は皆なに向かって大声で叫び、馬車の方へと駆け出した。
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