第23話 ルーム×5+生活支援士=? 魔物使い×5=?

 ベリーベリー村近郊にある、いつものダンジョンにやって来た。ロラッタさん達が作ってくれている、洋服や靴、装備品などが完成するまでの間、スキル本を集めにやって来た。


 そしてなぜだかスーちゃんとピーちゃんもダンジョンにまでついて来た。どこまで俺は、この2匹の子猫たちから愛されているんだ?


 スーちゃんとピーちゃんは、ダンジョンが怖くないんだろうか?


 つい最近、マルタイ奴隷商会の近くに捨てられているのを、婆さんが見つけて拾ってきたようだ。まだ可愛らしいあどけなさが残る、生後3か月ほどの子猫2匹。


 もしかしたら普通の猫じゃなくて、ワイルドキャットやビッグモンスターキャットなどの魔物かと思ったが、どう見ても普通の雌猫。


 持ち上げて俺の目線に合わせると、「ミャ~ン♡」と眼を細め、満面の微笑みを見せてくれる。どう見てもそこら辺にいる猫だと思うのだが...。


 可愛いし、ついて来てくれるなら一緒にいたいが、ダンジョンに潜んでいる魔物にとっては、餌にしか見えないだろう。


 危険という理由で、奴隷商会に2匹を残してダンジョンに向かおうとすると、2匹は大きな声で泣き叫び、「あたしたちも連れていけ!!」コールを連発。


 あまりのうるささに婆さんが、「自己責任!人間でも猫でも!」と言って、俺にスーちゃんとピーちゃんを渡して来た。


 もうダンジョンに連れて行こう。まあ、ベリーベリー村のダンジョンなら、なんとでもなりそうだからな。ならなかったら、俺の胸の中にでも突っ込んで戦おう。それかズリーに預けようかな。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 パーティーメンバーがさらに増えた。賑やかだなー。子猫まで加わった。俺以外の皆にもスーちゃんとピーちゃんは挨拶をするかのように、寄って行っては「ミャ~アン♡」と泣いて喉を鳴らす。


 ズリーもバリーも2匹の可愛さにメロメロ。特にバリーは、俺に懐いているスーちゃんとピーちゃんを、羨ましそうに見つめている。


 がんばれ、魔物使い!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 さあ、気を取り直してスキル本集めだ。マゼールのおかげで、スキル本を集めれば集めただけ、ランクアップが可能だ。


 バリーやズリーのランクアップに必要なスキル本を集めないとな。


 やることが山のようにある。ただ焦っても仕方ない。やれることをこの3日間で行おう。


 そんな気合の入った俺に対して、『デニットさん!スキル本集めもいいのですが、肝心なことをお忘れではないですか?』と、マゼールが尋ねてきた。


 本当にデニットさんは困った人なんだから~という感じが、声色に込められている。


「忘れていること?」


 無意識のうちに俺はゼファーやレバルド、ズリー、そしてバリーを見回した。するとズリーとゼファーは何かに気が付いた様で、「ああ、そうでしたね」や「先に2人分やってしまいましょう。神父様」と言ってきた。


 バリーとレバルドは分かっていない様だ。


 このチームは...優秀な女性陣によって支えられている。そうとしか言いようがない。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「う~んなんだっけかな⁉」


 俺が困っているとズリーが、「旦那様、私とバリーに関することですよ。それもスキル関連です」と、助け舟を出してくれた。


 ズリーは必要な時に助け舟を出してくれる、優しい子だ。


 ああ、そうか。そうだったな。2人のランクアップをしないとな。Cランクにアップが出来るのに、Dランクのままじゃもったいないな。


 現在、ズリーもバリーもスキル本は必要数持っているが、それぞれ【生活支援士】と【魔物使い】のままだ。ズリーはスキル【1K】に、バリーは【魔物の顔見知り】へと、ランクアップが可能だ。さっさと済ませてしまおう。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「マゼール、2人を頼んだぞ」と、マゼールに頼んだ。


 するとマゼールは、嬉しそうな声色で『やっとこデニットさんも、気が付いてくれた様ですね。お任せ下さい!2人のスキルをそれぞれ混ぜ混ぜしちゃいますよ!では、ズリーさんからいきましょう。ズリーさん、覚悟はよろしいですか?』と、マゼールはズリーに尋ねた。


 ズリーは昨晩の女子会で、スキル【混ぜるな危険!】のことも聞いていたのだろう。「はい。いつでも大丈夫です!」と言いながら、色々な場所に頭を下げた。


 マゼールもバリーからランクアップを行うと、バリーがパニックとなり、先に進まなくなると思ったのだろう。


 その証拠に、『ズリーが終わったら、バリーの番ですよ。しっかりとズリーがランクアップをするところを見ておくのですよ』と、マゼールはバリーに優しく声をかけた。


 ただ、声をかけられた本人は、何が何だか分かっていない様で、「わがっただ。見でる...」と、バリーは少し心配そうな表情でズリーや俺の方を見つめてくる。


「大丈夫よバリー。私もあなたもマゼール様に、スキルのランクを上げてもらうだけだから。何も心配することは無いわ」と、ズリーはバリーの方を見つめ、にこやかにほほ笑んだ。


 すげー。天使の様な微笑みだな。ドキッとしちゃう。


 その笑顔に救われたようにバリーは、不安そうな表情が和らぎ、いつものおっとりとしたバリーに戻った。2人の信頼関係は相当なもののようだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 マゼールが『さあ、ズリーさん!【生活療法士】のスキル本を混ぜますよ!』と、いつもより弾んだ声でズリーに声をかけた。マゼールは【混ぜるな危険!】を使用する時は、いつもよりテンションが高まる様だ。


 そんなマゼールに対しズリーは「どうぞよろしくお願いします」と、やや緊張した声色で返事をした。


 ズリーも、期待と不安が入り混じった様な表情をしている。そんなズリーを癒すかのように、スーちゃんとピーちゃんがズリーの足元で、顔をすりすりとこすり付けている。


 すげえな、あの2匹。空気を読んでるじゃん。本当に普通の...猫なんだよな...?



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 マゼールは嬉しそうな声色で、『了解です!混ぜ混ぜしちゃいますよ~!危険ですよ~!』と、嬉しそうに返事をした。


 ほんの一瞬、微かな時間が過ぎ去った後...。更に元気なマゼールの声色が、俺たちの脳内に響いた。


『EXスキル、【混ぜるな危険!】の効果によって、【ルーム】ランクDのスキル本5冊と、【生活支援士】ランクDのスキル本1冊が混ざり合い、ランクCの【1K】となりました!』


「「おおー!」」


「ダンジョンで、革命が起きますのじゃ!夜にダンジョンにいながら、気兼ねなくお酒が飲めますのじゃ!」


 お酒なのね...。大量に買ったから、後日のスキル本探しに差支えが無い程度に、お楽しみ下さい。


「ユニットバス付だったわよね!戦闘後も身体を綺麗に出来るし、安全に着替えやトイレも出来るわ!すごいわよズリー!確かに革命だわ!」


 ゼファ―も大喜びだ。女性ならではの悩みが解消されたんだろう。そりゃ嬉しいよな。


「ズリーやっだ!よがっだんだな!」


 バリーも大喜びだ。皆ながズリーに向かっておめでとうと言っている光景から、何となく読み取ったのだろう。すごくバリーの表情が嬉しそうだ。


「おめでとう。ズリー。すごいスキルにランクアップしたようだな。また後で【1K】を、しっかりと見せてもらうよ」


 そう俺も、ズリーに声をかけた。


「私のスキルが皆様から、役に立つスキルと言われる日が来るなんて...。スキルも見た目も使えないと言われ続けた日々は...地獄でした」


 そう言った後、ズリーは真直ぐに俺を見つめてきた。


「ズリー...」


 一筋、いやどんどん綺麗な涙が、頬を伝っては地面に流れ落ちて行く。


「でも、今は皆さまにお会いできて、本当に幸せと感じます。デニット様。マゼール様、ありがとうございます...」と、泣き笑顔で俺たちに感謝の言葉を述べてきた。


 良かったなズリー。今後も頼むぞ。さあ次はバリーの番だ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 緊張した面持ちではあったが、バリーのランクアップは滞りなく終了した。まあ、ランクアップをする作業は、全部マゼールが行うからな。バリーが何かをすると言う訳でも無いしな。


 バリーも新たなスキル、【魔物の顔なじみ】ランクCとなった。


「「おめでとう、バリー!」」


 皆なが一斉に、バリーのランクアップを祝福した。


 ただ、当の本人はと言えばちょっと困ったような表情をして、「ありがどうなんだな。だども...あまりわがらんけども」と言った。


 まあ、そうだよな。俺たちも違いや特徴が、いまいちピンとしないランクアップだ。マゼールも真の力を発揮するのは、ランクBになってからと言っていたしな。


『違いが分かるようになるのはランクBになってからだと思いますよ。それまでは頑張って、スキル本を集めましょう!』と、マゼールがバリーを励ました。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ただ俺たちにはイマイチ分からないバリーのランクアップも、分かるモノには分かる様だ。


 スーちゃんが「ミャアー♡」と言ってバリーの方に耳をピクピクと動かし寄って行く。どうやらバリーに興味を示したようだ。バリーの足元付近に、すりすりと顔をこすり付け甘えている。


 おー!動物には分かるんだな。スキルが【魔物の顔なじみ】となって、魔物や動物に与える好感度がアップしたのかもしれない。


 スーちゃんが俺から離れて行って、ちょっと寂しさも感じるが、確実なバリーのランクアップに手ごたえを見せてくれた。バリー、スーちゃんを頼むぞ。


 そんな自分に近づいてきたスーちゃんを「がわいいんだな、ズーちゃん」と言って喜んでいる。


 良かった。よかった。


 ピーちゃんはどうなんだろう...。ピーちゃんまで離れて行ってしまうのだろうか?


 すると、ピーちゃんはまるで待っていたかのように、俺の膝の上を独占した。さらに、俺を見上げて「ミャ~、ミャ~♡」と鳴き声を上げ、俺の膝の上で身体をゴロンゴロンと寝がえりをして、甘えて来る。


「私はあなたに一途よ♡」と言っているかのように、キラキラとした瞳で俺を見つめて来る。


 やだ...。恋に落ちちゃいそう...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 さて、2人のランクアップも無事に終了した。さあ次だ。スキル本集めだ。


 バリーが次のランクBの【魔物のパートナー】になるためには、ランクCの【魔物の顔見知り】とランクDの【知識】と【会話】。そして【絆】のスキル本をそれぞれ、10,20,30冊を混ぜ合わせる必要がある。


 同様にズリーの目指すランクBの【2LDK】に必要なスキル本は、現在の【1K】とランクDの【ルーム】と【空間】。そして【機能】、【知識】、【会話】の5種類のスキル本をそれぞれ、20,20,20,20,10冊を混ぜ合わせる必要がある。


 多種類なスキル本が必要だな。まあ、今までのイメージからして、沢山のスキル本を混ぜ合わせると、集めるのは大変だが、スキル面の向上は計り知れない。


 相当優秀なスキル本に化けるのだろう。頑張ってスキル本を集めよう。


 だがまだだ。どうせ集めるならもっと欲張ろう。


 レバルドの腕を治すためにも、【錬金術】に必要なスキル本も集めたい。


 レバルドやモッカなど、欠損部位の再生を行うためには、【錬金術】スキル本を更に、3冊混ぜ合わせて作る、ランクBの【遺伝子医療】スキルが必要だ。


 ランクCの【錬金術】スキルはランクDの【薬草学】と【鉱物学】、それに【抽出】と【再生】のスキル本がそれぞれ、10冊ずつ必要である。


 10冊ずつとは案外楽勝と思ったが、この【薬草学】と【鉱物学】、それに【抽出】と【再生】はランクDとはいえ、レアスキルである。めったにお目にかかれないモノだ。


 そんなに上手くはいかない様だ...。


 他にも【異世界車庫】のランクアップのための、【拡張】と【空間】のスキル本も集めないとな。


 気が遠なる話だな。


 でも俺には、レアなスキル本を短時間で集めるための妙案がある。この3日で全部とはいかないが、大量のスキル本を集めるための秘策中の秘策が...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そう、食べると何故だか探しているスキル本が見つけやすくなる、魔法のチャーハンだ。


 その発表に対して、表情が曇ったのがゼファー。


 ゼファ―達は、本来1日に2食、温かなご飯が食べられるだけでも喜ぶべき立場。嫌なら食うなと言われてもおかしくない話だ。


 まあ、俺はそんなことを言うつもりは無いけどね。


 それぐらい、「バランの酒場」で出されるチャーハンの味は不味い。ただし、量はEXランクだから、なりたての冒険者や、金がない者にとってはありがたい存在。


 このベリーベリー村に住んでいる冒険者ならば、一度は食べたことのある、思い出のチャーハン。


「バランの酒場」で出される飯は、全て不味いのだが、その中でもチャーハンは、群を抜いた不味さを誇る。


 でも俺は、偶然発見した。このクソ不味いチャーハンを食べた後にスキル本を探すと、何故だか目当てのスキル本が出やすくなることを。


 本当にこのダンジョンは、お茶目なことをしてくれる。絶対に俺たちの姿を見て、楽しんでいるよな。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 食べれる者が食べればいい。まあバリーは食べれるだろう。ズリーとレバルドは微妙かな...。


 俺たちが直接「バランの酒場」食べに行くと、キャラットと、うちのメンバーとのバトルが勃発し時間をとれれる。


 困っていると、カノットがタオやゼットンを引き連れて、大量のチャーハンを持ち帰って来てくれることになった。更に「作り方を見せてもらえるなら学んで来る」と前向きだ。


「そんな魔法の様な料理があるのならぜひ見たいです」と、料理人のハートに火がついた様だ。


「そんなに期待して行かない方が...」と何度も言ったが、「いいえ、私も皆さんと旅を同行する決意に変わりはありません!そのようなチャーハンを私も作れる様になったら、強力な戦力になれます!」と鼻息を荒くして俺たちに伝えてきた。気持ちはありがたいが...。


 まあ、そこまでいうのなら...と頼むことにしたが、あまり明るい未来は見えない。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 大量のチャーハンを抱えて帰って来たタオとゼットンは、「久しぶりに食べたが、やはり不味いな―、あの店は」と笑っていた。


 ただし、1人カノットだけは混乱していた。「見たことも無い色のスープをチャーハンに混ぜたり、一回一回作り方や材料、調味料の配合を変えたり、何より厨房が汚い。本当に彼はそんなにすごいチャーハンを作れる料理人ですか?」と俺に聞いてきた。


「いや違う。冒険者崩れだ」と即答した。


 マゼール曰く、ただ料理スキルが発動しているだけと教えてくれた。


 カノットも同行する様になったらそのようなスキルを集めてあげるねと言うと、落ち込んでいた表情がウソのように明るくなり、「絶対ですよ!」とぐいぐい来た。


 そんなチャーハンをズリーも一口食べて...。青白い顔となり、「辞退でお願いします」と言ってきた。


 逆にレバルドは、「いいですな!この何とも言えない苦みの効いた独特なチャーハン。珍味ですぞ!」と意外な食いつき。苦みのあるチャーハン何て聞いたことがないが...。


 早食いバリーと、チャーハン丸のみオヤジの俺は全然余裕。この3人でレアなスキル本を集めよう。他の2人には、ノーマルなスキル本を集めてもらおう。


 よし、作戦は決まった!


 さあ、ダンジョン内でスキル本集めを開始だ!取って取って取りまくってやる!

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