第22話 スキル本集め

 俺たちは今、ベリーベリー村のダンジョンに来ている。


「歓迎会」と「怪我が治ってよかったね会」が終わった後、ロラッタさん達が俺達の洋服や靴、そして防具品を作ってくれているまでの間、スキル本を集めるために、いつものダンジョンにやって来た。


 20年近く一人で潜っていたダンジョンも、今では仲間が5人に増え、協力して攻略するまでに至った。いつの間にか6人パーティーになった。傍から見れば5人パーティーだがな。


 パーティーを組んだ目的は、 マゼールと妹のシリアの身体を見つけ出すこと。それが一番の目的だ。その為には、俺たちはもっともっと強くならないと。身体だけではなく、精神的にも...。そんなことを感慨深く浸っていると...。


「神父様~!早く朝ご飯を食べて、スキル本集めをしますよ~。ハッスルハッスルですよ!」と鼻息荒くゼファーが詰め寄って来た。ズリーも首を何度も上下に動かし、ゼファーの意見に賛同している。


 何だか2人とも、嫌に気合が入っているな..。その他の者たちはと言うと...。


「身体を動かした後のお酒は、美味いですからの~」


 おっ、レバルドも前向きだ。


 そんなレバルドに対してゼファーはというと...。


「レバルド様がお酒に合うとおっしゃられていた、「はぐれ肉の軟骨揚げ」を大量に頂いておきましたよ。もちろんワインと芋焼酎、更には麦焼酎も、神父様が購入して下さいました。沢山スキル本を集めて、夜はゆっくりとお酒をお楽しみ下さい」


 ゼファーがレバルドに吹き込んでいる。


 するとレバルドは誰の目から見ても分かる程、「誠か!でかしたのじゃゼファー!早くダンジョンでスキル本を集めましょうぞ、主様!出陣ですのじゃ!」と、更にやる気に火をつけた。


 さすがはゼファーだ...。レバルドとコンビを組んできただけはある。レバルドを操るすべを熟知している様だ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 バリーはと言うと、「戦うのは苦手だども、主人がぜっがくハンマーを買ってくれたんだ!おらがんばる!」と、こちらも気合が入っている。


 バリーは、武器屋ベンスでウォー・ハンマーを選んだ。全長が2mもある。ハンマーの形をした柄頭ツカガシラの反対側にはつるはし状の鉤爪が付いており、打撃と刺突の両方を可能としている。一撃必殺の武器だ。


 更にズリーが、「スキル本集めを頑張れば、昨日の「歓迎会」で沢山食べれた美味しいサンドイッチを、もっともっと沢山食べれるわよ!旦那様はお方だから、働けば働いた分だけご飯を頂けるわよ!バリー、ファイト!」と、バリーの心を掻き立てた。


「おら、がんばる!まものだおず!スキル本、さがず!さあいごう!」と、バリーも吠える。 


 すげーズリ―、魔物使いのバリーを掌で転がしている。ランクSの【バリー使い】だな。そんなスキルは無いけど。


 ただ、「歓迎会」後から、並々ならぬ熱意をズリーとゼファーから感じ取れる。鬼気迫っている。


「歓迎会」で何かあったかな?レバルドほどじゃないけど、俺も久しぶりにお酒を飲んだしな...。あまり覚えていない面もあるし...。


 ただの「歓迎会」と「怪我が治ってよかったね会」であったと思うのだが...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 2階の連中を治した後、俺たちは盛大な「歓迎会」と「怪我が治ってよかったね会」を行った。はぐれ肉の美味しさに感動し、そのはぐれ肉の素材の旨さを最大限に引き出したカノットの料理の腕に、俺たちメンバーは惚れ込んだ。すごい料理人だ。


 仲間に加わる時が楽しみだ。


 皆な嬉しそうに食べている。そんな中バリーは、ズリーに食べ方のことで注意を受けている。バリーは食べ物を口に入れたらすぐに飲み込む、喉元で味わうタイプのようだ。食べるのが速い。


 ズリーは、バリーが希少な食材であるはぐれ肉を、味わって食べていないことを気にいっていない様だ。


 しゅんとするバリーに対し、ズリーは怒るだけではなかった。ズリーはこの短時間で、バリーの大好物を用意したようだ。


 バリーの大好物は、ズリー特製の「黒パンサンドイッチ」。サンドイッチの具材として、干し肉を水で戻した後、塩で煮込んだもの。


 何でもバリーの誕生日にズリーが、限られた品でバリーが喜ぶモノをと、苦心の末生み出した料理らしい。その当時は塩だったらしいが、この短時間の中、ズリーはカノットと協力して、甘ダレで煮詰めた「特製甘ダレ干し肉サンドイッチ」を生み出したようだ。


「おいじい!おいしい!どまらない!!甘ダレおいじい!!」


 すごく幸せそうに食べている。はぐれ肉を食べている時よりも、美味しそうに食べている。


 そんなに美味いのかな...?何となく気になる。


 試しにとカノットが、俺にも「特製甘ダレ干し肉サンドイッチ」を試食させてくれた。バリーのキングサイズに比べたら1/5ほどの大きさ。それでもデカいのだが...。


 旨いな!確かにバリーが夢中になって食べるのが分かる。甘ダレで煮込まれた干し肉が、黒パンに染み込んで絶妙なハーモニーを醸し出している。美味い。そう...美味いのだが...。


 3口、4口とバリーの様に続かない。固いのだ。噛むのが疲れる。黒パンと干し肉の両方共、普通の者には硬すぎる。バリーもはぐれ肉や魚料理などを食べるよりも、食べるスピードがゆっくりだ。


 具材である干し肉も黒パンも固いから、いつもより長く噛む。このため、口の中に含まれる時間が長くなる。だから、いつもよりも味が感じやすくなり、料理自体の美味しさが伝わりやすいのかもしれない。


 バリーが美味しいと喜んで食べる物の方が、とやかく言われて食べるよりもいいだろう。


 もちろん、バリーにもはぐれ肉の料理を渡してある。「特製甘ダレ干し肉サンドイッチ」を食べる合間に、はぐれ肉の料理も食べている。何とも幸せそうな表情をしている。


 それにしてもズリーは、料理も出来るんだな。さすが生活支援士。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ズリーはカノット特製のプリンを気に入ったようで、「あー、本当に美味しいです!濃厚でコクがあります!カノットさん、天才です!!」と、満面な笑みで2個目を食べている。


 ゼファ―は「肉も美味しいけど、この魚の香草焼きは本当にハチミツ酒に合うわ♡」と、可愛いお口で少し食べては、「う~ん。美味しい!セージとルッコラのハーブが良く効いている!数日前のこの時間は、蛙を捕まえては、皮をはいで...。お湯で煮て...うえっぷ」


 ゼファ―はズリーに愚痴りながらも、ハチミツ酒を飲んで満面の笑顔に戻る。悲しんだり、喜んだりと忙しい。


 そんな、喜怒哀楽の激しいゼファ―とは対照的なのがレバルドだ。レバルドは会場の隅に置いてある酒樽の横で胡坐をかき、満面の笑みでお酒を飲んでいる。


 酒樽一荷イッカを早くも開けた様で、二樽目に突入している。いくら飲もうが勝手だが、よくそんなに飲めるな?俺よりトイレに行っていないぞ?身体のどこに入って行くんだ?



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 レバルドがこんなに酒を飲むとは知らなかった。まあゼファ―曰く、戦闘中以外では、毎日一樽はあけていたようで、祝いの席だと二,三樽は平気で飲んでいた様だ。


「よく奥様がお怒りになっていました」と、ゼファーは言った後に笑った。


 毎晩一樽って...。笑いごとか?


 これは予想外の量を飲むな...。ゼファ―と相談した結果、酒屋ミュースで【異世界車庫】に、詰め込めるだけの酒樽を買い付けることにした。ミュースは、ほぼ原価で売ってくれると言ったが、さすがにそれは悪いと言って、心許ココロバカりだが色をつけて渡した。


 この結果、俺の【異世界車庫】は、レバルドの酒樽が9割を占める結果となった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 皆なが幸せそうな笑顔をしている。俺は何度もトイレに行きつつ、なぜだか俺の元に寄ってきては膝の上の奪い合いをする、ス―ちゃんとピーちゃんをナデナデしている。何だかバリーじゃないけど、【魔獣使い】になった気分。


 そういや。【魔獣使い】っていえば…。


『そうですよデニットさん。皆さんに【魔獣使い】についての説明をしようと思います。皆さんが一通り料理を堪能するまで、待っておりました。そろそろよろしいでしょう。皆さん、レバルドさんの近くに集合して下さい。レバルドさんは、酒樽の近くから離れようとはしませんから』と言ってきた。


 まあ今日ぐらいは...。レバルドにとって久々のお酒だ。好きなだけ飲ましてやろう。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 それぞれが好きな食べ物と、飲み物を持ってレバルドの元に集まった。


 ズリーはプリンがよほど気に入ったのか、プリンを2つとマフィンとドーナッツ、それに紅茶を持って来た。ゼファーはハチミツ酒とクラッカー、それにマッシュポテトと、はぐれ肉のカットステーキ。


 ゼファーも案外いける口の様だ。


 バリーは「もう、しあわぜなんだな!食べられないんだな!!」と言いながらも、ズリー特製の「特製甘ダレ干し肉サンドイッチ」を5個持って来た。まだまだ食べるつもりの様だ...。


 俺は芋焼酎と、魚のムニエル、はぐれ肉の骨せんべい、はぐれ肉のローストビーフを持って来た。これ以外も持って来たい料理が沢山あった。でもとりあえず、目に留まった料理を持って来た。


 皆なが、各自の持って来た料理の感想を言い合い、楽しそうに食べている。


 だが...マゼールも一緒に食べれる日を早く作らないとな。その時こそ、本当の意味での...宴の時だろうな。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『バリーさん。貴方の【魔物使い】の能力もすごいのですよ。魔物を呼び出してみたことはありますか?』


「あるんだなぁ。だけど、おらが、おらが...」


 そう何かを必死に訴えて来るが、上手く言葉にできない様だ。そんなバリーの姿を見てズリーが、俺に尋ねてきた。


「すみません、旦那様。バリーは思いを伝えるのが苦手なので私が代りに話します。バリーとは2年ほど前から一緒に行動をしております。そこで見たことをお話しいたします」と、すかさずズリーが助け舟を出した。


 ズリーによると、ズリーもバリーのスキル【魔物使い】の能力を見極めようと何度か試させたことがあったらしい。ただし、呼び出せる魔物は弱いスライムや一角ウサギ等がやっとで、戦闘場面には一応来てはくれるが、指示に従わずに逃げてしまう。


 それを聞いたマゼールは 『原因としては簡単なことですよ』と言った。魔物たちとコミュニケーションも取れておらず、絆も深められないからだと言った。


 そもそもランクDの【魔物使い】のスキルは、半強制的に魔物を呼びよせる、そんな程度でしかないスキルらしい。魔物は戦闘の場面に現れるだけ。


『見ず知らずの誰かのために、命をかけて戦おうとするモノなんていませんよ。バリーさんもそうですよね?』と、マゼールはバリーに尋ねた。


 だからランクD、【魔物使い】は不人気のスキルな様だ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『でもそんな【魔物使い】ですが、その真の力を発揮するのはBになってからです!【魔物使い】のスキル本を5冊集めて混ぜると、ランクCの【魔物の顔なじみ】になります。ただ、本番はあくまでランクBからです!』


 そうか...。なんとなくマゼールが言ったことが分かった様な気がした。確かにランクCでも、顔なじみ程度という事だ。D→Cにはランクアップしたが、あくまでも顔なじみ程度の仲ということだ。


 まだまだ魔物との絆は弱い。ただそんな【魔物の顔なじみ】でも【魔物使い】に比べれば、オークや、ミノタウロスといった、中堅どころの魔物も戦闘中に駆けつけてくれる場合もあるという。


 ただ毎回ではなく、数回に一度。しかも、2,3回攻撃したら帰ってしまうことが殆どだという。


 何だか【魔物使い】って不遇職だな。だからよほどのことが無い限り、このスキルを装備している冒険者はいないと、マゼールは教えてくれた。


 レバルドも「わしが知っている限りでは、戦闘に関係ない曲芸師ぐらいでしょうか...」と、少し赤い顔をして話に入って来た。


「そうか...【魔物使い】、厳しいスキルだな。大変だったなバリー...」と、バリーを労わった。


「あ、ありがとうなんだなぁ。主人」とバリーから感謝を述べられた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『皆さん。バリーさんの【魔物使い】というスキルは、非常に大器晩成型です。ランクCからBになった魔物使いは、ランクDとは雲泥の差がみられます!!』


 マゼールの声に熱量と熱き思いが込められている。


『このランクCの【魔物の顔見知り】とランクDの【知識】と【会話】、そして【絆】のスキル本をそれぞれ10,20,30冊混ぜ合わせると、ランクBの【魔物のパートナー】になれます。ここからが【魔物使い】の本領発揮というわけです!』


「「お~!」」


 マゼールとバリー以外から、感嘆の声が漏れた。あまりバリーは分かっていない様だ。ズリーが、「どんどんスキル本を集めれば、マゼール様があなたを強くして下さるのよ」と、バリーに要点だけを伝えた。


「お、おらも、つ、強くなれる...だが?」


 バリーが強くなることは、非常に嬉しい。


 だけど、【絆】なんてスキル本あるのか?今まで見たことも聞いた事も無いぞ。バリーを強くしてあげたいが、その材料が揃わない事にはなぁ...。


 何となく不安になってしまう。


 そんな時マゼールが、『デニットさん、大丈夫ですよ!』と、俺の表情が曇ったのを見逃さなかった。


『大丈夫です。このダンジョンには出なかっただけで、他のダンジョンで見つかる場合もあります。たまたまこのダンジョンには、【絆】スキル本が無かっただけでしょう。ダージリン村近郊のダンジョンには、あるかもしれませんよ!』と教えてくれた。


「「お~!」」


 レバルドに俺、そしてゼファ―から、歓声が上がった。ズリーとバリー、そしてマゼール以外は酒飲みだ。お酒をこの時間までにしこたま飲んでいる。ちょっとのことで驚いたり、楽しんだりする。


 この場の雰囲気に圧倒されそうになったのか、マゼールは、「コホン!そしてランクB になると...』と説明を続けた。


「殆どの魔物と意思疎通が可能となります。そして魔物からの信頼や愛情がとても受けやすく、魔物から非常に愛される存在となります!パートナーを命がけで守り戦おうとする姿は、どんな物語よりも感動と種族を超えた愛を、傍にいる者に与えますよ!』


「「おお~!!」」


 俺たち、酒飲み連中だけでなく、ズリーもリアクションの輪に加わった。バリーは分かっていなさそうだ。


「バリー!ランクBから凄いことになるらしいよ!!皆さんに負けない力を得られるらしいの!一緒に頑張ろうね!!」と、バリーの肩を優しく撫でた。


「お、おら、がんばる。みんないいひどだち。がんばる!!」


 バリーから、言葉数以上のやる気を感じた。


『コホン!』


 ただそんな中、マゼールが、また咳を一回して話を続けた。何だ、まだ話が続くのか...?


『そして【魔物使い】にも、ランクA,Sとあります。それは...まだ秘密です』


 秘密かい!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そんな楽しい時間を皆なと満喫し、解散となった。各自が自由。残って酒を飲みたければ飲めばいい。寝たけりゃ寝りゃいい。そんな感じ。


「お疲れ~。俺はゲストルームに泊まるから、女性陣はVIPルームを使ってくれ」


 マルタイ奴隷商会のVIPルームは、女性陣に譲った。


 2人は恐縮しているが、後は寝るだけの身。どこで寝ようが変わりない。


 そんな中、『今から女性陣だけによる脳内会議を開催します』と、マゼールの神妙な声が脳内に響いた。


 2人の表情から、笑顔が消えた。ズリーとゼファーの容貌が、突然引き締まった。


 な、何を話し合うんだ...。まあ、女性陣だけっていっているし、俺は寝かせてもらおう。


 腹いっぱいになったバリーも、ゲストルームに向かって歩いている。


 レバルドは、まだカノットやゼットンと会場の隅で楽しそうに話をしている。もちろん酒樽はレバルドの横にある。話題が豊富なのか、レバルドの話に皆なが、神妙な表情を見せたり、大声で笑ったりと楽しそうだ。声をかけて先に寝ることにした。


 そんな俺が寝る予定のゲストルームへ、スーちゃんとピーちゃんが当然の様に付いて来た。布団に潜り込むと、これまた当然のように俺の胸の中で2匹は眠りにつく。


 猫の体温に癒されながら眠る日が来るとは...。でも...これもありだな。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 コンコンコン、コンコンコン


「旦那様~。朝ですよ~」


 ゲストルームのドアを叩く音と、俺を呼ぶ声。ズリーが俺を起こしに来てくれた様だ。


「ああ、ありがとう。今...起きるよ。身支度をしてから向かうよ」と、ズリーに告げた。酒焼けで喉が痛い。あ~頭も痛い。まあたらふく飲んだしな。しょうがないな。


 それにしてもまだ朝の8時...。確か昨日の解散時間は、明け方の1時を回っていたような気もするが。もう少し寝かせてくれてもいいと思うのだが...。


 俺が動くと同時に、スーちゃんとピーちゃんも動き出した。本当に可愛い。癒されるわ~。


「おはようございます。旦那様♡」と、ズリーがにこやかな笑顔で俺に挨拶をしてきた。でも眼の下には明らかなクマがある。オイオイ寝てないのか...?


 でもそんなズリーの口から、「さあ旦那様!ご飯を食べて、さっそくダンジョンに向かいますよ!」と言って、二日酔い効くというカノット特製の「シジミスープ」とやらを持って来てくれた。


 おお美味い。じゃなくて!


 も、もう起床時間ですか?ズリーも無理しているだろう?だって目の下にクマがあるじゃん!


 レバルドだって辛いだろう?と思ってレバルドの方に視線を向けると、レバルドはもう朝食を食べている。それもてんこ盛りのフルーツがたっぷりと入ったシリアルを、バカバカと口に詰め込んでいる。


 オイオイ、この爺は...どんだけ朝から元気なんだ?


「主様お先ですじゃ!しかしカノット殿の料理は、朝食も絶品ですじゃ!主様も、ささっ!」


 ささっ!っじゃねえよ。この爺は放っておこう。そうだ!バリーも辛いだろう?あれだけの量の食べ物を、突然胃に詰め込んだら胸やけが...と思ってバリーの方に視線を向けると、バリーは白パンをむしゃむしゃと食べている。


「ズリー!!このパンうまいんだな!やわらがい。はじめでだ!」昨日よりも勢いよく食べている。何なんだ、このバケモンたちは...。


「神父様!さあ!ダンジョンに潜りますよ!スキルを強化して、マゼール様とシリア様の身体を探し出しましょう!」とゼファーが意気込むと、「そうですよ旦那様!行きましょう!」とズリーも非常に乗り気だ。


 何なんだ?このノリは...?


『そういう訳でデニットさん。ご飯を食べたらすぐにダンジョンへ向かいましょう。昨日の話し合いの結果、方向性が決まりました。早急に私とシリアの身体を探すことになりました。それまではその、あのですね、その...』


 歯切れが悪い。


 見かねたゼファーが、「要するに夜伽の順番がマゼール様からとなり、身体が集まるまで...私たちは...おあず」と言ったところで、なぜだがゼファーは壁に向かって逆立ちをした。


 慌ててズリーが、マクれた上着をあげて、巨大な胸の谷間を隠した。


「何をしているのですか、ゼファーさん!」と驚いた表情でゼファーを見るズリー。


「マ、マゼール様よ!マゼール様を怒らすと強制的に...!」


 あと4分30秒


 冷たくて機械的な音声が脳内に響く...。


「無理、無理です~!」と根を上げるゼファー。か細い二の腕がプルプルと震えている。


「ヒ、ヒィ!わ、私は待ちます!いくら旦那様のことをお慕いしていても。マ、マゼール様には逆らいません!」そう何度も繰り返し、色々な場所に向かって拝んでいる。


 賑やかしいな。いつの間にか仲間が増えたもんだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 昨日採寸した洋服や防具品、それにブーツやサンダルが完成るまでには、3日はかかるようだ。3日間後に4人の新しい装備品や衣服が出来上がる様だ。ズリーやゼファーが楽しみにしている。


 特にロラッタさんは、皆なに普段着を5着、下着を7着作ってくれるらしい。更に防具の下に着るチェニックやレギンスも5着ずつ作ってくれる様だ。何と俺の分まで。俺はあるからいいよと言ったのだが...。


「ダメだよ!あんなよれよれの服じゃ!!あんたがしっかりとした服を着ないと、ズリーちゃん達が貴族に...」と、毎度毎度の説教をくらった。でも3日間じゃとても無理だろう。


 だって、チェニックやレギンスも合わせたら110着分だ。3日では無理だ。俺たちも洋服が完成するまで待っているのは...なあ。


 少し心配そうな表情をロラッタさんに見せると、「なあに、街中の女連中が協力してくれるんだよ。すごい参加者だから、2日もかからない勢いだよ」と、ニンマリと笑った。


 そしてロラッタさんは「町中の皆なはね、あんた達に、すごーく感謝をしているんだよ。特に女性連中はさ。あんな獣たちをのさばらせていたギルドもどうかしていたけど、それがいなくなったんだ。洋服の1枚や2枚じゃ感謝を示せないって、皆な言っているよ!」と、ロラッタさんは言ってきた。


 3日はこの村に滞在する予定だから、無理のないようにと、ロラッタさんにお茶代を渡した。


 ロラッタさんは、「いらないよ」と言ったが、「俺たちの気持ちだ」と言って強引に渡した。


「本当に...いい男になったねデニット。周りの仲間に恵まれた者と、ごみ虫がよりついて、お山の大将になっちまった者との差なんだろうね...」と、少し寂しそうに呟いた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「なあ、マゼール、スキル本を集めるって、どんなスキル本を集めればいいんだ?」


『もうデニットさんは...。昨日説明しましたよね?ここで集めるスキル本は【魔物使い】と、ズリーのスキル【1K】の進化系、ランクBの【2LDK】に必要なスキル本ですよ!』


 全くも~デニットさんは...という声を、マゼールは俺に向けてきた。 


「すまないな。ついつい俺には優秀な相棒がいるから、頼る癖がついてしまった様だ」


 そう、頭の中でマゼールに対して謝ると、『だ、誰も、怒っていないですよ。わ、私がしっかりとデニットさんのナビをしてあげます!ずっと、ずーと一緒ですから!!」と、すごく恥ずかしそうに...でも、はっきりと俺に、思いという声を届けてくれた。


 ありがとうな...マゼール。ずっと一緒だよ。さあ!スキル本集めだ。どんどん集めて、ガンガン混ぜ混ぜして貰わないとな。


「さあ、張り切ってまいりますか!」という俺の掛け声と共に、スキル本集めが幕を開けた。

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