第18話 旅立ち

 バリーの能力の解説もいいが、奴隷商会に行きホテルを決め、ゼファーやズリー、そして男連中の装備や衣類を整えることにした。マーゼルによると、もうお昼2時を回っているという。


 急がないと。バリ―のスキルの話は、夕食を皆さんが楽しんだ後にでもお話しますと言ってくれた。


「バリーもズリーも、後4時間ほどで夕食になるが、食べられそうか?」


「おら、いつでもいいだ!!」


「もうバリーったら!わ、私も大丈夫です。ちゃんとセーブしておきました。でも本当に、私たちまではぐれを食べてもよろしいのでしょうか?はぐれと言えば、超高級食材です。活躍もしていない私たちが食べてもいいものかと...」


 少し不安そうな表情をして、俺に尋ねてきた。


「なあに、先行投資だよ。バリーの凄い能力は後のお楽しみらしいが、ズリーはもう聞いたからな。君が俺らのパーティーには必要だ。ずーと、そばにいてくれ」


 真正面からズリーに俺の想いを伝えた。


「は、はい。も、もちろんです,,,。こ、こんな醜い顔の私に対して、そんな熱い瞳を向けて下さるなんて...。旦那様!私は旦那様のモノですから...♡もちろん離れません!!」


 すると皆の脳内に、警告音が鳴り響いた...。


 ビービービー!!ズリー、警告です...。警告です...。


「ひぃっ!な、何でしょうか?この聞き覚えの無い、ひどく冷たい機械音は?」


「あ~あ、ライバルがもう一人増えてしまったようですね。それも、私たちと違って、恋の後衛系ですよ。マゼール様も私も前衛系ですから...強敵ですよ。あと、私たちのご主人様は、無自覚かもしれませんよ、マゼール様」


『ふー。デニットさんは本当に困ったお人ですね。って誰が恋の前衛系ですか。わ、わたしは、その...。ほ、ほら時間がありませんよ。あとズリー。今日の夜は女性だけで会議を開きますよ。よろしいですね?』


「は、はい、その...よろしくお願いします。色々とご指導の方...」


 そう何もない空間に向かって、必死に頭を下げている。けなげな子だ...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ちなみに今回の探索では、大量の収穫物を得た。大豊作。


 まずは、はぐれの熊さん。全身が美味しい食材らしい。


 あと、はぐれに巻き込まれて敗れて散った、ダラーク公爵家一行の装備品や持ち物。更には俺にケンカを売って逆にあの世に旅立った、ジャッカル率いるチーム「黒龍」の武器や持ち物。


 タンマリある。普通の冒険者なら、泣く泣く一部の収穫物を諦めて、地上に戻らないといけないだろう。


 俺たちは違う。スキル【収納】をランクアップさせ、【異世界車庫】にしたから。持って行こうと思えば全部持って帰れる。ただし使えないものまで持って帰る必要はない。


 後で拾いに来る者たちにもおすそ分けだ。状態の良い物だけをももらって帰ろう。


 装備品と武器類は以下の通り。


 装備品類

 ダラーク公爵家の甲冑8領分

 チェーンメイル  ×4

 レザーアーマー  ×5

 スケイルアーマー ×2


 武器類

 ブロードソード×7

 ロングソード×3

 レイピア×2

 ダガー×2

 コビシュ×1

 バトルアクス×1

 ロングスピア×1

 ナイフ×2



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ダラーク公爵一行の武器はブロードソード、ロングソードなどで統一されていた。だが、ジャッカル率いる「黒龍」一団は様々であった。コビシュなんて武器を使っていた者までいた。


 ただし「黒龍」の連中は武器の管理を疎かにしていたようで、刃先がボロボロで錆びているモノなども含まれていた。魔物と戦った後はいらない布で拭いて、オイルで塗布しなきゃすぐに痛むのに。こいつらときたら...。


 品質性にオトる物は、ダンジョンにそのまま残しておいた。俺たちががっかりしても、喜んで持って帰る物も沢山いる。多少の金にはなるからな。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そんな中、使えそうな武器を3つほど見つけた。


 1つはジャッカルが使っていた「暗闇の剣」。それにジャッカルの【収納】スキル内にあった「風切りのナイフ」。更にはエルフが憧れる武器職人、ゾルスの刻印が打ってある弓を見つけた。


 ご丁寧に征矢ソヤが50本に矢筒、それにエビラまでついていた。


 弓か...遠距離から攻撃ができる、非常に優れモノだ。ただし致命的な欠点としては、征矢の本数分だけしか攻撃が出来ない。征矢を打ち尽くしてしまったら、弓幹ユガラとしては、武器本来の意味を無くす。


 ただ...ゾルスの刻印の打ってある弓、通称「ゾルスの弓」を、ゼファーが食い入る様に見つめている。


 どうやら行き先が決まったようだ。


「ゼファーは弓を扱えるのか?」と、俺はゼファーに向かって尋ねた。


「はい、スキル【幻影】と併用して、弓で戦っておりましたから...」


「ならこいつは、ゼファーが使ってくれ」


「ほ、本当に、私が使っても宜しいのでしょうか?名工ゾウス様が作成した一品ですよ...。ほ、本当でしょうか?」


 そう驚きと嬉しさが入り混じったような表情で、何度も俺の顔を見返して聞いてきた。


「だからだ。新しい仲間も増えた。ゼファーの力が一段と必要になる。頼んだぞ」そうゼファ―に伝え、「ゾルスの弓」と残りの3点セットを、ゼファーに渡した。


「あ、ありがとうございます。神父様!やはりこの嬉しさを、すぐにでも伝えとうございます♡」と目をキラキラさせながら、俺に抱き付き唇を重ねようとしてきた...。


 嬉しいけど、またそんなことをすると...。


 ビービービー!!ゼファー、警告です...。警告です...!!


 ほら、やっぱり...。


 そう思った瞬間、ゼファーは俺から離れ、その場でスクワットを始めた。


 何故に?


「な、何をしているんだ⁉ゼファー、いきなり?」


「わ、分からないです!私の身体が勝手に、スクワットを始めて...」


 ま、まさか...。


『ゼファーさん、分からない子には実力行使ですよ。デニットさんに抱き付く暇があったら、「ゾルスの弓」の命中率をあげるために、体幹と足腰を鍛えましょうね』


 脳内の運動神経をジャックしたのか...恐るべし、マゼール。


「ちょ、ちょっと80 回を超えましたって~!もう、無理です~!!もう許して~!」


 120回で解放された...。


 足がプルプルしている。生まれたての子ヤギみたいに。


 ゼファ―の姿を見たズリーは「逆らいません。逆らいません..節度を守ります...」と、青白い顔をしながら、色々な場所に両手を合わせて拝んでいた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 マゼールは俺たちに向かって、『ゼファーさんは今後、征矢を使用しなくて済むように、【征矢】スキルを探すのも一つでしょうね』と提案をしてきた。


「ぜぇー、ぜぇー、【征矢】スキルって何なんですか?」


 そう息を切らしながら、ゼファーはマゼールに尋ねた。


『征矢を、自然界のエネルギーで作り出すスキルですよ。自然界のエネルギーを矢の形に集束させ、それを発射するスキル【征矢召喚】の獲得を目指すべきでしょう。これもランクDからSまでありますよ』


 凄い便利なスキルがあるんだな。でも知らない事ばかりだ。マゼールと出会わなかったら、知らないまま死んでいたんだろうな...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「風きりのナイフ」は、護身用がわりにズリーに持たせることにした。


 この「風きりのナイフ」を振れば、自分達に対し悪意を持った者に向かって、真空波が飛んでいく様だ。非常に便利なモノですと、マゼールが教えてくれた。


 戦闘に不向きなズリーが、ただ力まかせに振っているだけでもすごい戦力になる。ズリーも、私も役に立てると喜んで受け取った。


「暗躍の剣」は...今の俺たちにはあまり必要じゃないようだな。俺は愛用のダガーがあるし。レバルドにはリジェネレーション・シールドがある。


 バリーはどんな武器かいいんだろう?体格からはハンマーや斧が似合いそうだが...。


「オラは、ハンマーがいいんだなぁ」


 そのまんまだな。


 バリーに聞いてみると以前は、長柄タイプの超巨大ハンマーだったらしい。あまり作戦とかを考えるよりも、力まかせにハンマーをぶん回す戦い方を、好む様だ。


 攻撃が当たれば、相手に致命傷を負わせることも可能だが、外れることも多かったようだ。


 まあ、本来は【魔物使い】だしな。


 バリーに合う打ち物は、ダラーク公爵一行やジャッカル率いる「黒龍」からは、手に入らなかった。ホテル内の武器屋で買うことにしよう。


 各自に合う装備も、いい物が見当たらなかった。衣装も含め、ホテル内の店で買う事にするか。一流ホテルの2階には武器屋と装備屋、そしての衣服屋などが存在するらしい。


 つまり、低レベルな冒険者はお断りという、認められた冒険者や貴族御用達のお店ということになる。


 ついに俺もホテル内の店で買い物ができる、そんな男になれたようだな。


 涙が、溢れそうになっちまった...。年かな...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 金に関してはダラーク公爵家の連中が、金銭巾着を9個も落とし、更にはフロアから拾い集めた物も含めて、白銀貨2枚分ぐらい見つかった。


 ただ、もっとすごかったのが、ジャッカルが最後にスキル【収納】から出してくれた分だった。あいつ、どんだけ貯めこんでいたんだ?


 ミスリル貨幣だけで、72枚も出でてたぞ?白銀貨や金貨なんて数えきれない。白銀貨だけでも500枚以上はある。もう数えるのが面倒になった。


 ジャッカルたち「黒龍」の場合は、冒険だけで得た金じゃないもんな...恐喝や窃盗まがいなことも行っていた様だし。


 どんだけ貯めこんでも、結局は使わずに逝っちまったな...ジャッカル。ありがたく、有効に使わせてもらうぜ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 さらに貴金属も大量だ。


 ズリーもゼファーも「こんだけあるとありがたみが無いですね」と、げんなりとした表情を見せた。まあ、それぐらい床一面に金銀財宝が散らばっていた。


 面倒で数えたくない。俺が見てぱっとわかる貴金属として、ダイヤモンドやエメラルド、ルビー、それにパールなどが散らばっている。


「これは、ぺリドットでこっちにあるのはピンクサファイア、それに琥珀までありますね」


「えー、じゃあこれは?」


「これは、ラピスラズリですね」


「凄いですね、ズリーさん。お詳しいのですね」


「はい、昔...」とマゼールとズリー、それにゼファ―が仲睦まじく会話をたのしんでいる。なんだかんだ言って女性陣は仲が良いみたいだ。


 でもこれだけあれば、マゼールと妹の身体を探す旅も、資金面には心配しないで行けそうだな。もしかしたら....これもダンジョンの導きか?


 そんな訳ないか...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ポーション類も出てきた。ポーション(小)が20本ぐらいと、(中)が1本出てきた。


 軽度の切創や咬傷コウショウ、そして熱傷の時などに使用するポーション(小)と、骨折や切断、重度の熱傷時に使用するポーション(中)があった。


 (中)は大変貴重な物で高額だ。ただ、ポーション(中)だからといって、切断面が必ず接着するとは限らない。もちろん火傷の具合が重度の場合は、瘢痕ハンコンが残ることが多い。


 後はこまごましたモノかな。ただ、いかがわしいモノが出て来る出て来る。


「毎日ビンビン物語」や「獣王パオーン!物語」、それに「ギンギンギラギラ物語」に「吉田松〇物語」。物語ばっかりじゃねえか。それに「吉田松〇物語」何て、またマニアックなモノまで...。


 は~やだやだ。


 まあ、少し前の俺も...「毎日ビンビン物語」の、愛用者だったけどな。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 さあ、ゆっくりと皆でホテル休もう。そして、美味い物をたらふく食って、酒もたらふく飲みたいな。


 そんなことをバリーやレバルドと話しながら、ワープゾーンから外に出ることにした。


 初ワープゾーン。何だかドキドキする。すると、フワッと上体が上に浮かぶ、不思議な感覚に襲われたと、思った次の瞬間には...。


 一階です


 機械音が到着を教えてくれた。一瞬で一階に着いちまった。便利なもんだ。いつも見慣れた一階だが、ワープゾーンを利用して帰って来ると、何だか新鮮だな。


『デニットさん。何だか外が騒がしい様ですよ。それと...この村以外に出るのは久しぶりです。いえ記憶にございません。今から非常にワクワクしております!デニットさん!本当にありがとう...』


 どうやらマゼールは、俺にだけに語りかけて来ているようだ。


 ゼファ―やズリーたちは、マゼールの声が聞こえていない様だ。ただレバルドにゼファー、そしてズリーにバリー、皆の表情は明るい。


 皆...夜の歓迎会を楽しみにしているのかな?


 なに言ってんだ、マゼール...。お礼を言うのなら俺の方だよ。念願のランクSを超える、EXスキル保持者になっちまった。


 それに【収納】スキル保持者となり、しまいには、英雄レバルドやエルフのゼファ―、そして将来有望株のズリーやバリーまで、仲間に加わってもらえた。


 全部マゼールのおかげさ...。


「新しい冒険の始まりだな。マゼール。これからもナビゲーション、頼んだぜ!」


 そう俺も、マゼールに向かって返事をした。


『任せて下さい!私がしっかりと皆さんを支えますから、ご安心をして下さいね!そして...どんどんスキルを混ぜ混ぜしていきましょうね!』


 そう、明るい声で、俺の背中を優しく押してくれた。


 ありがとうマゼール...。そして、さあこれからだ! 「さあ皆、今日は思いっきり美味い物を食べるぞ!」


 俺の声掛けに、皆がとびきりの笑顔と盛大な喜びの声をあげた。




 第一章 完



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 第一章終了です。キリがいいので一度切ってみました。


 このまま第二章の作成に取り掛かりたいと思っております。


 是非、よろしかったら♡や★などで応援して下さい。第二章を書く励みになります。


 では引き続き第二章でお会いしましょう。後、下記に貨幣価値を記載しておきます。


 ◇ 貨幣価値

 小銅貨(1円)  

 中銅貨(10円)

 大銅貨(100円)   

 鉄貨(1000円)  

 銀貨(1万円)   

 金貨(10万円) 

 白金貨(100万円) 

 ミスリル貨(1000万円)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る