第17話 大興奮!

「これから、君達の元ご主人様たちが残して逝った荷物整理を始める。【収納】スキルの中身と、約20人分の持ち物を合わせると、かなりの量になる。その間、2人とも腹が減っているのだろう?荷物の中から食べ物を自由に取って食べるがいい。ただし...」


 ズリーとバリーは、非常に驚いた表情をした。特にバリーは「ほ、ほんとだが?ほんとだが?」と繰り返し俺に聞いて来る。


 するとズリーが「黙ってバリー!まだご主人様がお話し中よ!落ちついてね。頼むから」と、バリ―にくぎを刺した。


 ズリーに注意を受けてから、俺に話しかけるのをぴたりと止めた。


「ただし、この後は奴隷商会に行って正式な奴隷契約を結ぶ。その後、ホテルで歓迎会を開く予定だ。美味しい食べ物や飲み物が沢山出るから、あまり食いすぎるなよ」


 そう2人に伝えた。


 俺の言葉が終わるやいなや、バリーはズタ袋から、ものすごい勢いで黒パンと干し肉を取り出し、口の中に詰め込んだ。


 よほどお腹が減っていたようだ。体格がいい分、俺たちの5倍は食べたいだろうな。十分な食事をもらえなかったのだろう。可哀そうに...。俺たちはただ、その勢いの良い食いっぷりを見つめていた。


 そんなバリーに対して、ズリーが「バリ―!ストップ!スティ!」と叫んだ。


 すると、血走った目で食料をあさっていたバリーの動きが、ぴたりと止まった。


「ダメよバリー!慌てちゃだめ。あなたの行動一つがメンバー全員の気品を下げるの。いえ、皆もバリーと同じように食いしん坊だと思われちゃうの。ダメよ。もっとゆっくりと食べないと、お腹もびっくりしちゃうでしょ?分かった?」


「わ、わかったんだな、ズリー。バリー、ズリーの言う事、聞く」


 バリーは先ほどとは打って変わって、ゆっくりとチーズや黒パンを味わうように食べ始めた。


 その光景を見て、ホッとした表情を浮かべたズリーは、「旦那様、お聞きしたいことがあります」と言って俺の前に来た。


「何だい?」


 ズリーに俺が返事をすると、少し体全体を震わせた。


「く、くどい様で申し訳ございません。旦那様。ほ、本当に好きなだけ、水やチーズ、干し肉、パンを食べてもよろしいのでしょうか?バリーは今まで我慢をしてきました。下手すると全部を食べてしまうかもしれません...それでも...」


 ズリーは、体全体を震わせながら俺に尋ねてきた。バリーが好きなだけ食べても罰せられないように、俺に確認を求めて来たのだろう。


 俺は黙って、レバルドとゼファ―が運んでいたダラーク公爵家一行の食料を、ズリーとバリーの目の前に出した。


「食糧なら、まだいくらでもある。バリー、食べれるならいくらでも食べるがいい。だが俺たちは、はぐれを倒した。そのはぐれを今晩食べるつもりだ。もちろんズリーとバリーの分もある。食えるだけの食欲は残しておけよ」と告げた。


「う、うん、わかったんだなぁ」


「こ、こらバリー、「はいっ!」て言うの!」


 2人のやり取りが可笑しくて、俺たちは思わず笑ってしまった。


 ダンジョンは、素晴らしい仲間たちに巡り合わせてくれた様だな。


 バリーは本当に腹が減っていたのだろう。ゆっくりと味わいながら ...しかし、食べるスピードが徐々に上がっていく。すると、上品に食事をするズリーからぎろりと睨まれ、またスピードが落ちる。その繰り返しであった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 さあ、ジャッカル達が残した、スキル本やお宝の確認作業に移るか。それが終わる頃にはバリーたちのお腹も満たされるだろう。


 回収したスキル本

【回復】×3

【ルーム】×7

【譲渡】×2

【再生】×5

【薬草学】×1

【知識】×2

【記憶】×2

【性欲】×5

【バック】×2

【夜の帝王】×3

【鉱物学】×1

【細胞】×3

【テクニシャン】×2

【前から】×2

【魔獣使い】×3

【敏感】×4

【指示】×2



 やはり...【ルーム】がやたらと目立つな。ゼファーもため息を吐いている。


「これだから野蛮な男たちは!」とプリプリと怒っている。


【ルーム】。通称「ヤリ部屋」


 約8,3m²の部屋には、シングルベッドがぽつんと置かれている。


 人が一定時間内に、自由に出入りできる異空間の部屋。


 それだけの空間。じゃあこの部屋を収納代わりに使えばと思うが、そう上手くはいかない。


 この部屋の使用は30分だけ。荷物や人間、全て30分経つと締め出されてしまう。非常に便利そうで、不便なものである。インターバルは6時間。


 30分間なんだよな...せめて1時間と思うし、シャワーなどもない。なぜかシングルベッドのみ。


 ただ、荒くれ者の殆どは、このスキルを常備している。


 理由は簡単。すぐに犯せるから。性欲を満たせるから...。うーん困ったものだ。


 それにまた、【前から】や【敏感】、俺の周りをうろつく【夜の帝王】に出会った。今の俺たちに必要なスキルなのか?全部がランクDだし...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ただ、マゼールの反応は意外なものだった。『すごいです!すごいですよ、デニットさん!宝の山ですよ!』


 めっちゃくちゃ興奮している。何がすごいんだ?まさか...。


『この【薬草学】や【鉱物学】のスキルは、なかなかお目にかかれませんよ!あと【抽出】と【再生】スキルが揃えば、ランクCの【錬金術】が作れます!この【錬金術】が3冊揃えば、ランクBの【遺伝子医療】が作れちゃいますよ!だいぶ...先が見えてきましたよ!』


 マゼールが興奮している。実体があったら、周囲をピョンピョンと飛び跳ねていそうな勢いだ。だが、俺には理解できない。この手は苦手だ。


「ごめん、マゼール。何の先が見えてきたんだ?」


『もうデニットさん!決まっているじゃないですか!レバルドさんの腕の再生ですよ!』


「えっ!」


「レバルド様の腕が...!」


「ま、まさか、わしの腕が」


 皆の動きが一瞬止まった。会話も...。聞こえるのはバリーの黒パンや干し肉を、豪快に食べる音だけであった。


「す、すごいじゃないか!もしレバルドの腕が治れば、百人力だ!」


『それに、まだまだですよ...。そのランクBの【遺伝子医療】のスキルに、ランクDの【時間】や【細胞】、【性別】のスキルを相当数付つけ加えれば...』


 一旦マゼールの声が止まった。な、何が作れるんだ?


『な、なんと、ランクAのスキル、【年齢維持】が作れちゃいます!このスキルは現在の年齢を、保つことが出来ちゃうスキルです!期間はハイエルフの寿命分ぐらい可能と言われております!』


 おいおい、何でもありだな。俺やレバルド、それにズリーは、このスキルの効力の凄さに呆気に取られている。ちなみにバリーは食事に夢中だ。


「バリー、スティ!」またズリーに止められた...。


「マゼール様!スキル【年齢維持】は、1000年単位で年齢を維持できるということですか?」と、意外にもゼファーがこのスキルに、一番興味を示した。


『ええ、勿論です。ちなみに【年齢維持】スキルを10冊集めれば、ランクSの【年齢操作】を、作り出すことも可能です』


 おお、ランクSキター!


「す、すごい。嬉しいです。私は皆さんよりも長く生きるでしょう。エルフですから...。しかし、それは私やマゼール様が取り残されるという事です...。でも!このスキルによって、皆さんの年齢が維持できれば、皆さんと長き日々を一緒に過ごすことが出来ます!」


 ゼファーまでも興奮状態だ。レバルドは「わしの腕が、わしの腕が」と、繰り返し呟いている。


 オイオイお祭り騒ぎだな。


 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『こほん!まだまだあるんですよ!いかがわしい利用で人気だった、ランクDの【ルーム】ですが、なんと5冊集めると、【ルーム】の中で連続6時間使用可能な、ランクCの【デイユース】となります。更に驚くべきことに、ズリーの【生活支援士】と掛け合わせると...』


 マゼールが間を開ける。ズリーが食べていた、チーズを膝元に置き、マゼールの話に集中している。


『ランクCの【1K】に変化できちゃいます!同じランクですが、全然違いますよ!本当にすごいんですから!』


 もう、マゼールも興奮が止まらない。ワンちゃんなら、尻尾を大回転させていそう...。


『【デイユース】は時間が延長されるだけですが、【1K】は、面積が13m²に広がります。空調設備も完備で、ユニットバス、トイレ付。そしてキッチンスペースまであります!更にさらには、12時間の連続使用が可能となります。ゆっくりと身体を休めることが出来ますよ!』


 それを聞いた俺も大興奮。


「13m²もあれば、全員で雑魚寝も出来るぞ。それも12時間も泊まれるなんて、ダンジョンじゃすごく有能なスキルじゃないか!」


 ズリーや皆を見て、無意識に叫んだ。


「わしもそう思いますじゃ。すごいですぞ、このスキルは!異空間にいますので、どこでも安全に休憩が取れるのですじゃ!」


「凄い!シャワーも、それにトイレもついているの!最高よ!」


 皆が、ズリーのスキルを称賛した。


 それを聞いたズリーは「わ、私のスキルが、そんな...皆様から褒められる可能性を秘めているなんて...う、うう」


 チーズの上に、涙がしたたり落ちる。


「ズリー泣くな。チーズ食べる。元気出る」


「だ、大丈夫よバリー。久しぶりの嬉し涙だから。ありがとうね。バリー...」


「バリー、礼いらない。でも...ズリー羨ましい。おらだけ、そのまま。皆、いい人。助けたい...」


 さっきより、食べるスピードが落ちた。


 バリーなりに、ズリーが強くなり、自分が強くなれないことに責任を感じてしまったのだろう。


 しかし、そんな落ち込んだバリーに対して、マゼールが優しく声をかけた。


『そんなことないですよ、バリーさん。貴方の能力もすごく優秀ですよ。証明してあげますよ...』と、温かく、愛情のこもった声でバリーに声をかけた。

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