第15話 VSジャッカル

「おいデニット!ジャッカルが聞いているのに、何無視してんだ、あー?首を跳ね飛ばすぞ!」と言いながら、俺の前に一人の男が近寄って来た。


 またこいつか...ジャッカルのご機嫌取りで、細かなことによく気が付く男、リバーだ。ジャッカルの無二の親友であり、元いじめられっ子。ジャッカルがスキルを手に入れた瞬間、リバーもこの町の有力者になった。


 ただ...ジャッカルがいなければ何も出来ない、虎の威を借る何とかという奴だ。


 そんなレバー、じゃなかった、リバーが俺に殴りかかろうとしてきたが、レバルドがリジェネレーション・シールドを構え、俺とリバーの間に割って入った。


「ひ、ひい、で、デカい!」と言ってリバーは、急いで後ろに下がった。


「お、お前はレ、レバルド⁉な、何でデニットと一緒に?確かお前の右腕であるゼファー共々、どこぞの貴族の奴隷になったはず⁉」


 そうリバーは、俺とレバルドを交互に見つめて叫んだ。


 力は無いがこのリバー、案外情報通である。


 しかし、ギャーギャーうるせえ奴だ。別に答える必要もない。無視して地上に戻るまでだ。


「いいのですか?神父様?私の【無限流氷地】を発動いたしましょうか?」とゼファーが、小声で聞いてきた。


「まあいい。腹が立つ奴らだが、殺すまでもない。あの死に方はえぐすぎるからな...もっとも、これ以上絡んでこなければの話だが...」とゼファーに伝えた。


「おい、待てよデニット。リバーの言う通りだ。なぜ【破壊なき防壁】のレバルドがいるんだ?」


 ジャッカルが口を挟んでくる。どうやら...俺たちを、すんなりと地上に戻す気は無いようだ。


 そんな中、もう一度リバーが、大男の部下の後ろに隠れながら伺いに来た。そして何かに気が付いた様で、ニヤニヤと笑いながら俺たちを見つめた。


「ジャッカル!外套ガイトウの端からチラッと見えたが、デニットのやつ、飛び切り上玉のエルフも連れてやがるぜ!それも、レバルドとエルフ共々奴隷だ!しかも、奴隷の首輪が黄色く点滅している!仮契約中だ!」


 リバーがまたジャッカルに向かって叫んだ。


「ヒ~ヒャ~!仮契約とはラッキーだ!デニットを脅して、2人の奴隷契約を解除させれば、俺たちのモノだ!」


 娼館大好き男のノージスが、デカい声で俺を見ながら叫んだ。もう頭の中ではゼファ―のことを犯しているのだろう。いやらしい顔で、ゼファ―を食い入る様に見つめている。


 こういうことには、鼻が利く連中だ。それに、倫理観もゼロ。もう戦う事は、覚悟した方がいいようだな。話し合いで解決できるような相手ではない。


 仮契約中の奴隷は、あくまでも主人は仮の状態。本当の主人が契約を解除してから3日間であれば、誰でも主人になれる。


 つまり、現在レバルドとゼファーの仮の主人である俺が、主人としての立場を放棄すれば、ジャッカル達が2人の主人となることも可能だ。


 まあ、俺が契約を解除すればの話だがな。


「何でてめえが、このワープゾーンにいるのか不思議だったが、ようやく理解できた。外ではぐれが数時間前に出現したと聞いた。貴族連中が巻き込まれたともな。その貴族連中が連れていたのがレバルドと、そのエルフだったのなら納得ができる」


 そう、ジャッカルが俺に向かって話しかけてきた。


 誰も解説など頼んでいない。ただこの隙にジャッカルは部下に、俺たちの周囲を素早く取り囲むように指示を出したようだ。


 全く、こういうことに関しての連携は非常に優秀だ。もっと本業に力を入れれば、よかったものを...。


 さらにジャッカルは、「なぜ貴族がレバルドと、美人エルフとの契約を解除したかは不明だが、レバルドの力を借りて、ビッグベアーをやっつけたのだろう?」と俺に聞いてきた。


 まあ、その通りだな。ビッグベアーをやっつけたのはレバルドだしな。


「ふわっはははは!よかったじゃないか。死ぬ前に、憧れの収納ランクCを取ることが出来て!これで心置きなく死ねるな!それに、とてもいい顔をしている。一生懸命に逃げ道を探しているな!だが、もう遅い!おまえの周りを俺の部下たちが、取り囲んだからな!」


 そう高笑いをして、俺を見下すような目で見つめる。


 まあ、もう少し年長者を労わってもいいと思うのだが...。昔の俺なら、この状況からどう逃げのびるか、頭をフル回転させているだろうな。


 だが俺は今、こんな与太話に付き合っている暇はない。違う事をマゼールやゼファー、それにレバルドと脳内で話し合っている。


 あいつらが連れてきた奴隷たち2人のことだ。関係の無い2人を殺したくない。一生懸命救い出す方法を、脳内で会議中だ。だが、そろそろ俺を痛めつけに来る頃だろうな。


 そして、レバルドとゼファ―の仮契約解除を迫って来るだろう。さっきからゼファ―も、「すごくいやらしい視線を周囲から感じて...本当に気持ち悪いです!」と、脳内で文句を言っている。


「【無限流氷地】を発動してもよろしいでしょうか?」と、チラチラと俺を見て来る。


 もう少しだけ待ってね。


「どうするデニット、苦しんで死ぬか、それとも...そこのエルフが犯されるのを見ながら死んでいくか、どちらがいい?残念だったな...地上に帰ってエルフと犯りたかっただろうに。俺たちが、お前の代わりに楽しんでやるからよ!」


 結局、俺は殺されるのかよ。まあ、あの2人の奴隷たちを救う方法も大筋に決まった。


 あの幼さの残る奴隷2人には悪いが、一度瀕死の重傷を負ってもらい、首輪を緑色から紫色に点滅させる。


 首輪が紫色に点滅したらジャッカルに、2人の奴隷の解放を迫る。その後ゼファ―やレバルド同様、2人と仮契約をする。


 さあ、こっちの準備も整った。積年の恨みを晴らすとするか。


 まったく、くそ野郎どもだ。お前たちが俺に手を出さなければ、見逃してやろうと思ったが...やめた。今まで散々馬鹿にされた分、遠慮はしない。


 そして、当分村から離れるつもりだ。お前たちはベリーベリー村でもいらない者達だ。村の為にも、きっちりと浄化してから旅立つとするか。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「いちいちうるせえな。死ね死ねって俺はまだ死なねえよ。お前ら全員を返り討ちにすればいいだけのことだ」


 俺の発言を聞いた者たちが、一斉に腹を抱えて笑い出した。


「ヒャ―ハッハハハハハ!」


「ついに壊れたか!」


「この人数相手に勝てると思っているのか?レバルドは確かに強力だが、俺もCランクの【剣術】使いだ。レバルドの相手を俺がしている隙に、お前さえ2人の解除をしたくなるぐらい痛めつければ、済むだけの話だ」


 そう言って表情をこわばらせ、ジャッカルが俺の前にゆっくりと歩み出て来た。そしてじりじりと周りの部下たちも、俺たちとの距離を詰めてきた。唯一2人の奴隷たちは、外縁で戦況を見つめている。


 もう少しで解放してやる。待ってろよ...。


「ジャッカル、運で【剣術】ランクCを手に入れてから、やけに威勢がいいな。おまえとは、町のいじめられっ子だったのにな。エレンに助けてもらっていたのは、お前らの方だったのにな!」


 鼻くそをほじくりながら挑発し、ほじった鼻くそをジャッカルに指で弾いて、くれてやった。


「てめえ...くそ野郎が!皮をはいで殺してやる!レバルドだろうが知ったことじゃねぇ。2人まとめて殺してやる!てめえらサポートしろ!」


「「おう!」」


 そう俺に向かって、真っ赤な顔をしたジャッカルが、突っ込んで来た。


 その瞬間!俺の前にいたレバルドが道を開ける。


「なっ⁉レバルドが来ない?どういうことだ...?」


 一瞬たじろいだジャッカルに向かって、我が愛用のダガーを構えつつ、奴のソードに剣先をぶつけた。


「なっ⁉てっめえ!何で俺の剣に当てられるんだ?俺は【剣術】ランクC!それにてめえの手は、自由に動かねぇはずだ!」


「わざわざ教える必要もねえが、この後死んでいくお前に、少しばかりヒントをくれてやるよ。俺が同じランクCの【剣術】スキルを手に入れていたらどうだろうな?それに...手の怪我も治っていたらな...。てめえなんざもう、取るに足りねえんだよ!」


 ダガーを小刻みに操り、ジャッカルを攻めたてた。


「こ、このやろー!調子に乗りやがって、てめえら!何やっているんだ!俺を援護しろ!リバー、ノージス!」


 俺の素早い太刀捌タチサバきに押され、身体に無数の切り傷が増えていく。俺は脳内の優秀なナビゲーター通りの動きで、確実にジャッカルを追い詰めていく。


 俺が追い詰めれば追い詰めるほど...。


「返事をしやがれ!ノージス!」


 助けを求めだす...。「おい、よく周りを見てみろよ。助けてもらいたがっているのは、お前だけじゃないんだぜ...」


「な、なんだと...」


 ジャッカルは、はっとしたような表情を浮かべ、周囲を見渡す。


「な⁉てめえら、何をしてやがる⁉遊んでねえで俺を助けろ!」


 ジャッカルが見たのは、信じられない光景だった...。


 何もない床で、一心不乱に手足をばたつかせ、もがき苦しみ、更には全身を震わせている、仲間たちの姿だった。


「息ができねぇ!」


「ヒーヒャ~...」


「冷てえ!凍え死んでしまう!」


 周りを見回したジャッカルは「馬鹿野郎!息ができない訳ねーだろ!空気なら腐るほどある!寒いだ~⁉ふざけてねえで、早く俺の援護をしやがれ!」


 ジャッカルは、あまりにも不思議すぎる仲間の状況に気を取られ、俺たちから視線を外した。バカが、油断をしている場合じゃないだろう?


「レバルド!」


 リジェネレーション・シールドを構えたレバルドが、ジャッカルに向かって突進し、ジャッカルを反対側の壁まで吹き飛ばした。


「ぐわ~!」


 レバルドはそのままの勢いで、もがき苦しんでいるズリーとバリーの元へと駆けよった。


 そして、「もう少しの辛抱じゃ!頑張るのじゃぞ!」と励ましの言葉をかけた後、2人を俺とジャッカルの前へと運んできた。


 2人は震え、非常に苦しそうな表情をしている。そして奴隷の首輪が紫に点滅している。紫の点滅は瀕死の状態を示す。やばい!早くしないと死んでしまう。


「おい、ジャッカル!この二人をお前から解放しろ!」


「な、な、なんでてめえに命令さ、され、なければならねえ...」


 ジャッカルの片足は、変な方向に曲がり、更に胸からは肋骨が数本見えている。


 そんな状態になってもまだ、現実が見えていないのか、俺に対し悪態をついて来る。


「いいから早くしろ!」と、ジャッカルに対して強く言い放った後、俺は炎の効果でメラメラと燃えるダガーで、奴の右腕を切り落とした。


「ぎゃ~!痛い、痛い、わ、分かった、いや、分かりました。解除!2人との奴隷契約を解除します!」と、慌てて2人の奴隷の首輪に指をあてた。


「よし!ビリーとバリー!すぐに楽にしてやるぞ!」


 俺はそう言って2人の首の紫の点滅部分に触って、俺と仮契約の状態にした。


 その途端、苦しがっていた2人は、うそのように落ち着きを取り戻し、真っ青であった唇の色も、みるみるうちに戻った。


 だが...それ以外の「黒龍」のメンバーは、暴れたり叫んだりする元気も無くなり、青白い顔が真っ白になり、もがき苦しんでいた手足の動きも一人、また一人と動きを止めていった。


「ひ、ひぃ~、ど、どう言う事だ⁉分かんねえ、いてぇ、いてぇよ~。ポーションで治してくれ!何倍、いや何十、何百倍にして返す!お礼に、【収納】スキルに入っている宝箱全部をデニットに、いや、デニットさんに渡しますから!」


「お前のことなんて信じる訳がないだろうが...」


そう言って俺は、愛用のダガーを奴の首筋にあてた。


「もう悪いことはしませんから~この町からも出ていきますから~その証拠に、しゅ、【収納】!」


 ジャッカルが【収納】と叫んだ瞬間、沢山のスキル本や金銀財宝が、俺の真後ろの空間から飛び出してきた。


「あれを全部お渡し、します。ですからあの中のポーション(効果中)を、こちらに持って来て下さい!」と、ジャッカルは泣きながら、懇願してきた。


 見るも無残な姿であった。左足が変な方向に曲がり、肋骨数本が見えている。右手も俺に切り落とされて...。あまりの痛みで、糞尿を垂れ流している。


「しょうがねえなあ」と言って、ポーションを取りに行こうと背中をジャッカルに向けた瞬間...。


「バ、バカめ!てめえさえ死ねば、どうにでもなる!」と叫びながら、ジャッカルは俺の背中めがけて、ナイフを投げつけてきた。


 バカはてめえだ。


 俺の脳内には...マゼールがいるんだ。


『頭付近にナイフが飛んできます!しゃがんで下さい!』


「な、何で、ナイフを見ずにかわせるんだ...」そう青白い顔をしながら、声を震わせ俺に聞いてきた。


 俺の脳内には、頼もしい相棒がいるんだよ。教えないがな...。


「ゼファー、皆と一緒の死に方をさせてあげてくれ。奴だけ別の場所に行くのも、寂しいだろうからな」


 ゼファーは小さく頷き、「【無限流氷地】、発動!」と言った。


「ぎゃ~溺れる、冷たい、寒い、し、ん、じゃ、う...」


「良かったな、部下と同じ死に方が出来て。あばよ...」


 手を真直ぐと天に伸ばし、助けを乞うジャッカルを見つめ、別れの言葉を告げた俺であった。

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