第14話 収納+拡張×3=?
俺たちは10階にやって来た。
さて、【収納】ランクCのスキル本を頂いて、地上に戻りますか。
初めて、ベリーベリー村一の高級ホテル 「バロン」に泊まってみるかな。それとも、料理が美味しくて特別室にのみ、お風呂があるホテル「サバイアン」にするかな。まあ、バラモンの酒場は...無いな。
ベリーベリー村は村だが、発展している。それは、近くにダンジョンがあるからだ。ダンジョンは人を呼び、村に金を落としていく。だから、大都市ステーシアにあるホテル「バロン」や「サバイアン」が、チェーンホテルという形で存在する。
ゼファーは、バラモンの酒場の食事が口に合わないようだしな。金もタンマリあるし「バロン」か「サバイアン」に泊まろう。
「ゼファーとレバルド、どちらのホテルがいい?」と聞くと、「わしらも一緒に泊まらしてくれるのですか?」と、レバルドが驚いたように聞き返して来た。
当たり前だろう...と思ったけど、そうだった。2人は俺の奴隷だったんだ。すっかり忘れていた。首につけた首輪が黄色く光って、仮契約の状態を教えてくれている。重たそうな2人の首輪を見て、思い出した。
「わーい。神父様ありがとうございます!久しぶりに普通の食事が食べられます!」
ゼファーは、とても幸せそうだった。奴隷だった頃は、黒パンとくず野菜のスープのみ。主人がホテルに泊まる時は、寒い馬小屋で毎晩、塩ゆでの蛙の足を食べた日々。
「うう…。思い出すだけで涙が出てきます」と泣きながら語った。本当に泣いている...。
そんな笑いあり、涙ありの会話を楽しみながら、10階に降りて来た。緊張感はまるでない。まあ20階層のボスをを倒した後だからな。
仕方ないだろう。
10階の扉を開けるとボス戦が始まる。以前、エレンに10階について聞いてみたら、10階の扉の前には石碑があって、「この扉を開けると、ボス戦が始まる。力なき者は立ち去るがよい」と書いてあるらしい。そして、扉の中に入ると、広い部屋でボス戦が開始されるらしい。
随分とご丁寧だ。まあ、ビッグベアーなら大丈夫だろう。
そう思って、俺たちは軽い気持ちで扉の中に入った。
結果は言うまでもない。簡単にビッグベアーを倒してしまった。
ゼファーが、スキル【無限流氷地】を発動することもなく、俺も【雷炎氷刃士】のスキルを使わずに、レバルドがリジェネレーション・シールドで、熊にぶち当たってやっつけた。
どちらが熊なのか、分からない戦いであった。
「うぉー!」と、力強い勝ち名乗りをあげた。
まあ...ともかく勝った。
しばらくすると、レバルドによって倒されたビッグベアーは、霧が晴れるように消えてしまった。
だが、その代わりに、ビッグベアーがいた場所には宝箱が出現した。
中身が分かっていても、ワクワクする。この感じ、やっぱり冒険者はいい。
やめられないな。さあ、開けてみよう。
「おお!ランクC【収納】のスキル本だ!」
中身は分かってはいたが、ランクC【収納】のスキル本を手に入れられた。やった!45歳にして、それなりの冒険者の仲間入りができた。
まあ俺の物語は...ここからだからな。
「おお、主様、おめでとうございますじゃ!」
「神父様!やりましたね!」
皆からも温かい言葉を得た。ただ、今回俺は何もしていない...けど。あまり気にするのはやめよう。
『デニットさん、おめでとうございます。念願のランクC【収納】のスキル本を手に入れましたね。どうでしょうか?すぐに【収納】を、ランクアップしてみませんか?」
マゼールは、俺に祝福の言葉を述べた後、【異世界車庫】へのランクアップを提案してきた。
なんだか、すごい勢いで強くなっていくな。憧れていた10階層のボス戦も、あっさりと勝利を収めてしまった。だが、強さに慢心すると、ろくなことがない。足元をすくわれないようにしないとな。
「ああ、頼むよ。【異世界車庫】へのランクアップを!」
『了解です!混ぜ混ぜしちゃいますよ~!危険ですよ~!』と、嬉しそうに俺たちに伝えてきた。
今になると、マゼールが【混ぜるな危険!】を嬉しそうに発動する理由も、なんとなく理解できる。俺たちの能力が高まり、未来への道が開かれることを直感的に感じるのだろう。
ズタ袋から、ランクD【拡張】のスキル本が3冊飛び出してきた。【拡張】と【収納】のスキル本のページが勝手に開いて、文字だけが俺の頭の中に入って来た。
さあ、頼んだぞマゼール!
『EXスキル、【混ぜるな危険!】の効果によって、【収納】ランクCのスキル本と、ランクD【拡張】のスキル本3冊が混ざり合い、ランクBの【異世界車庫】になりました!』
そう、完成を心待ちにしている俺たちの脳内に、マゼールの元気いっぱいな声が響いた。
おお!【収納】ランクCをあっという間に追い抜いてしまった。
ジャッカルが酒場でよく、「ランクCの【収納】スキルなんて役に立たねえよ。ちっとも荷物が入らねえし!」と言っていたな。
まあ、持っていない者からしたら、嫌味にしか聞こえなかったが、実際に手に入れると、その理由が理解できる。確かに【収納】ランクCは狭い。
ジャッカルのチーム「黒龍」は、30人程の大所帯だ。ダンジョンには常に20人程で挑む。ワイン樽1個分の容量では、とてもすべての荷物を納めることはできない。
まあ、羨ましい悲鳴にしか聞こえなかったがな。
ちなみに、「黒龍」や「氷の翼」などがダンジョンに潜る時は、荷物持ちとしてレンタル奴隷を連れていく様だ。
「黒龍」は、レバルドの様な欠損奴隷を安く買い、使うだけ使って、下層階で捨ててしまう。
そんなこともしている様だ。まあ胸糞悪い連中だ。会いたくもない。早く荷物をまとめてダランバーグ大聖堂に向かおう。ベリーベリー村とはしばしの間お別れだな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『ビッグファイアーベアーを【異世界車庫】にしまう為に、一度9階に戻りましょう。その後、またここに戻って来て、11階入り口のすぐ手前にあるワープゾーンを使って、1階戻りましょう』と、マゼールが提案してきた。
「そうだな。賛成だ。久しぶりの地上だな」と、マゼールに返事をした。
地上に戻るのも、なんとなく久しぶりの気がする。それほど時間は経っていないのだが、色々あったからな。
するとレバルドが、「わしらも、はぐれに会った時は、正直、生きて出られるとは思っておりませんでしたのじゃ」と言ってきた。
そうだよな、出会った時レバルドは、死にかけていたもんな。
「私もです。もう神父様と、マゼール様に会わなければ、間違いなく熊の餌になっていたでしょうね...」そう言って、ゼファーも体を震わせた。
そんな会話をしながら、はぐれ熊と、ズタ袋が置いてある場所まで戻って来た。
はぐれ熊と集めたズタ袋7個を【異世界車庫】にしまった。
凄いな。念じるだけで熊さんが、その場所から消えてしまった。すごい便利だな。収容量は限られているとはいえ、こんな重たい熊さんなんて普通、運べないからな。
ありがたや~、ありがたや~【異世界車庫】さまさまだ。
異世界車庫の便利さに俺が感心をしていると、レバルドも深く頷いた。
「奴隷の立場から言わせてもらいますと、本当に便利な機能ですじゃ。戦闘して疲れ切った後も荷物を運ばせられた身分。身をもってありがたみを感じますのじゃ」と言ってきた。
なるほどな。
「そうですよね。水袋とかも重たいですし、くにゃくにゃと形が変わるから、運び辛かったですし」と、ゼファーもレバルトの発言に深く頷いた。
そんな話をしながら、もう一度10階のボス部屋に戻って来た。ボスはまだ復活していなかったため、そのまま素通りして、11階入り口のすぐ手前にあるワープゾーンに皆で向かった。
ワープゾーンは案外広く、ボス部屋ぐらいある。この場所は安全地帯でもある様で、焚火の跡などもあった。
「さあ、お疲れ様だ。外に出て、旨い物でも食べよう。そうだ、今日狩ったはぐれ熊を料理に出してもらおう。酒も飲み放題でいいぞ、レバルド!」
「ま、まことですか!奴隷になってから、酒など飲めなくて...感無量ですじゃ!では、ありがたく心置きなく飲ませて頂きますのじゃ!」
「た、大変なことになりますよ。樽2つは用意しないと」など、楽しい会話が弾んだ。
そんな中、「ブーン」とワープゾーンから音が鳴った。どうやらワープゾーンを使用して、地上から降りてくるチームがいるようだ。
おいおい、まさかな...。
「おら、ズリーにバリー!遅えぞ‼てめえらみてえな汚ねえ奴隷、いくらでも替えはいるんだ!早く来い!」
「は、はい゙。ず、ずみま゙ぜん!」
「わ、わかったんだな」
「さあ、いっちょうやってやるか!」
「金稼いで、娼館に行くぜ~!ひ~ひゃ!」
本当に下品だな、汚らしい...。そんな汚らしい発言を大声でしながら、様々な武器を装備した男たち20人ほどが、ワープゾーンから降りてきた。
荒くれ者達の声が聞こえたと同時に、レバルドが盾を構え、俺たちの前にスーと出た。前から来る者達から、嫌な気配を感じたのだろう。
ただ中には、無理やり働かされている者もいるようだな。可哀そうに。幼さの残る声をした者2人が、大荷物を背負わされている。奴隷か?
どこにでも奴隷はいるんだな...。
そんな荒くれ者達のしんがりから、「さあ、狩りの時間だ!って、オイオイ⁉何でてめーみてーなジジイが、このワープゾーンの前にいるんだ!ビッグベアーを倒さない限り、このゾーンには入れないはずだろうが!」と、一番関わりたくない者が、俺の顔を見るや否や叫んできた。
は~。やっと宿屋でのんびりできると思ったら、また、面倒な奴に出くわしちまった。
いやだいやだ、さっさと町を出ていこうと思ったのに...。ジャッカル達、「黒龍」のメンバー達と、鉢合わせをしてしまった...。
ダンジョンのやつ、ジャッカル達と一戦を交えろってことか?また面倒くさいことをしてくれるな。
うんざりとした表情と共に、デニットは深い溜息を吐いた。
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