第12話 ダンジョン×指針×刻印×石板=?

 さあ、もう一つの宝箱を開けてみよう。


『こちらの宝箱は、私の能力でも分かりません。こんなことは初めてです。宝箱からトラップは感じられません。しかし、貴重な物が入っているのは間違いないでしょう。危険はないとは思われますが、慎重にお開け下さい』


 マゼールにしては珍しく、困惑している様子であった。とにかく慎重に開ける様に促して来た。またレバルドもゼファーも、「私が空けた方が...」と俺の身を案じてくれた。


 長年一人でダンジョンに潜っていた俺は、シーフとしての役割もこなしていた。俺が宝箱を空けるのが妥当だろう。まあ、何かあったらすぐに【高度先端医療】で治せばいい。


「では開けるぞ」


 ゼファーとレバルドが見守る中、恐る恐るゆっくりと蓋を開けた。すると中には...。


「何だこりゃ?」


「何ですかね...」


「ちょっと期待外れというか...」


 白煙とともに宝箱から現れたのは、何も刻まれていない長方形の形をした石の板、石板であった。


 床において5秒後に、石板本来の大きさに戻った。


 その石板の大きさは約50×30×5cmで、灰色に近い色あいをしている。重さは3kgほどかな?見た目よりも軽く感じる。


 その表面は滑らかで、手に持った時に冷たさを少し感じた。


 ただし、その表面は何も刻まれていなく、本当にただの石の板であった。


 そんな石の板が宝箱にぽつんと入っていた。


 何だ...これは?思っていたのと違う...。


 マゼールですら中身を見る事の出来なかった宝箱。否が応にも期待ししまった...。それが何も書かれていない石板とは。


 何となく最初にマゼールを発見した時の、何とも言い切れない感情を思い出した。


 もしかしたらこいつも...。


「マゼールこいつは一体?」


『はい。一見するとただの石の板です。ですが、私には分かります。デニットさん。先程回収したスキル本の中から数冊を使わせて頂いてもよろしいですか?』


「ああ、かまわないぞ」


 先程、皆でこのフロア内に落ちている、装具やスキル本、それに食糧などを回収した。


 ズタ袋7個分にもなった冒険者たちの遺品には、干し肉やチーズ、黒パン、そして水袋、それに貴族の連中が装備していた、豪華な甲冑や剣など。またそれ以外にも、スキル本や貴金属、それに貨幣や魔石なども含まれていた。


 特にスキル本は、全てがDランクではあったが、面白そうなスキル本も含まれていた。


 回収したスキル本

【回復】×3

【アイス】×2

【剣術】×2

【譲渡】×3

【ダンジョン】×1

【ファイア】×4

【知識】×2

【性欲】×1

【後ろから】×1

【夜の帝王】×1

【指針】×1

【拡張】×3

【探し物】×1

【前から】×1

【刻印】×1

【魔獣使い】×2

【敏感】×1


 何やら多種多様なスキル本が、ズタ袋に詰められていた。何だか...いかがわしい物まで。また【夜の帝王】と出会ってしまった。


 何だよ、【後ろから】って...。本当に何でもありだな...スキル本。


 補足だが、この【後ろから】というスキル本、効果は背後からこっそりと忍び寄り、敵を抹殺するという暗殺系の物であった。


 てっきり、【夜の帝王】とのコラボ品かと思ってしまった。性欲がたまっているのかもしれない...。ただ【前から】は...。


 いかんいかん。話を戻すとこのスキル本の中には、マゼールが気になる物もある様だ。どうぞ使って下さい。【ファイア】でも【後ろから】でも【敏感】でも、お好きなように...。


 マゼールは『やはり感じます。この石板は、私にことを望んでいます』と言った。


「「混ぜられること」を望む?一体どういうことなんだ?」


『はい、私のEXスキル【混ぜるな危険!】によって他のスキル本と混ぜ合わさり、一つの完成形になることを望んでいます!』


「それは...何の変哲もない石板が、意味を持った物に変わるという事ですか?」


 ゼファーが俺やレバルドの顔色をウカガいながら聞いてきた。


 多分...そう言う事だろうな。


 俺も自信が無いが、マゼールの話しの内容から察するとそう言う事だろう。


『はい、ゼファーさんやデニットさんが言った通りだと思います。石板と数種類のスキル本を混ぜあわせることによって、石板本来の意味のなす姿に変えることが可能です。この石板を、本来の姿に変えることが出来るのは私だけ...。私に何かを伝えるための物としか思えません!』


「わしもそう思いますじゃ。普通、はぐれを倒したら宝箱は一つだけ。それが今回は2つも現れましたのじゃ!絶対にただの石板の訳がありませんのじゃ!」


 レバルドは真直ぐに俺を見つつ、力強く答えた。


「俺もそう思う。よしマゼール。混ぜてみてくれ。そして本来の石板の姿に...してあげてくれ!」


『了解です。でも皆さん、石板はもう2度とその形を成さない物になってしまうかもしれません...それでもよろしいですか?』


 マゼールは確認してきた。俺たちは力強く頷いた。マゼールの力を信じている。


『皆さん...ありがとうございます。本当に皆と出会えてよかった..』と小声でつぶやいた後、『コ、コホン!』と咳払いを一度した後、いつもの儀式を始める様だ。


『では、混ぜ混ぜしちゃいますよ~!危険ですよ~!』


 マゼールは先ほどとは打って変わって元気な声になった。そしてスキル本が沢山詰め込まれたズタ袋の中から、【ダンジョン】と【指針】、それに【刻印】のスキル本が、飛び出してきた。


 何だろう?今回のスキル本たちは、待っていましたかの様な勢いを感じた。俺だけ?


 そして、それぞれのスキル本のページが勝手に開き、その文字が石板の中に入っていった。


 さあ、ここからだ。どんな石板に変わるんだ?


『EXスキル【混ぜるな危険!】の効果によって、ランクDの【ダンジョン】と【指針】、更に【刻印】のスキル本、各1冊ずつが混ざり合い、ランクDの石碑、【明かされる過去と向かうべき未来-Ⅰ】となりました』


 そう、完成を待ち望んでいる俺たちの脳内に、マゼールの声が流れてきた。ただしいつものように歯切れがよくない。自分でもよく分かっていないのかもしれない。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ここにいる全員が困惑した表情を浮かべている。【明かされる過去と向かうべき未来-Ⅰ】って、何なんだろう?マゼールの発する、次の言葉を待っていた。


 するといきなり石板が光り出し、何も描かれていなかった表面に、見たこともない模様?文字らしきものが、勢いよく刻まれていく。


 凄い、止まっていた時間が動き出したかのように、猛烈な勢いで何かを刻んでいく。俺たちに何かを伝えたいかのように...。


 それよりもマゼールだ。スキルを発動してから俺たちに話しかけてこない。いつもなら喜び一杯の声でスキルの完成を伝えて来るのに...。


「おい!マゼール、マゼール大丈夫か!」


「マゼール様!」


「マゼール殿、お返事をして下され!」


『は、す、すみません。私も皆目検討がつかないスキルです。少し戸惑ってしまいました。しかし...すごいスピードで石板に文字、古代文字が刻まれています。どれどれ...』


 そう言ってマゼールは石板に刻まれた文字を読んでいるのだろう。『なっ!』や『いやはや』、『そんな』、『う、うそでしょ』などと呟く声が聞こえる。


 は、早く俺たちにも教えてくれ...気になってしょうがない。


「マゼール様、わ、私たちにも教えて頂きませんか?」


 ゼファーが脳内でマゼールに恐る恐る聞いた。やはり同じ思いだったんだな。


『は、す、すみませんでした。石板に書き示されている内容ですが、私の過去とこれからの指針でした。つまりですね...』


 そう、マゼールは一呼吸ついた後、石板に刻まれた内容を俺たちに語り始めた。

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