第11話 2つの宝箱

 俺の会心の一撃、デニットアタックが決まった。


 魔物の体内に得物を押し切った感覚は、久々で爽快だ。


 気持ちがいい。この感覚だ。この感覚...。20年ぶりの感覚だ。まさか再び味わえる日が来るとはな...。


 床に仰向けに寝転ぶビッグファイアーベアーは、目を大きく見開き、口を大きく開けていた。死んでいるというのに、恐ろしい表情をしている。俺が死ぬ時はもっと穏やかな表情をして、死ねているだろうか...。


 そんな物思いにふけっている俺の横から「主様!やったのですじゃ!ビッグファイアーベアーを倒したですぞ!たったこれだけの人数で、信じられませぬ!」と、ムキムキの老兵は、やや興奮冷めやらぬテンションで、俺に熱く語って来た。


「神父様、お怪我はございませんか?はぐれ討伐おめでとうございます!すごいです!さすがは我が神父様です!」


 そう言いながらゼファーは、俺に抱き付いてきた。


『警告です...。警告です...。ゼファー、デニットさんから離れなさい。2度目はないですよ。全身の血管をずたずたに引き裂きますよ...』


 脳内で警告音が鳴り響く。


「ごめんなさい、マゼール様、ついつい嬉しさのあまり、身体が勝手に動いてしまって...。決してわざとじゃないですよ。わ、ざ、と、じゃ」と、名残惜しそうな表情を残しながら俺から離れ、脳内のマゼールに対して、やや挑発するかの様な言い方をした。


 やめなはれ。


『まったく、本当にこの子は!でも...デニットさん。よく頑張りましたね。おめでとうございます!』そう、機械音の声は一転して柔らかな声となり、俺の最後の一撃を称えてくれた。


「皆のおかげだよ。ありがとう。一人じゃとても勝てない敵だった。ゼファーが【無限流氷地】を発動してくれて、レバルドが【炎の散弾】から俺を守ってくれた。そして、マゼール。全体の指示を...本当に皆、感謝する」


「そんな感謝するだなんて当たり前です!私は神父様の全てを受け入れる、オールOkな奴隷ですから。神父様の身の安全と夜の生活を快適にするのが務めですから!」


 ゼファ―が俺に熱く語って来た。また、脳内で警告音が鳴り響く。俺たちの揉めている様子を微笑ましそうに見つめるレバルド。


 何だかいっぺんに賑やかになったな...。


 そして、俺たちはそれぞれの大幅に上がった能力を確認し合った。


 すげえな、レバルドのレベル。やばいな。そんなたわいのない会話をしばらくの間、楽しんだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 Lv.37 デニット・バロット 45歳 人族

 

 HP : 402(360)

 MP : 155(122)

 STR(筋力) : 112(82)

 DFT(防御力): 112(94)

 INT(賢さ)  : 88(78)

 AGI(素早さ) : 182(152)

 LUK(運)  : 118(100)


 ※ ( )内はLv.33時点。


 取得スキル

 EXスキル(1/1) 

 混ぜるな危険! 

 

 EX波及スキル(1/15) 

 高度先端医療(B)

 雷炎氷刃士(C) 

 

 取得スキル(0/3)



 Lv.62 レバルド 60歳 人族

 

HP : 782

 MP : 192

 STR(筋力) : 392

 DFT(防御力): 384

 INT(賢さ)  : 72

 AGI(素早さ) : 172

 LUK(運)  : 91


 取得スキル(0/3)

 譲渡(D)(マゼールとの会話可能)

 破壊なき防壁(C)



 Lv.24 ゼファ― 21歳 エルフ族

 

HP : 222

 MP : 264

 STR(筋力) : 61

 DFT(防御力): 55

 INT(賢さ)  : 98

 AGI(素早さ) : 94

 LUK(運)  : 59


 取得スキル(0/3)

 譲渡(D)(マゼールとの会話可能)

 無限流氷地(C)



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 それにしても、あの熊さんは相当暴れたようだな...。俺たちと戦闘した9階層には、冒険者の物とみられる数多くの武器や防具、それに、宝箱から回収したであろう未使用のスキル本や貴金属品、それに貨幣などが至る所に散らばっていた。


 遺体は、約1時間ほどでダンジョンに吸収されるが、装備品や武器などを含めた物品はそのまま残る。


 だから、はぐれが出ると噂をどこからともなく聞きつけて、物品を拾いに来る輩がいる。


 はぐれに巻き込まれた貴族たちのパーティーが死んだら、高価な装備品等が、取り放題だからな。せちがらい世の中だ...。


 ただ、その恩恵は今回、俺たちが授かったがな。


 落ちている貨幣やスキル本、それに武器や装備品、更には貴金属等、全てをくまなく拾い集めた。


 それ以外にも、水や食料が詰められたズタ袋を2個見つけた。


 全部集めたら、ズダ袋7個分にもなった。あと、それとは別に、金貨や銀貨の入った金銭巾着が9個も見つかった。


「おいおい、凄い豪華だな。いくらはぐれが出たからといっても、普通ならこんなにも備品は集まらないはずなんだが...」


 俺は集まった戦利品を見つめ、あっけに取られていると、レバルドが「主様、ここには20人を超えるパーティーがいましたから、装備品や荷物が大量にあって、当たり前ですじゃ」と言った。


 何でもレバルドたちは戦争後、とある貴族の奴隷に落ち、今回はその貴族の護衛として満足な武器や装備も与えられぬまま、ダンジョンに連れられて来たらしい。


 20人ほどの大所帯でダンジョンに潜り、15階を目指していたようだ。


 このため、ズタ袋には大量の食糧に水、道中で得た貴金属やスキル本が、所狭しと詰め込まれていた。


「ダラーク公爵たちに無理やり...死にそうな目に遭いました。はぐれが現れた途端、次々とやられて...。半数程は逃げだしてしまいましたし...。私たちはボロボロになるまで戦わされた後、置き去りにされて...」


 ゼファーが、積まれたズタ袋を見つめながら教えてくれた。


 だから落ちている装備品も豪華なんだな。甲冑だなんて、こんな9階層で落ちている装備じゃないもんなぁ。それにお揃いで胸に「ローレル」が描かれている。


「「ローレル」?そう言えば...。7階層の入り口で亡くなっていた連中の甲冑にも「ローレル」が描かれていたな」


 そう呟くと、「ダラーク公爵一行です。すれ違ったのですか?」とゼファーが聞いてきた。


「すれ違ったというか、罠にかかり全員...死んでいた」


「そうですか...死んだ者をとやかく言いたくないですが、男の姿に化けた私を犯そうとする者もいたり、本当に胸糞が悪い連中でした」


 そうプリプリとゼファーは怒っている。まあ、化けた姿もイケメンだったからな。そっち系にはたまらないのかもな...。俺には分からない世界だけどな。


 まあ、そんなことを言っている暇はない。まだ、はぐれを倒したボーナスとして、宝箱も出現している。それもなぜか2つも。本来は一つらしいが...。


 さあ、一番のお楽しみだ。はぐれを倒した戦利品の宝箱を開けよう。


 通常、敵を倒すとその遺体は消えてしまう。時々、倒した敵から僅かばかりのお金やアイテム、さらには魔石などが現れることもあるが、毎回ではない。


 たが、必ず宝箱やアイテムが現れる時がある。それが10階層と15階層に現れる、階層ボスを倒した時。20階層に階層ボスがいることは、マゼールだから知り得たのだろう。俺も初耳だった。


 10階層のボスであるファイアーベアーを倒すと、ランクCのスキル本が必ず出現する。


 このベリーベリー村では、【収納】ランクCのスキル本が、必ず手に入る。


 なぜだか決まっており、このランクCのスキル本を所持しているチームは、強者たちとしてアガめられる。


 ただし、これまた不思議なことに、何度10階層のファイアーベアーを倒しても【収納】ランクCが入った宝箱が出現するのは一度だけ。つまり、欲張るなという事だ。絶対に管理している者がいると思う。


 ちなみに、15階層の階層ボスを倒すと、ランダムに宝箱が出現する様だ。ただし、これはあくまで噂の範囲だが..。


 階層ボス以外では、はぐれだ。はぐれを倒すと階層ボス以上の美味しい特典がある。はぐれ自体が美味しい食材であること。後は15階層の宝箱同様、中身がランダムに出現することだ。


 噂では、その戦った者たちが欲している物が優先的に現れる、そんな話を耳にしたことがあるが...これまた、ただの噂話の範疇だが。


 ただ...今回、目の前には倒したはぐれの近くに、2つの宝箱が突如として現れた。


 マゼール曰く、魔物を倒して現れる宝箱は一つらしい。こんな一体の魔物を倒して、2つの宝箱が出現するなんてあり得ないと、やや困惑していた。


 さらにマゼールの力をもってしても2つのうち、一つの宝箱は、中が見えないらしい。罠は存在していないようだが、宝箱の中から何が現れるかは、分からないという。


 まあ、開ければ分かる。それだけのことだ。


 まずはマゼールが把握している、宝箱の中身を開けてみよう。


 さあ皆、宝箱を開けよう。


「何が出るかだな。何が欲しい?皆なら?」


「そうですな、主様が役立つ物がいいと思われますが...個人的ならお酒ですかな」


 酒か...。右手の回復関連じゃないのね...。


「私も、神父様が望まれる物がいいと思います。個人的には...内緒です♡」


 ゼファ―は頬を赤らめ、熱い視線で俺を見つめる。やば、可愛い。いかんいかん。脳細胞を破壊される。


『コホン!私も、皆さんが冒険に役立つ物がいいと思われます。まあ中身を知っておりますので、どうぞ開けて確認をして下さい』



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 さあ開けよう!


 するとそこには、銀色に輝く小型の盾が入っていた。手のひらぐらいのサイズだ。


 おお、盾だ!当たりだな。宝箱はそんなに大きくない。不思議なことに、宝箱から取り出して5秒後に元の大きさと、重さに変わる。


 慎重に取り出し、床にそっと置いた。すると5秒後、ピカ―と光りを放ち、光り終わるとバカでかい重厚な盾が現れた。


『リジェネレーション・シールドです。自動修復機能付きの優れものです。非常に強固で,大きな盾です。どんなに激しい戦闘でも、新品同様の状態で保つことが可能です。また、盾の表面はドリル状の突起が無数についており、突進攻撃も可能です』


 はー、プラチナのように美しい盾だな。ただ...大きすぎるし、重すぎる。俺には扱えない。


『何とこの盾は、スキル本との組み合わせも可能です。更に強く、美しくすることが可能な物です。そして、更にさらに...』


 な、まだあるのか...自動修復機能付きで、スキル本との組み合わせも可能、更に特典なんて、想像できない。何があるというんだ?


『今なら、背中に固定する為の専用キャリアが付いてきます。これにより、戦闘以外の時は、背負って運べるという便利な代物です!』


 な、なんてお買い得なんだ。もうダンジョンが「レバルド、使いなよ」と言っているようだな。


 このダンジョンは、俺たちに対して好意的な存在の様だな。俺の体たらくな生活を戒めるかの様に、体を鍛え、そしてレバルドやゼファーと引き合わせ、足りない戦力を補ってくれた。


「レバルド、この盾を使ってくれ」


 レバルドに向かって俺は、盾を渡した。俺には扱えない。どうみても、ダンジョンがレバルドに用意した物だ。


「主様、よろしいのでしょうか⁉」


「ああ、俺にはとても扱えない。この中で扱えるのは、レバルドだけだよ。頼むぞ。俺たち全員を守ってくれ!」


「お任せ下さい、主様!この「破壊なき防壁」ことレバルドが、皆様をお守りしますぞ!」そう言った後、リジェネレーション・シールドを軽々と持ち上げ、その雄姿を俺たちに見せた。


 は~恰好いい。おじいちゃん。すげえな。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『好意的なダンジョンですね』


「やはりそう思うかマゼール...」


『はい、デニットさんもですか?この盾はレバルドさん用です。そして、その前はゼファーの能力を大幅に上げるように仕向けていた様な気がします。さらに、もう一つの宝箱が気になります。このダンジョン内で私が見えない宝箱...。気になります』


 まあ、悩んでいてもしょうがない。悩み過ぎると、せっかくの熊さんが腐ってしまうからな。さっさと開けてみよう。


 そう言って、私たちはもう1つの宝箱の前に移動した。その宝箱は形状は同じだが、マゼールでも中身が見えない。


 一体、何が入っているというんだ?

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