第10話 スキル【無限流氷地】

『デニットさん!油断大敵ですよ!でも、お疲れさまでした。これで熊狩りに必要なピースが出そろいました。早速、混ぜ合わせを致しますね。今回は3人の前で披露するので、少し緊張を致しますが...大切なですので。コホン!』


 そうマゼールは一呼吸置いた後、いつもの大切なマゼールのへと移っていった。


『では、ゼファ―さん、あなたのスキル【幻影魔法】ランクCと、5冊のランクDの【アイス】を混ぜて、ランクCの【無限流氷地】を作ります。よろしいですか?』


 そう言ってゼファーに確認を取った。


「私は、神父様に身も心も捧げると誓いました。私のスキルをどう変えようと神父様次第。より強いスキルに変わるのなら、より神父様をお守りできます!変えて下さい!」


 ゼファ―の発言を聞いたマゼールは、いきなり機械音に変わり、『あなたはデニットさんに「」など、一言も言っておりません。「」と申しただけです』と言った。


 機械音に変わる時は、マゼールが怒っている時だ。何だか...いやーな雰囲気が漂っている。


「いえ、それと同じです。私の父親代わりであるレバルド様を救っていただけました。そして、私もです!返せるものはこの身だけ...。私は神父様にすべてをお捧げ致します。戦闘奴隷ではなく全て、オールOKな奴隷として、今後の人生をお支え致します!」


『いえ、必要ありません...と、言いたいところですが、今は時間がありません。この戦いが終わりましたら、時間をかけて話し合いましょう。さあ、スキルを混ぜ合わせますよ!』


「了解しました、マゼール様。そのようですね。今、この話し合いは一旦封印しましょう」


 何だか分からないけど、マゼールの声が機械音ではなくなった。だが、あまり穏やかな声色ではない。


 脳内では2人の不気味な笑い声が響いている。


『ふふふふふ』


「うふふふふ」


「いいことですじゃ。親離れです。ゼファーの面倒は頼みましたぞ、主様!」


 こらこら、レバルドまで乗っかって来るな。


 マゼールも引っかかるところがあるようだが、でもそこはプロである。次の瞬間、声色は元に戻り、『ではデニットさん、そして皆さん!混ぜ混ぜしちゃいますよ~!危険ですよ~!』と、今回も早口で話しかけてきた。


 マゼールの軽快なかけ声と共に、スキルの融合が開始された。


 そんな中、俺は時折飛んでくる【炎の散弾】と対峙しながら、マゼールの作業が無事に終わるのを待った。


 すると、マゼールが喜び一杯の声で、『EXスキル【混ぜるな危険!】の効果によって、ランクCの【幻影魔法】と5冊のランクDの【アイス】が混ざり合い、ランクCの【無限流氷地】を作成しました!』と、俺たちにスキルの完成を伝えてきた。


「やったな、マゼール!これで熊狩りができるんだな⁉」


「やりましたぞ、マゼール様!ついに熊狩りですな!」


「マゼール様ありがとうございます。純粋に嬉しいです!」


 随分、脳内も賑やかになったものだ。さあゼファー、活躍の時が来たようだな。


 でも、ゼファ―の魔力は半分ぐらいしか戻っていないだろう。もう少し時間稼ぎが必要かもしれないな。


「時間を稼ぐか。あとどのくらいでゼファーは【無限流氷地】を使用できるようになるんだ?」


 俺の問いに対して、マゼールが『先ほどデニットさんの非常食を無理やり食べさせましたから、もう7,8割は回復していると思われますよ』と返事をかえして来た。


 魔力枯渇への対策としては、3つある。言わずもがな1つ目は、休憩である。


 2つ目は、マジック回復ポーションの飲用である。しかし、ポーション制作師しか作れないうえに、美味しくない。つまり ... 不味くて高い。


 3つ目は、食事で魔力を補充する手段だ。マジック回復ポーションほどの効果は無いが、それなりに回復できる。黒パンや果物、干し肉、等など、何を食べても魔力は回復していく。


 しかし、食べ物の中で最も効率的なものは、なぜだか蛙。の中でも、塩で煮た足は、信じられないほどの魔力を回復させる。「何で!」と思うが、そうだから仕方がない。


 それに、蛙はそこら辺に沢山いる。魔力が無くなったら沢山食べればいいと思うが、バラクール星の蛙は生臭く、泥臭いから敬遠される。戦場でもない限り、よっぽど好き好んで食べる者はいなかった。


 しかし、奴隷の身分に落ちたゼファーは、自分の幻影効果を保ち続けるために、蛙の足を食べ続けた。


 戦争奴隷は立場が低く、女性の場合は性奴隷として強制的に働かせる場合が多い。ゼファーも女性とバレれば、性奴隷に変更され、貴族共のおもちゃにさせられることは明白であった。


 このため、ゼファーは見るのも嫌になるほど、蛙の足を食べた。それでも食べないと、【幻影魔法】の効果が無くなり、本来の姿に戻ってしまうから...。


 まあ、そんな過去の話はおいといて、ゼファーにはバラモン酒場の「超大盛チャーハン、特製おむすび」を4個食べさせた。


「私たちが食べていた奴隷めしとそう変わらないかも...。いえ、もっと不味いかも...。蛙よりはまだましですが...」と言って食べていたようである。


 そ、そんなに不味いかな...。まあ、俺も味を感じる前に胃に流し込んでいたから、あまり人のことは言えないが...。


 奴隷めしとそう変わらない、いや、もっと不味いって...。ラーク、もっと料理の勉強をしろよ...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そろそろ熊を仕留めることになった。ただ、あの熊さん、どうも俺が股の下を潜ったことが気に入らなかったようで、凄まじい数の【炎の散弾】を俺に放ってくる。


 これでは、いくらマゼールに指示をもらっても、無傷で熊さんをすり抜ける自信はない。


 だが、その厄介な【炎の散弾】が、ぴたりとやんだ。


「な、何が起こったんだ⁉」


『今、ゼファーが【無限流氷地】を発動しました。今のうちです!デニットさん。ビッグファイアーベアーのところまで急いで戻って来て下さい!』


「おう、了解した!」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 急いで戻ってきた俺は、その現状に驚いた。あれだけ俺に対して【炎の散弾】を放っていた熊さんが、何もない床の上でバタバタともがいている。


 溺れているのか?水もない、空気も沢山あるこの空間で⁉


 熊さんの苦しむ姿は、まるで流氷の奥深くに投げ込まれ、必死になって水中をもがき、空気のある水面を探しているかのような印象を受けた。


 オイオイ、何て恐ろしい幻影なんだ...。流氷の中で溺れるなんて、とんでもない地獄だな。すんげー苦しそうな表情をしているし、歯をカチカチと鳴らし、全身を震わせている。


 苦しさと凍えるような冷たさ、同時に味遭わされている様だな...。まさに地獄の苦しみだ。


 特にこの熊はファイアーベアーだ。流氷との相性は最悪だろう。どんどん暴れ方も大人しくなっていく。


『さあデニットさん!【雷炎氷刃士】のスキルと、治ったその腕でトドめをお願いします!』そうマゼールが言ってきた。


「神父様!よろしくお願いします!私もまだ、本調子ではありません!いつ魔力が底をついてもおかしくない状況です!お急ぎ下さい!」


 そう2人に促され、熊さんに止めを刺そうとすると、俺の足音に聞き覚えがあるのか、危険を察知したのかは知らない。  


 だが、弱っていたはずの熊さんが、俺めがけて【炎の散弾】を打ち放ってきた。


 この熊やろー、俺のことが大好きなのか?何で俺だけに攻撃を仕掛けて来るんだ⁉ちょっと急すぎるって!


 ドム!ドム!ドム!


 俺の身体にあたる直前に、分厚い肉の塊が俺と【炎の散弾】」の間に入りこみ、着弾を防いでくれた。


「レバルド!」


「このレバルドがいる限り、主様には指一本触れさせぬわ!」


 すげえなレバルド、これがレバルドの、【破壊なき防壁】の力か...。それも左腕のみで、あんなに大きな「さまよう鎧」の盾を扱うなんて...。右腕が復活したら最強だぞ。


 盾が【炎の散弾】を受けた威力でへこんでいるのに、その衝撃を受けても微動だにしないなんて、なんて男だ...。


『さあ、ぼ~としている暇はありません!今ですよ!20年の想いと共にビッグファイアーベアーを打ち取って下さい!デニットさん!』


「主様、今ですぞ!」


「神父様!今です!」


 皆の声を一身に受け、俺は今、ビッグファイアーベアーの心臓部分に、渾身の一撃をくらわした。


「食らえ!俺の20年分の想いと、新たに得た力の凄さを見せてやる!」


 無我夢中の一撃は、ビッグファイアーベアーの肉体深くに突き刺さった。

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