第6話 スキル「破壊なき防壁」

「よし!【再生】スキルをゲットしたぞ!次は何階に行けばいいんだ、マゼール?」


『さすがです、デニットさん!スキル【再生】は、様々な使い道があるスキルです。非常に素晴らしいです!もう3個目です!そのまま今度は、1階にダッシュで戻って下さい!スキル【細胞】が出現しました!これまたレアなスキルです!』


「とったぞ、マゼール!次は...」


『今度は4階...』


 てな感じで、俺たちは休憩を取る暇も惜しんで、スキル本を集めまくった。マゼールのおかげで、宝箱の中身が丸わかりだ。そのため、貴重なスキル本をこれでもかというぐらい頂くことができた。


 めでたく、【雷炎氷刃ライエンヒョウジン士】のスキル本も全部集まり、マゼールの力でランクCになれた。この結果、ダンジョン内を9階層まで安全に進出できるようになった。


 ダンジョンの9階層までには、45個の宝箱がある。つまり、1フロアに5個ずつあって、20分ごとに宝箱の中身が変わる。


 45個もの宝箱があると、大体1,2個はレアなスキル本が含まれていることが多い。


 だから、1~9階を行ったり来たりだ。すごく忙しいが、レアなスキル本が手に入るのはとても嬉しい。それに、マゼールが喜んでくれるのも嬉しいしな...。


 マゼールの指示が乱れ飛ぶ。俺たちは、すごい勢いで貴重なスキルを集めていく。マゼールの想いを聞いた日から、2ヶ月も経ってない。しかし、もう【高度先端医療】が完成しそうな勢いだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


【高度先端医療】の完成が見えてきた頃から、何となくだが、このダンジョンは生きている、意思を持っている様な気がしてならない。そして、マゼールと俺は、何となくダンジョンに遊ばれているような気がする。


 2階で貴重なスキルがゲット出来たかと思えば、次は9階にスキル本、【扉】が出現する。かと思えば、また貴重なスキル本が1階に出現する。俺たちをからかっているのか?


 または、俺のなまっちまった体を鍛えるかのように、ダンジョン内を上に下へと行き来させる。


 その結果、そこまで強い敵を倒したつもりがないが、基礎能力の上り方がえぐい。レベルが2つ上がっただけとは思えないほど、数値の上昇がえげつなかった。


 45歳にして上昇する身体能力値を、遥かに超えている様な気がする。


 ステータスオープン...。俺のえぐい身体能力の向上は、数か月前のLv.31の状態と比較すると、明らかに違う。


 Lv.33 デニット・バロット 45歳 人族

 

 HP : 360(240)

 MP : 122(70)

 STR(筋力) : 82(42)

 DFT(防御力): 94( 62)

 INT(賢さ)  : 78( 52)

 AGI(素早さ) : 152 (70)

 LUK(運)  : 100( 70)


 ※ ( )内はLv.31時点。


 取得スキル

 EXスキル(1/1) 混ぜるな危険! 

 EX波及スキル(1/15) 先端医療(C)

             雷炎氷刃士(C) 

         

 取得スキル(0/3)


 所得スキルをセットし忘れていた。更にダンジョンの深みに挑む時は、EX波及スキルや、所得スキル欄を満タンにセットした方がいいだろう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇



『デニットさん!大変です。9階にが出現しました!』


 マゼールが珍しく焦ったような声を、脳内で張り上げた。


「はぐれだって!危険じゃないか!ダンジョン内にいる冒険者たちは、大丈夫なのか?」


『はい、ビッグファイアーベアーです。20階のボスです!9階を探索していた冒険者チームが、運悪く遭遇してしまった様です。今、戦っております...いえ、奴隷を盾にして逃げ出しました。戦っているのは...奴隷達だけです』


 ダンジョンには普通、階層に合った魔物が出現する。そうでないければ、冒険者が大量に死んでしまうからだ。また、魔物同士の殺し合いも発生し、格下の魔物たちが大量に上層階に逃げる等、ダンジョンの規律が乱れる要因となる。


 ただ、はぐれが発生する確率や頻度は低い。それは、数か月に一回出現するか、もしくは確認されぬまま、過ぎていくかのどちらかだ。


 それにはぐれは、暴れるだけ暴れたら、消滅する。時間も大体1時間ほどだ。だから分かっているのなら、その階層付近に近づかないようにすればいい。


『ビッグファイアーベアーは、10階のボスであるファイアーベアーの、倍以上の体格を持ち、体格に見合わない素早い動きをします!さらに、炎魔法も扱います。相当厄介な敵です。このベリーベリー村の冒険者では、エレンとジャッカルチームが共闘しても、厳しいでしょう。格が違いすぎますす!』


 おいおい、とんでもない敵じゃねえか。挑むにはリスクが高すぎる。


 ただし、はぐれは敵だとも言われている。必ず、レアなスキル本か、貴重なアイテムを出す。そして、食べると非常に旨いらしい。どんな種類の魔物でも、はぐれとなって出現した魔物は旨いらしい。


 不思議なものだ。旨味のある敵、はぐれだが...。


 俺はまだ傷もんだ。だから、近寄るのはやめよう。奴隷たちには同情するがな。戦闘奴隷の多くは、元犯罪者だ。ここで死んでも、当然のことをやってきた連中だ。まあ、来世ではまっとうな人生を歩んで、戦闘奴隷にならないことを願う。南無三。


 奴隷になると、首に強制的に奴隷の首輪がはめられ、主人に対する絶対的な服従を課せられる。また、奴隷が契約を破って主人に危害を加えようとすると、首輪は自動的に爆発してしまう。


 しかし、これは奴隷の主人も同様で、奴隷に対して好き勝手に扱っていいという訳ではない。主人も「主人の指輪」をはめないと、奴隷との契約が成立しない。


 主人は奴隷の世話をすることや、怪我をした時には最低限の救助が、義務として課せられている。また、契約違反をしてはいけない。


 まあ具体的に言えば、戦闘奴隷として契約した奴隷に対して、強制的に性交を求めてはいけないという事だ。


 自身の奴隷を傷つけたり、奴隷の精神や身体を傷つける行為は、持ち主がしている指輪が爆発し、下手をすると出血多量で死につながることもある。


 奴隷を持つことは、奴隷と主人双方にも危険がある。まあ、無理して持つものではない。また、一度奴隷の身分に落ちた者は、奴隷契約期間中はその身分のままだ。それは、たとえ主人が亡くなっても、契約が短くなることは無い。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「マゼール、スキル本を探すぞ。9階以外で」


 あと【知識】一冊で、【高度先端医療】が完成する。今はそっちの捜索で忙しいからな。


 そんな俺に対して、マゼールが深刻な声で俺に伝えてきた。『デニットさん。やはりあなたが言うように、このダンジョンは意志があると思います。それもあなたを鍛えようとしているのか...』


 そう何かを考えこむような声で俺に伝えてきた。


『戦っているのは2人の奴隷です。1人の男性は全身に大やけどを負っており、右腕もありません。私の詮索によると、この男性は、内乱のあったサンドラ国の老騎士です。ただこの老騎士は、黒の騎士団団長をを務めていた者のようです。名を...』


「レバルドだ。有名人だ。最強のタンクであり盾使いの名手だ。自身のスキル【破壊なき防壁】ランクCを扱い、自身や味方へのいかなる攻撃をも防ぐ、鉄壁の番人だ」


 サンドラ国が反乱軍に敗れ、レバルドが奴隷となったとは聞いたが...。驚いた。まさかこんなところで出くわすとは..。


 最後まで自分と部下が囮となり、王妃とその娘である王女を同盟国まで逃がした後、力尽きた。信じられないほど義理堅い大バカ野郎たちだ。


【そして部下の名前はゼファー。ランクCの【幻影魔法】スキルの使い手の様です』


 そうか、【幻影魔法】の使い手か...。レバルドの右腕がいるのは有名だったが、その存在は謎だった。【幻影魔法】で周りを偽っていたのか。


『レバルドも、そしてゼファーも、まだ生を諦めていない様です。レバルドの記憶を探ると、同盟国に渡った王妃と王女の安全を確認するまでは死ねないと、ゼファーと共にはぐれに対峙しているようです。ただ現状は、ボロボロとなり、2人とも主人から奴隷の首輪を、解除される状態ですが、ただ...』


「奴隷の首輪」の解除は、端的に言えば、主人が奴隷を見捨てることを意味する。


 ダンジョンなどの救助が困難な場所で奴隷が、やむなくして大けがや、瀕死の重傷を負った時は、首輪が緑色から紫色に点滅する。この状態でその点滅部位に触れると、主人とのつながりが無くなり、奴隷の解放が可能となる。


 つまり奴隷の救助義務が免除される。


 奴隷の首輪と主人の指輪の構造は、まだ分かっていない。主人の悪意や、奴隷の危険をどうやって読み取るかなど、不明な点や謎が多い。


 しかし、奴隷道具作成師たちが持つ固有Dランクスキル、【奴隷の道具造り】で、「奴隷の首輪」と「主人の指輪」の作成が可能だ。


 ダンジョンで死亡すれば、そのまま死体は魔物に食べられるか、不思議なことに自然とダンジョン内に吸収される。


 ダンジョンは栄養が欲しいのか、はたまた綺麗好きか知らないが、1時間ほどで死体を吸収してしまう。


「奴隷の首輪」の解除された奴隷は、所有権がない奴隷となる。そのような場合、奴隷が生きているうちに、奴隷の首輪の点滅している紫の部分を触れば、所有権を自身への移動、紫の部分が仮契約を示す黄色に変化する。


 ただ主人が放棄した奴隷だ。助かる見込みがない者が殆だが...。


 そして、奴隷が万が一解除された状態で助かったとしても、主人を持たない状態や仮契約のままの状態で3日間が経過すると、首輪が爆発してしまう。


 つまり仮契約後、奴隷商会に行って本契約を結ばないと、3日後には首輪が爆発して死んでしまう。何とも恐ろしい物だ。 


 このまま放っておけば、間違いなくレバルドとゼファーは死ぬだろう。


 だが、俺のスキル【先端医療】があれば、2人の火傷の大半は治すことができる。いや、残り1冊となった【知識】のスキル本を集め、【高度先端医療】にランクアップできれば、全回復も可能だろう。


 レバルドの右腕の再生は、俺の奴隷になる気があるのなら、いつか叶えてあげられるかもしれない。


 俺がレバルドとゼファーのことを考えていると、マゼールが脳内で語りかけてきた。


『やはりこのダンジョンは、デニットさんが言うように生きているようですね。【高度先端医療】の最後のピースである、【知識】が、今8階に現れました。まるで私たちに8階で【知識】スキルを獲得した後、2人を助けに行けというかのように...』


 マゼールは呟いた。マゼールに実態があったら、俺の目を真正面から真剣な眼差しで、という目で俺をみつめているだろう。


 そんなの決まっている。俺も夢を追って45歳まで来た大バカ野郎だ。この手のバカは嫌いじゃない。助けるに決まっている。


 レバルドとゼファー、そして俺の右手を治し、3人で挑めばビッグファイアーベアーでも何とかなるかもしれない。せめて逃げることぐらい、出来るかもしれないしな。


「マゼール!助けに行くぞ!治療スキルを取って、2人をさっさと救っちまおう!」


『了解です!デニットさん!やはりあなたは、私が思っていた通りの...いえ、急ぎましょう!急がないと私たちが付く前に死んでしまうでしょう!』


「おう!急ごうマゼール!最短ルートのナビを頼む!」


「了解です!デニットさん!」


「ギャオ~!」


「ええい!今は相手をしている暇などない!どけ!」


 俺は死角から飛び出してきた、キラーラビットを巧みなステップでかわし、一目散に8階に向かって駆けだした。

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