第5話 マゼールの想い。デニットの想い。

 ついに、【先端医療】の作成に必要なスキル本が集まった。【先端医療】作成の中で集めるのが一番大変だったスキルは【知識】だった。


 だが、何とか集めた。バラモンの酒場で、特製チャーハンを食べたあの日、立て続けに【知識】のスキル本を3冊とも見つけちまった。


 あの特製チャーハンは、不味いが運の上がる作用でもあるのか?


 あんなに出てこなかった【知識】のスキル本がウソのように見つかった。見つかる時には見つかるものだ。


 そんな感慨深いスキル本を眺めていると、マゼールが俺の脳に直接語りかけてきた。


『お疲れさまでした!さあ、デニットさん!【先端医療】ランクD+のスキル本を混ぜませんか?』と俺に聞いてきた。


 俺は勿論という意味合いも込めて、深く頷いた。


 マゼールは、『了解です!』と言った後、可愛らしく『コホン』と咳払いを1つして、『3つの異なるスキルを混ぜると、危険なことになりますよ~!それでも混ぜますか?』と尋ねてきた。


 この表現方法にはこだわりがあるようだ。ポイントは、もったいぶるように言うことらしい。


 俺が、「もちろん、イエスだ!」と、マゼールに伝えた。


 するとマゼールは嬉しそうな声を出し、『了解です!混ぜ混ぜしちゃいますよ~!危険ですよ~!』と、どこか嬉しそうに返事をしてきた。そして少しの間をおき、マゼール語りかけてきた。


『EXスキル、【混ぜるな危険!】の効果によって、【回復】ランクDのスキル本50冊と、【治療】のランクDのスキル本40冊、さらに【知識】のランクDのスキル本10冊が混ざり合い、ランクCの【先端医療】となりました!』


 やった!苦労したかいがあった。これで右腕が治るかもしれない。いや、治ってくれ!それに、これでランクCのスキル本が2冊となった!


 この世界で、Cランクのダブル持ちなんているのか?聞いたことがない。でも、仮にいたとしても、俺みたいな回復系と攻撃家のバランスのいい、Cランク持ちなど存在しないだろう。


 また、ステータスを開いて、至福のひと時を味わおうとすると、『コホン!』と脳内に響いた。そうだ、スキルを使用して、まずは右腕の治療をしないと。


 さあ、さっそく完成したスキル【先端医療】よ、俺の右腕を治してくれと念じた。すると、俺の願いを聞き受けたかのように、右腕が淡く光り出し包み込んだ。


 いいぞ!このまま俺の右腕を治してくれ!


 そして、淡い光が大気中で霧のように分解した場所には、何度も見た俺の腕が残っている。しかしあの痛々しい傷跡は無くなっている!


 ついに治ったのか?俺は愛用のダガーを握って、右腕の感触を確かめてみた。


 だが...俺の右腕は以前より力強くは握れるが、まだ100%元に戻ったわけではなさそうだ。マゼールによると、7割ほどは回復しているようだ。俺の感触とほぼ同じであった。


「くそっ!あと少しなのに!」


 そう俺は口に出し、悔しさをにじませながら、近くに転がっていた石を蹴飛ばした。


『大丈夫ですよ、デニットさん。方法はあります。落ち込む暇があったら、次の手をに向かって行動あるのみです。あなたには私という強力な味方がついているんですから』


 そう優しくもあり、力強い声で俺を励ましてくれた。でも...。


 でも、何で俺にこんなにも親切にしてくれるんだ?いくら宿主であるとはいえ...。


 最近では、宝箱の内容把握、スケジュール管理など、【混ぜるな危険!】の効果以上の働きをしてくれている。


「マゼール。感謝をしているが...俺がお前にできることは無いのか?俺はお前に頼りっぱなしだ。お前に返せることは何かないのか?」


 そう...。俺は思った気持ちをそのまま、マゼールにぶつけてみた。


 デニットさん...。


『デニットさん。私は、ずーとあの上層の隠し部屋に一人でいました。このダンジョンが誕生してから、ずーと。意識のある者にとって非常に苦痛です。そんな中、貴方に見つけてもらいました。今...すごく楽しい、会話をすることが...。そして、貴方と一緒に行動する喜びを感じています』


 そう、辛い思いを振り絞るような声で、俺に語りかけて来た。


『貴方が...貴方が死んでしまうと私はまた、強制的にあの隠し部屋に戻されます。勝手ですが、あなたにもっと強くなって頂きたい。少しでも長くこの至福の時を、貴方と楽しみたいのです。貴方と...。そしてあわよくば,。いえ何でもありません。そこまでは願いすぎですね...』


 マゼール...。いつも俺を励ましてくれた。どんな意図を持っていようと、俺はダブルCランク持ちにしてくれたんだ。俺にデメリットはない。


 それに...俺も、もっとマゼールと冒険をして、強くなりたい!同じ時を歩みたい。だから、俺が次にマゼールに聞く言葉はもう決まっている。


「あわよくば...何だ、マゼール?」


「デ、デニットさん...その、あ、あわよくば...」


『あわよくば...。私の身体はバラバラとなり、この世界、バラクール星以外の星にも、散らばっているようなのです。身体のパーツを集めて頂ければ、私は実体を持ち、そして生を終えることも可能です!』


 すごく辛そうな声だ...。実体があれば...頬から冷たいものが流れ落ちているかもしれない...。


『今は死ぬことさえもできません。あわよくば、私のバラバラとなった身体を集めて欲しい!私の願いです!』


 マゼール...。


「大丈夫だ。スキルを手に入れて、どこにだって行ってやるさ!俺の冒険もマゼールの冒険も、今始まったばかりだ!地の果てまででも、一緒に冒険しようぜ!」


 デニットさん...。


『デニットさん...ありがとう...』


 さあ、マゼール、落ち込んでいる暇はないんだろう?俺にいつも、はっぱをかけるじゃないか?俺のためにもマゼールのためにも、早く強くならないとな。


「まずは、この右腕を治すには、どうすればいいんだい?」


 俺はあえておどけるように、マゼールに声をかけた。


『そ、そうですね。デニットさん!ハッスル、ハッスルですよ!デニットさん、それなら簡単ですよ。Cランクでダメならば、Bランクを目指せばいいのですよ!』


「B、Bランク!そ、そうだな。でも、そんな簡単になれるのか?」


『なれます。今作成した【先端医療】を3つ作って混ぜれば【高度先端医療】に変わります。それならば、デニットさんの手は必ず治るでしょう!』


「【高度先端医療】か。そうだな、目指そう。やることは同じなんだな。いけそうだな」


『それに、デニットさんの右腕は7割戻っています。7階層までは、安全に行けるでしょう。そして、もう少しで【雷炎氷刃士】のスキル本も集まります。【雷炎氷刃士】のスキル本が完成したら、9階層までは安全に行けます!』


 9、9階層か。 ジャッカルやエレンのレベルに近づいてきたな。今、2つのチームは、リーダーの力で10階層を超え、11階層の攻略をしている。


 10階層には階層ボスが存在し、そのボスを攻略すると、11階層入り口まで一気にワープできる権限が与えられる。だから、2つのグループの連中とは、殆ど会うことはない。


 彼等は一気にワープをして、11階層に行ってしまうからな。ただ一気に11階層まで行ける分、11階層からは敵の数や能力が格段に上がるらしく、よく2つのチームの仲間が、ダンジョンから担ぎ出される光景を目の当たりにする。油断ならない場所のようだ。


「でも、マゼール...」


 そう、今は、1階から5階層の宝箱集めをしているが、7階層まで安全に行けるとなると、逆に問題が出て来る。


 お目当ての宝箱の回収が困難になって来る。これが9階層まで行けるとなると、余計に問題になってくるだろう。なんせ、宝箱は20分で中身がチェンジしてしまうのだから。


「9階で宝箱の回収をしている隙に、1階でお目当ての宝箱が出たら、回収できなくなってしまうな」


『そうです、デニットさん。さすがですね。私も同じことを考えていました!』


 でも、俺と組んでくれる奴なんていないし、組みたくもない。エレンのやつに言えば喜んで力を貸してくれるだろうが…人の負い目を利用したくない。また、戦闘奴隷を買うにしても金などない。


 まあ、9階層まで行けるなら、それなりのスキル本や財宝も、手に入れることができると思うが、あとのことを考えると、スキル本はどんな物でも売りたくない。まあ、財宝は別だがな...。


『デニットさん。まずは、やれるだけやってみましょう。戦闘奴隷の購入も視野に入れます。そのために、手に入れたいスキルがない場合は、高価な財宝が出た場合は、駆けつけてもらうことになります』


 マゼールは少し俺に対し、すまなそうに言った。俺の身体の負担を考えてくれているのだろう。45歳のオッサン冒険者の。なーに。まだまだいける。だいぶ今までの人生で、休憩を取ってきたしな。


 さあ、マゼールと俺の想いも確認し合えた。これから、もっともっと強くなってやるぞ。


『デニットさん!早速、7階層に【知識】が出ました!走って下さい!』


「おうよ!」


 俺たちの冒険はどんどん進化していく。果てしなくな...。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る