第2話 剣術+炎=? 

 さらに機械音は続く。


『 【炎の剣使い】ランクCになるためには、あと【剣術】ランクDのスキル本を47冊と、【ファイア】のランクDのスキル本が、49冊必要です!』


 何だ⁉俺の身に何が起こったんだ?


 俺は「ステータスオープン!」と、少し慌てながら頭の中で願った瞬間、脳中に文字が浮かび上がった。あれ、取得スキル欄が変化している?


 Lv.31 デニット・バロット 45歳 人族

 

 HP : 80/240

 MP : 32/70

 STR(筋力) : 42

 DFT(防御力): 62

 INT(賢さ)  : 52

 AGI(素早さ) : 70

 LUK(運)  : 70


 取得スキル

 EXスキル(1/1)【混ぜるな危険!】 

 EX波及スキル(1/15)【炎の剣使い】(D)

 取得スキル(1/3)【回復】(D)


 取得スキル欄がやはり変わっている。今までなら取得スキルに【回復】(D)と【剣術】(D)としか記載されてい無かったのに。


 何だ?EXスキルやEX波及スキルって?それも1/1や、1/15と記載されているぞ?


 それに、取得スキルの【剣術】が消えている。さっき頭の中で、『【炎の剣使い】ランクCになるためには、【剣術】ランクDのスキル本を47冊と、【ファイア】のランクDのスキル本が49冊必要です!』と言っていたな。


 そうすると今日、このダンジョンで獲得した【剣術】のスキル本は、確か2冊だったはず...。という事は、所有していた【剣術】スキル本が、【炎の剣使い】のランク上げの為に、混ぜ合わさったという事かな?


 まあ、そう言う事だろう。


 そこまでこだわりがあるスキルではない。ランクDだし。それに、【剣術】以上の【炎の剣使い】のランク上げの材料になったんだ。出し惜しみする必要も無いしな。


 後、1/1や1/15は、所有できるスキル本の数のことかな?取得スキル本が1/3になっているしな。


 すごいじゃないか!EX波及スキルを15冊も持てるなんて!ほぼ、無敵状態になれるという事じゃないか...。


 俺はランクSのスキル本に出会うことを夢見つつ、何となく冒険者を行ってきたが、まさかSの上のEXスキルに出会えるとは。ラッキーだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そんな、夢見心地の俺に対して、いきなり曲がり角から一匹のゴブリンが飛び出してきて、錆びついたナイフを振り下ろしてきた。


「ゴブ!」  


 だが、そう簡単にはやられはしない。


 俺は襲いかかって来たゴブリンに対して、急所の喉元に渾身の一撃をくらわす。


「ゴギャ~!」 


 急所を突かれたゴブリンは息絶えた。しかし、俺も「うっ‼くそ」と、ダガーを床に落としてしまう。右手がしびれる。魔物の中では低位クラスのゴブリンで、それも、比較的柔らかな喉元への攻撃でも、こんな感じだ...。


 俺は効き手である右腕に古傷がある。だから大した戦闘ができない。いや...からきしだな。ゴブリンですら、急所を適切に狙わないとやっつけることができない。


 だから冒険者の多くは、俺とはパーティーを組もうとしないし、俺も組まない。まあ...変わり者のエレンぐらいかな。執拗に俺とパーティーを組みたがるのは。


 でも俺は、他人の足手まといになりたくない。それなら、今の生き方の方がよっぽどいい。


 EX能力の【混ぜるな危険!】を使えば、ランクCに上がることも可能なのか?


 そんな話は聞いたこともない。だが【混ぜるな危険!】は、と言ってくる。集めた日には、ランクアップできるのだろう...多分だが。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 


 このベリーベリー村で、ランクCの冒険者なんて2人しかいない。いや、ここから馬車で10日ほど離れた大都市、ステーシアでもそうはいないだろう。


 チーム「黒龍」のリーダーである、暴れん坊のジャッカルや、女性チーム「氷の翼」のリーダーである、白銀のエレンだけだ。この村の住人は、2人に対して逆らう者はいない。


 いや逆らえない。逆らったら殺されるだけだ。ジャッカルはランクC【剣術】のスキル本を見つけてから、やたらと威張るようになった。それまではこの村の、いじめられっ子であったのに。


 そして白銀のエレンは偶然、ダンジョン内上層で、ランクCの【アイス】のスキル本を手に入れ、瞬く間に頭角を現し、女性たちの冒険グループ「氷の翼」を結成した。


 ジャッカルは何かにつけて俺に突っかかってくる。俺が昔、ジャッカルを虐めたわけでもないが、執拗に俺をこの村から追い出そうとする。昔は虐めから、庇ってやっていたはずなのに...。


 まあ理由は簡単だ。ジャッカルはエレンのことが好きなだけだ。だからエレンと仲がいい俺を、村から追い出そうとする。だが、俺にちょっかいをかける度にエレン率いる「氷の翼」が庇ってくれる。


 庇ってくれるのはありがたいが、それはそれで、よけいジャッカルを刺激するようで...。は~面倒だ。


 このベリーベリー村はまあ、俺なりの理由で住み続けたいのだが、EXスキルも手に入ったし本当に出ていこうかな...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 まあ、話は戻して、【剣術】と【ファイア】のスキル本を、それぞれ50冊ほど集めれば、【炎の剣使い】のランクをCに上がることが出来る!はずだ...。


 今まで俺のことを目の敵にしてきたジャッカルと同等、いや俺は、ただの【剣術】ランクCに上がるわけではない。【炎の剣使い】だ。【剣術】にプラスαが付く。有利だ。すげえぞ。


 さっきまでの暗い気分が嘘のように高揚してきた。もう少し頑張って、【剣術】や【ファイア】のスキル本を集めようかな。


 今から3時間ぐらい頑張ってスキル本集めれば、4、5冊は集めることが出来るかもしれない。


 今までは欲望に忠実だったが、俺は久しぶりに胸が熱くなった。あの冒険者になりたての頃の様に。


 今からでも遅くない。もう一度、高みを目指してみたい。だが...。


だが、この手じゃなあ...。無意識に右手を強く握りしめていた。まあでも、やるだけやってみるか...。


 いつもは生活のため、嘘。エールと娼館代を稼ぐために走り回っていたダンジョンも、強くなるために周回すると新鮮に映る。それに楽しい。宝箱がすごくありがたく思える。


 ダンジョンの1,2階は、冒険者のなり立ての者たちが多い。しかし、多くの者は、身体を数か月間慣らしたあと、もっと下層をめざす。なぜだって?もちろん稼げないからだ。


 他の冒険者たちは、どんどん下層に向って行く。1,2階を何年、いや何十年もうろうろしているのは俺ぐらいだ。


 それに宝箱は所定の位置に存在し、その中身は20分が経過するとモノが変化する。


 さて、この角を曲がると、いつもの宝箱があるはずだ。


 イエス!やっぱりあった。さあ、オープン、ザ、宝箱!開けると【回復】のスキル本だった。


 なんだ、【回復】か...。


 今欲しいのは【剣術】と【ファイア】だ。贅沢じゃないけど【回復】は、がっかりとしてしまう。


 だが...。


 だが次の瞬間、頭の中で『【回復】ランクDのスキル本を混ぜますか?』と聞こえた。さらに、『今持っているスキル全てを混ぜますか?危険なことになりますよ~!それでも混ぜますか?』と尋ねてきた。


 そうか!同じスキルの本を混ぜ合わせて、ランク上げをするんだな。


 ランクDの【回復】スキル同士も、混ぜ合わせることができるんだ!


 ランクが順調に上がれば、いつかは大司祭のように、ランクBの【回復】魔法が扱えるようになるかも。


「もちろん、イエスだ!」と、俺は力強く返事をした。


 俺の古傷が治せるなら、万全な体制でまた冒険ができる。早速、【回復】魔法も混ぜ合わせてしまおう!


 俺は、よりウキウキとした気分になりながら、ダンジョンの上層の宝箱集めを再開させた。さあ待っていろよ俺の右腕、すぐに復活させてやるからな!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る