「危険ですよ~危険ですよ~混ぜると危険ですよ~!」EXスキル「混ぜるな危険!」で、「平凡スキル」を混ぜ合わせて「最強スキル」に変えちゃいます!遅咲きオッサン冒険者の、華麗なる成り上がり物語!

たけ

第一章 ベリーベリー村編

第1話 混ぜるな危険!

「ふ~、今日はいい感じだな。エールもたらふく飲めそうだ」


 今日も街から少し離れたダンジョンで、せこせこと日銭を稼いだ。もう気がつけば45歳を過ぎた。仲間達は全員、冒険業から引退し、違う仕事についたかもしくは...死んじまった。


 ケントやラーク、いい奴だったのにな...。あっ、ラークは生きていたっけ?


 そんななか、俺は懲りずに冒険業を続けている。何でかって?そりゃ、金が無いからだ。


 俺は無類の酒好きで女好き。稼いだ分は酒と女、それに博打に使っちまった。そんな俺も気が付いたら45歳になっていた。


 俺はデニット・バロット。デニットと呼ばれている。職業は剣士兼、回復役兼、盗賊兼、タンク...。つまり何でも。パーティーは組んでいない。なぜかって?メンバーに気を使いたくない。


 ただ一人は気楽な分、心細さもある。大怪我を負っても、自分の力で何とかするしかない。死ぬ確率も格段にあがる。まあ、散々お世話になったダンジョンで死ぬのも、悪くないかもな...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 今日も飯代と宿屋代、エール代と1週間に一度のお楽しみである、娼館代を稼ぐために、ダンジョンの上層で必死に小銭を貯めている。


 その甲斐があってか、【剣術】に【回復】、それに【ファイア】のそれぞれランクDのスキル本を、それぞれ2冊、3冊、1冊を宝箱から発見した。大量だ。


 スキル本とは、開くと自動的にその中身を理解し、その内容を習得できる、非常に有能なアイテムだ。


 スキル本のランクはDから、現在確認できている最強ランクはAまでだ。そして、種類も豊富だ。


 ただ...こんなスキルが必要かっていう物まである。例えば、【不倫】、【体操】、【動かない】、【ビビンバ】等など。挙げればきりがない。そして、見つかるスキル本の99%はランクDである。


 まあ、ついでに説明すると、スキル本のランクDは多種多様に存在するが、1人の人間が取得できるスキル本は最大3冊までだ。確認できている範囲では。


 スキルを授かって生まれてきた者も、合計で3冊までしか獲得できない。つまり、全員が3冊まで。それとランクD→Cの様に、ランクが上がることは、今のところ人国では確認されていない。


 他の諸国では、スキルのランクアップができる方法があるという噂もちらほらと聞かれる。だけど、相当難しく容易ではないのだろう。


 そして、その方法が人族にも適用可能かどうかは、実際には明らかにされていない。


 つまり、今のところ俺が強くなるためには、自分の身体を強化してレベルを上げ、筋力や俊敏性、魔力を増やすか、ダンジョン内で、より強力なスキル本や武器を見つけるかだ。あとは強力な仲間や奴隷とパーティーを組む、そんなとこだろう。


 それ以外は知らん。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 今日、俺が見つけた【剣術】、【回復】、そして【ファイア】のランクDの3つのスキル本は、ダンジョンの上層部にある宝箱から、頻繁に見つかる物だ。


 だから、はっきり言って高値で売れるもんではない。安いが、5冊売れば宿代と、エールと飯をたらふく飲んでもおつりがくる。今日は上々だ。


 そんな上々な時は、何をやってもついている。俺にも、やっとこ運が向いてきたみたいだ。何と...隠し扉を見つけてしまった。


 もう、目をつぶってでも歩き回れる2階フロアの通路で、偶然に外れたボタンを拾おうと屈んだ時に、たまたま触ったところに隠しボタンがあった様だ。


 周りを見渡すと、俺以外の冒険者はいない。その隠し扉の内部は、通常の通路の半分以下の狭さで、大人2人が並んだらやっと通れるほどだ。こんな場所で魔物に出くわしたら、自由に剣が振れない。


 死ぬかもな...どうする?引き返すか?命あっての冒険者だ。でも、ここで引き返しても、また日銭をせこせこと稼ぐ人生が待っているだけだ。


 行ってみよう。


 敵がいないか確認した後、隠し扉の中に入ってみた。隠し扉の中では、貴重なスキル本や武器が手に入ることが多い。


 ただ、その分お宝を見つけることは非常に困難だし、罠が仕掛けられていたり、強敵が潜んでいたりする場合が多い。


 まあ、どうせ死んでも、悲しんでくれる者なんていないからいい...けどな。


 そう思いながらも、心の中ではまだ冒険者生活をやめたくない自分もいるのだろう。ダンジョン特有のぼんやりとした明かりの灯る通路を、慎重に周囲の状況に目を配りながら進んだ。


 直線的な道を進んで行くと、部屋の真ん中にぽつんと置かれている、神々しく光る宝箱を見つけた。その神々しい宝箱の周囲には、敵やトラップなどの気配がない?


 まるで俺に見つけて欲しいかのようだ。どういうことだ?


 罠などないと思うが...でもこんなに神々しい宝箱がぽつんと置いてあるなんて...怪しすぎると思いながら、近づいてみた。


 一攫千金のチャンスだ。


 欲を言えば、誰もが欲しがる【回復】や【剣術】のスキル本のランクBが出れば、もう一生遊んで暮らせる。いや、ランクCでも十分だ。


 まあ、これまでにダンジョン内で発見された、スキル本のランクは最大でAまでだが...。それも【編み物】のランクAと、人をおちょくっている様なスキルであった。


 絶対にダンジョンの神様は、俺たちを見て笑っているであろう。茶目っ気のある奴だ。


【剣術】、【槍術】、【回復】、【アイス】など、ダンジョン内の戦闘で役に立つスキル本は、すべてがランクBまでであった。


 しかし、冒険者たちの間で話題になるのは伝説のランクSだ。それはいつも酒の席で語られる話だ。まだ見たことのない、その伝説のランク。出会ってみたい。そんな少年の頃の夢を見たまま、俺は45歳になっちまった。


 そして俺の取得しているスキル本は【剣術】と【回復】。共にランクDだ。


 いつか出会えるであろう、ランクSのスキル本の為に、枠を1つ開けている。


 我ながら、あほだと思う。


 周囲からも、現実が見れていないオッサンと馬鹿にされている。


 それでも、あるような気がしてならない。この宝箱の中身は、絶対に俺の追い求めているランクSのスキル本が入っている!...はずだ。


 そうじゃなきゃ、俺の45年間は何だったのと言いたい。


 さあオープンだ!


 宝箱を開けると、そこには一冊のスキル本が入っていた。


 すげえ黄金に輝いている!やった当たった!これで高級な酒も、奴隷も、欲望も全てが手に入る。う~ん最高の気分だ!


 さあ何かな?スキル本のタイトルは?【回復】ランクS?いやいや【体術】ランクSかな?期待しか沸いてこない。俺は期待に胸を膨らませて、宝箱からスキル本を取り出した!


 その表表紙オモテビョウシには...。


【混ぜるな危険!】


 な、なんだこれは?それにランクも載っていない。ランクの載っていないスキル本なんて初めてみたぞ?ハズレじゃねーか。


「くそ!」


 ただし、腹が立ったとしても、投げ捨てて帰るなんてことはしない。俺は貧乏だからだ。二束三文でも売れればいい...。黄金に光っているし、案外高値で売れるかもしれないしな。


 ただなあ...大きく期待を裏切られた感じがする。まあでも、酒のつまみにはなるし、いつもの「バラモンの酒場」に行くか。


 でも...今回ばかりは少し堪えたな..。こんなに黄金に輝いていたら、なぁ?期待するなっていう方が罪じゃねえか?


 まあ、落ち込んでいても仕方ない。今日の探索で拾い集めた【剣術】、【回復】、そして【ファイア】のランクDのスキル本がそれぞれ2冊、3冊、1冊入ったずた袋に、こいつもしまい込もうとした瞬間!


【混ぜるな危険!】のページが勝手に開き、その内容が俺の頭の中に入って来た。


 な、ちょっと待ってくれよ。俺はお前みてーなスキルなんざいらねーよ。お前を売って、久々に高級娼館に行こうと思っていたのに...取り込んでしまった。


 あーあ、残ったのはキラキラした本。かと思ったが、役目を終えたのか、さらさらと塵のように細かくなり、消えてしまった。


 何をやっているんだ...せっかく隠し扉を見つけたと思ったのに。せっかく黄金のスキル本を見つけたと思ったのに...。全部パーだ。


「まいったな...」落ち込んで独り言を言っても、誰も慰めてくれる者はいない...。


 だが次の瞬間、頭の中で『【剣術】ランクDのスキルを混ぜますか?』と聞こえた。さらに、『【ファイア】のランクDと、混ぜてしまいますか?危険なことになりますよ~!それでも混ぜますか?』と尋ねてきた。


 おしゃべりか!寂しがり屋か!それに、期待に満ちた声が、余計、俺をイラつかせる。


 何だ、って?それにって?スキルを混ぜ合わせることによって、効果が無くなってしまうのか?っていう言葉が引っかかるな。


 う~ん、分からん。でも、気になるな...。


 一回ぐらい混ぜてみようかな...。どうせ黄金に光るスキル本も、無くなっちまったことだし。


 そう思った俺は、頭の中の問に対して、「ああ、混ぜる。派手にやってくれ」と伝えた。


『了解です!混ぜ混ぜしちゃいますよ~!危険ですよ~!』と、どこか嬉しそうに返事を返して来た。


 何だか無性に腹が立つ。俺の娼館での豪遊計画をパーにしたくせに。カトリーヌちゃんと、久しぶりにウハウハしたかったのに...。


 すると、【剣術】ランクDの2冊のスキル本と、【ファイア】のランクDのスキル本が、ずた袋の中から勝手に飛び出し、俺の目の前で、本のページが勝手に開き出した。


 そして、各々のスキル本から文字が飛び出してきて、ごちゃごちゃに混ざり合い、その情報が俺に流れ込んできた。


『【EXスキル、【混ぜるな危険!】の効果によって、【剣術】ランクDのスキル本2冊と、【ファイア】のランクDのスキル本1冊が混ざり合い、【炎の剣使い】レベルDとなりました!』と、俺の脳内になり響いた。


 な、何だ、【炎の剣使い】って?それにEXスキルって、あのEX?最強ってこと?



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 何だ、いきなり...何が起こっているんだ?



 ど、どう言う事なんだ?スキル【混ぜるな危険!】のって、スキルを混ぜることなのか?


 それぞれのスキルが持つ特性や能力を組み合わせて、新たななスキルを生み出す。これがスキル【混ぜるな危険!】の力なのか?


 これが本当なら、【混ぜるな危険!】は、相当やばいスキルだぞ、これは...。

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