2023-12-14

 ブリーチして開いた穴を別の色素で埋めることで髪の毛を染めるように、欠如した思い出を曖昧な夢が補完して世界が変わっていく。高校の部活動の同期やクラスメイトにはVtuberがたくさんいた。リゼ・ヘルエスタや戌亥とこ、周央サンゴに轟京子。思い出の中で僕は透明で、だけれども彼らは僕と接してくれた。幻肢痛のように、起こるはずのないノスタルジアが僕を襲う。

 過去がどんどん綺麗になっていく。どんな景色も見に行く気にならないほど、今の僕の過去は美しい。もっと穴を開けたい。もっと染めたい。原型が分からなくなって、今も未来もなくなるほど、過去を眺めたい。


 純粋にそんな風に思えるのは、寝惚けが許される15分間ぐらいのものだ。未来が今に変わる時、右足を出していなければ次に左足を出せない。前を向いていなければ橋桁を避けられない。

 過去を見ることができるようになったこととそれを曲がりなりにも美しいと思えるようになったことはよい事だ。だが、染髪で恐れるべきことは、元の色が分からなくなることでも色の境界が生まれることでもない。髪の穴が連続すると、断ち切れてしまうことだ。世界の実際と自分の過去が違っていてもいいし、今と矛盾が起きても別に構わない。しかし、夢のような過去が連続するあまり、今を受け入れられなくなることには注意しなくてはいけない

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