第123話 異空間屋敷入口

神聖魔法による呪印の浄化により,ホピルスと他の三つの村での流行病は急速に沈静化した。

呪印に関わる部分を公表すれば大騒動になるため,その部分は秘密にされた。

レンとオルビスは,今回の呪印の原因を作ったのは魔人であり,その魔人が自らの力を増すために実行していたことにした。

当然,グラーキに関わる部分や封印されている場所については,全て秘密にして教皇・聖女には話さなかった。

話せば間違いなく聖騎士団,場合によっては教皇と聖女が自ら死者の塔に乗り込む事態が予想できる。

そうなれば,それだけで大騒動になるし,多くの死人を生み出す結果にもなる。

万が一,どちらかが負傷,もしくは命に関わる事態となればさらに問題だからであった。


レンはグラーキの再封印と封印強化を早期に行うべきだと判断。

自ら独自に動こうとしていた。

帝都のウィンダー侯爵邸には,大錬金術師であり,理と秩序の番人であるオルビスがやって来ていた。

「レン。再封印に同行するつもりなのか」

「僕は無関係ではありませんから,行くべきでしょう」

「俺に全て任せておけば良いものを,同行するとしばらく留守になる。どうやってウィンダー侯爵家とスペリオル公爵家の者達たちに説明するつもりだ」

「定期的に精霊たちのところに出かけてますから,今回もその様にしておけば大丈夫です。大精霊たちも同行すると思いますよ」

「分かった。大精霊たちが来るのであれば心強いな。東の魔の森の奥地には,以前魔物狩りの為に異空間屋敷の出入り口を設置してある。俺の異空間屋敷を経由すればすぐだ」

「どこで合流しますか,このまま行くとオルビスも一緒に消えたことになり怪しまれます」

「そうだよな。外にはいろんな輩が見張っているからな」

帝都のウィンダー侯爵邸の周辺は,色々な勢力が様子を伺っている。

帝国皇帝の隠密。

教会の聖騎士団の諜報員。

どこの貴族か商人が雇ったのか知らないが,気配を隠せる冒険者崩れたち。

闇魔法による使い魔。これはおそらく暗黒魔導士を名乗る奴らだろう。

それぞれが巧妙に隠れて様子を伺っている。

しかし,レンとオルビスからしたら全て丸わかりである。

さらに,陛下からの指示らしく,通りを帝都の衛兵隊が定期的に巡回に回ってくる。

「しかし,これだけ色々な奴らから目をつけられているのは,ある意味凄いな」

「凄いなんて・・迷惑以外の何者でもありませんよ。以前は盗賊たちが次から次へと押しかけて来てましたよ。おかげて魔法陣を幾重にも重ねて厳重に守りを固める羽目になってますけど」

「うっかり新しい技術や発明品なんかを世に出すと,欲望の亡者たちが集まってくる。十分な注意が必要だ。これだけ鉄壁とも言える守りを固めてあれば大丈夫だ。この鉄壁の守りを破って入れるととしたら俺ぐらいだ。それでも魔法陣の無効化に時間が必要だ。他の連中はすぐに身動きできなくされる。闇魔法の使い魔も消滅するのは確実だな」

「こちらから攻めるわけにもいきませんからね」

レンは半ば諦めた様な口調で話していた。

「俺に言ってくれたら,いくらでも裁きを下してやるぞ。どうせほとんど悪党どもだろうからな」

「よほど目に余る様ならお願いすると思いますけど,とりあえず今は放っておきましょう」

「それで良いなら放っておくけど,俺なら問答無用で全部叩きのすけどな。攻撃こそが最大の防御というだろう」

「なるべく穏便にいきたいですからね」

「あまり人が良すぎると足元を掬われるぞ」

「そこはよく分かってますから気をつけてます」

「そうか。分かっていればいい」

「できたらここにオルビスの異空間屋敷に入れる入口を作ってください。オルビスが帰ってから2〜3日してから,時間をずらして異空間屋敷に入りましょう」

「なるほど,アリバイ作りか」

「はい」

「それなら,さっそく異空間屋敷の入口を作るとするか。当然だが,レン以外の者は存在を感知できないし,入ることもできない。これは変えることはできない」

「分かっています」

「どこに設置する」

「それなら,ここにお願いします」


レンは,部屋の奥の隅を示す。

オルビスが素早く魔法陣を組み上げていく。


「レン。この魔法陣に手を当てて魔力を少し流してくれ。少しでいいぞ」


レンはオルビスの組み上げた魔法陣に手を当て少しだけ魔力を流す。

すると魔法陣が金色の光を一瞬だけ放ち消えた。

そして金色のドアが現れた。


「このドアは,俺とこのドアの契約者にしか見えない」

「こんなにはっきり見えているのに」

「それは心配ない。契約者と俺以外は見ることも触れることもできないから,この場に第三者が入ってきても全く見えないし,触れられないし,感知できない。たとえ教皇や聖女の天眼を持ってしても見ることはできないし,魔力の流れを使っての感知もできない」

「それは凄いですね。僕にはそこまでできないですよ」

「そこは大錬金術師としての秘密だな。そのうち教えてやるよ」

レンとオルビスは,グラーキ封印の打ち合わせを念入りに行い準備に入るのであった。

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