第122話 聖なる炎
「レン様。それではこのホピルスの教会にいる患者を私と聖女で治療しましょう。結果の確認をお願いします」
教皇は,聖女と二人で神聖魔法白炎により呪印を消し去ることにした。
「お二人には当然でしょうが,悪しき力のみを消し去るイメージを保ちながら,神聖魔法の威力をあまり高出力にせずに,体内の魔臓を包み込むように使用してください」
「分かりました。マリーも大丈夫か」
「はい,大丈夫です。お任せください」
重症の患者の一人が運ばれてきた。
すでに意識が無い。
二人の発動した白炎がゆっくりと患者を包みこむ。
レンは,神眼を発動させ魔臓の様子を見ている。
白炎の浄化の魔力が魔臓にできた呪印を消し去っていくのが見えた。
レンは念のため魔力の動きと生命力の減り具合を見る。
魔力の流れは正常。
生命力の減少も止まっている。
「成功です。魔力と生命力の消失が止まりました。この後,回復魔法を何度かか開ければ,患者は回復します」
教皇と聖女の顔に喜びの表情が浮かぶ。
「患者の治療は,教会に任せて俺は自分の仕事することにする」
オルビスの目の前に白銀色の天秤が現れた。
「これは,正義の秤ですか」
神眼を使用していたレンが神眼で白銀色の天秤を見ていた。
白銀色の天秤には,理と秩序の神レイアの神力が込められ,犯した悪の量を計る力がある。
「正義の秤よ,悪しき呪印を振りまいた存在の居場所を示せ」
その白銀色の天秤が徐々に姿を変え,白銀色の矢印へと変わった。
そして白銀色の矢印が徐々に色を変えていく。
いくつかの色に分かれてグラデーションの状態となっている。
オルビスは矢印のグラデーション状態を見ていた。
どうやらグラデーションの状態で,相手との距離や相手の状態などの情報を得ることができるようだ。
「どうやら,これを振り撒いた奴はまだこの街の中にいるようだ。後は任せた。俺は理と秩序の神レイアの裁定者としての仕事をしてくる」
「僕も同行させてください」
「レンの護衛たちが怒り出すぞ」
「二千年前から関わりがある以上僕も行くべきでしょう」
「ならば,俺たち二人だけだ。他の者が動けば追手だとバレてすぐに逃げられる」
「承知しました。教皇様・聖女様。後はお任せします」
「くれぐれも無理をせずにお願いします」
二人は教会の裏から出ると身体強化を発動させる。
レンはオルビスの後を付いて行く。
二人は街の建物の上を跳ねるように高速で移動していく。
その二人の前には常に矢印が浮かび一定の方向を指し示している。
不意にオルビスが移動をやめて止まった。
レンも立ち止まる。
民家の屋根の上で矢印の示す先を見る。
露天の店があり,一人の老人がいた。
「あの老人だな。正義の秤からの情報だと人間では無い。魔人のようだ。この距離なら問題無い。一気に行くぞ」
老人のいる露天の下の地面から,突如無数の岩の槍が飛び出し老人へと襲いかかるが,その老人が岩の槍を回避して避けてみせた。
オルビスはすでに老人の後ろに移動。
背後から剣で突く。
老人は背後からの剣をかろうじて躱わすが,右脇腹を深く斬られ,それでも大きく飛び退く。
「いきなりこんな老人を襲うなど正気とは思えん」
「普通の老人ならこの攻撃から逃げれない。最初の大地の槍で串刺しだよ。人間に化けるならもう少し上手くやりなよ」
「何を言っている」
「こんなに多くの病人が出ているのに平気な顔で店が出せるな」
「だから何を言っている」
「魔人。何の目的で呪印を振りまいた」
「魔人・・・呪印だと」
老人の退路を塞ぐようにレンが動く。
レンの手には,スキル木で作り出して白銀の木刀が握られている。
「そうか・・次々に呪印の反応が消えているのはお前たちのせいか」
「あんなチンケな呪印。よく使う気になったもんだ。あんな間抜けな呪印。大した目的もなく使ったんだろう。頭の悪い魔人のやりそうなことだ。きっとショボイ目的なんだろう」
オルビスが意地の悪い笑みを見せながら魔人が扮している老人を煽り始める。
「何だと,貴様」
「あ〜悪い悪い。あまりにショボくて目的が推測できんな。まぁ,女に振られたか,ボッチの寂しさから注目して欲しかったのかな。いや〜寂しいもんだ」
「貴様なんぞに分かるか」
「ボッチで寂しい魔人のやることだそんなもんだろう」
「偉大な我が主人のための崇高なる働き,貴様に理解なんぞできまい」
「ふ〜ん。グラーキを復活させるのかな」
老人の顔色が変わる。
「なぜ,知っている」
「ヘェ〜,そうなんだ。教えてくれてありがとう」
「貴様!ぶっ殺す・・・」
老人が禍々しい魔人へと姿を変える。
しかし,魔人が何かに戸惑っている。
「おかしい。何が起きている。魔力が上手く扱えない」
「いいこと教えてあげるよ。僕が手にしているこの剣は魔剣。かすっただけで相手に状態異常を与える。なかなかイカした魔剣だろ。ただ,難点があってね。どんな状態異常を与えるのかはランダムなんだよね〜。どうやら今回は魔力が上手く扱えない,体内の魔力をかき乱す魔力障害のようだね。魔人が魔力を扱えなければ力自慢の人間と変わらん。お気の毒さま」
魔神が逃げ出そうとした時,地面から漆黒の蔓が魔人を拘束する。
「逃すわけないでしょ。グラーキ君のことを洗いざらい話してもらおうか」
「貴様らに話すわけがないだろう」
「話すに決まってるよ」
「拷問なんぞ効かんぞ」
「嫌だな。そんなめんどくさい事なんてしないよ」
オルビスが首輪を持ち出してきた。
そしてその首輪を魔人にはめた。
「いや〜よく似合うよ。それは貴重品なんだぜ。世界に1個しかない隷属の首輪」
「そんな人間の作り出した,奴隷の首輪程度で魔人を縛れるものか」
「よく聞いてよ。隷属の首輪と言ったはずだよ。奴隷の首輪じゃないよ」
「まさか・・・あれは古代にしか存在しない。そんなものが今存在するはずが」
「僕が南の大陸に出向いて,試練の迷宮最下層の地下100階から持ってきた貴重品さ。奴隷の首輪なんて比べ物にならないほど強力だ。貴重品だろう」
「ありえない,そんな・・」
「答えろ。グラーキの封印はどの程度まで解放が進んでいる」
「ウググ・・・約四割・・間も無くグラーキ様の・・・分身が動けるようになる」
「グラーキの分身か,厄介だな。早く再封印が必要か。グラーキはどこに封印されている」
「そんな事・・・言うわけ・・ウグググ・東の魔の森,奥にある死者の塔・・・地下50階」
「死者の塔地下50階。行ったことはあるけど,そこには,封印されているようなものや場所はなかったはずだけどな。見落としてたかな」
「玉座の間の後ろに・・・隠し扉・・・壁の紋章を動かす・・壁にある隠し扉が開く」
「ヘェ〜,そんなところに隠し扉か,うっかりしてたな。あと,グラーキの分身の能力を教えて」
「それは・・・アガガガガ・・・」
魔人が急に苦しみ出してみるみる萎んでいく。
やがて何も話さなくなった。
「死んだか。グラーキか他に誰かに何か制約を掛けられていたようだ。グラーキの秘密を話すと命を落とすようにされていたか」
「再封印か」
「レン。十分な準備をしてかからないと危険だぞ。勝手に動くなよ」
「分かっているよ」
スペリオル領の謎の流行病はこれを境に終息することとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます