第121話 黒点
ホピルスの教会では,謎の病気の解明に向けて,レン,教皇,聖女,オルビスによる協力体制が組まれることになった。
「司祭マリス。状況を話してください」
「教皇様。承知いたしました」
司祭マリスは恭しく一礼をする。
「始まりは一ヶ月ほど前でございます。一人の旅人が街中で倒れたのが始まりと言われております」
「一ヶ月前か」
「はい。その旅人はホピルスの街に入るとすぐに倒れたそうです。その旅人は全身に赤い斑点が浮き上がり高熱を発していたそうで,倒れた時にはすでに意識が無く呼びかけにも反応しなかったと聞いております。1週間ほど生死の境を彷徨い,赤い斑点が黒い斑点に変わると亡くなりました」
「その旅人の遺体はどうした」
「はい,未知の病気の可能性があると判断。一刻を争うと考え,未熟ではありますが私が神聖魔法聖炎の第一階位を使用して浄化と火葬をいたしました。しかし,処置が遅かったのか次々に患者が発生。現在街の住民の二割になる2千人に病気が発生。ここに収容できず。庁舎なども開放して患者を収容しております」
教皇はしばらく目を瞑り考えこむ。
「司祭マリスの行動に問題は無い。しかし,謎の病気か・・治療はどのようにしている」
「回復魔法を使いましたが効果は無く。そのため何か毒物の可能性も考え解毒魔法を使用しましたがこちらも効果がありませんでした。そのため,街の薬師・医師と協議していくつかの薬を使いましたがこれも効果無く。現在は,患者の体力を維持させる方に力を入れています」
考えこむ教皇に聖女マリーが声をかける。
「教皇様。天眼で見てみましょう。何かわかるかもしれません」
「そうだね。マリーの言うとおり天眼を使ってみよう」
教皇と聖女は天眼を発動させ患者を見つめる。
「これは一体どうなっている」
「患者の魔力がどんどん消滅していますよ」
「患者の魔力はどこに消えていくのだ」
教皇と聖女は慌てていた。
この世界の全て種族には必ず魔力がある。
魔力がゼロにまで減っても死ぬことは無い。
気持ち悪くなったり,激しい頭痛がしたりするが死ぬことは無いのだ。
しかし,それでも魔力を使い続ければ命を削る行為となりやがて死に至ることになる。
目の前の患者は,魔法を使っていないのにどんどん魔力が消費されている。
二人は天眼をフル発動させ,患者を隅々まで調べるが原因を特定できない。
教皇はレンの方を向く。
「レン様。この患者たちは魔力が原因不明の何かでどんどん消費され,それが止まりません。さらに魔力だけでは無く生命力までも消費されています。私たちの天眼では原因まで見通せません。レン様の神眼で調べていただけますか」
「分かりました。やってみます」
レンは自らの神眼を発動させ,病を発症させている患者を見つめる。
体内にある魔力を作り出し蓄える魔臓に向かって,生命力が吸い込まれていく様子が見える。
レンは神眼の力を引き上げさらに詳しく見ていく。
魔臓の中に黒い小さな点がある。
そこに魔力と生命力が吸い込まれていく様子が見えてきた。
そこをさらに集中する。
すると見えてきた。
目の前に幾何学模様の紋章。
昔,どこかで見た紋章。
現代のものでは無い。
レンは古い記憶を掘り起こすように考えこむ。
「レン様。どうしました」
教皇の問いかけにしばらく応えることができなかった。
「・・・これはマズイかもしれん」
レンは呟くと一度神眼を止める。
「教皇様。四人で一度相談したいと思います。別室を用意願います」
レンの厳しい表情を見た教皇はただならぬ事態と考え,すぐに別室を用意させる。
その部屋の中にレン,教皇,聖女,オルビスだけが入る。
入り口は閉じられ,外では聖騎士が警戒をする。
オルビスが遮音の魔道具を使用して中の声を聴かれないようにする。
「さて,レン。神は違うが同じ使徒同士。見えたことを全て話してくれ」
オルビスの言葉に聖女が驚く。
「レン様と同じ使徒???」
「レンはこの世界の主祭神である慈母神アーテル様の使徒。俺は理と秩序の神レイアの使徒だ。レイアの使徒は,使徒と呼ばずに裁定者と呼ばれる」
「教皇様は知っていたのですか」
「・・こやつの本当の名はオルガ」
「面倒臭いからオルビスでいい」
「オルビスの裁定者とは,神の名の下に悪に裁きを与えるから裁定者。そこには一才の慈悲は無く悪を裁くのみ。別名,理と秩序の番人。悪であればあらゆる者達を裁く。王であろうと貴族であろうと,その裁きから逃れる術は無いとされている」
教皇は苦虫でも噛み潰したかのような表情をしている。
「悪を裁くのですか」
「そうだ」
「どうやって悪と断じるのです」
聖女は疑問を口にする。
「それはこの場の話をすることでは無い。重要なことは病気の原因と治療だ。目の前で苦しむ人を救うことではないのかね」
オルビスは自分に関する説明はこの場では重要では無いと言う。
「それはそうですが」
「レン。見えたことを話してくれ」
「患者の体内にある魔力を貯めておく魔臓に黒い点ができている」
「黒い点」
「とても小さいが,その黒い点に体内の魔力と生命力が流れ込んでいる。いや,吸い込まれていくと言ったほうがいい。その黒い点は,呪印だ」
「呪印。病気では無いのか」
「違うな。表面に見えている赤い斑点は病気に見せるための偽装だ」
「それは一体」
「少し,昔話になるが聞いてくれ。約2千年ほど昔。似たような・・いや,同じ症状の病気が流行したことがあった。かなり長期間原因が特定できなかったがようやく原因が特定できたのだが,それは恐るべき内容だった。魔界の悪魔たちがイグ教と呼ばれる宗教を隠れ蓑にして暗躍していた。イグ教を隠れ蓑していた悪魔たちは,この地上を完全に破壊して魔界をそのまま顕現させることを考えた奴がいた。そいつが行ったのが今回と全く同じ。今回の規模はかなり小さいけどね」
「そんなことをやって地上を破壊できるのか」
「一人一人の持つ魔力や生命力は僅かだ。だがそれが何千,何万,何十万と集めれば恐ろしい力となる。あの時は集めた力が強すぎて,この世界どころか魔界まで完全に崩壊する瀬戸際まで行った」
「その首謀者は誰だ」
「グラーキと呼ばれていたな。ワームの化け物のような奴だが,本当のところは何なのかは不明だ。今回は規模が小さい。完全封印されている本体を呼び起こすため,力を集めていると考えられる」
「どうすればいい」
「この規模であれば呪印はまだ弱い。神聖魔法聖炎の第5階位蒼炎でなくとも,第4階位白炎で十分に消し去ることができる」
「レン様。ならば神聖魔法の才に秀でた司教クラスを招集すれば対応可能です。直ちに動かしましょう」
「教皇様。お願いします」
教会の者たちが慌ただしく対応に動き出し始めるのであった。
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