第120話 出会いは突然

謎の病が流行している街であるホピルスが見えてきた。

街を囲む石造りの外壁に設けられた門は閉じられている。

門のある外壁の上では数人の衛兵が警戒している。

その衛兵達がレン達の馬車に向かって声をかけてきた。


「止まれ!ホピルスの街は閉鎖中である。直ちに引き返せ」


その声にロー・ウェルウッドが対応する。


「次期スペリオル公爵であるレン様の緊急視察である。門を開けよ」


その声に慌てて衛兵たちが門から出てくる。

その内の1名が馬車に近づく。

髭を蓄え30歳ほどに見える。


「このホピルスの街の警備隊長を務めるハルガンと申します。レン様であれば尚更ホピルスに入るのはおやめください。現在,謎の病が流行しており危険でございます。レン様にもしもの事があれば一大事でございます」


レンは馬車の窓を開ける。


「レン・ウィンダーです。僕は病に対する耐性が非常に高い。他の人よりも病にかかりにくい。さらに今回,教皇様と聖女様も同行されていて,謎の病の正体の解明,そして治療にあたられる。人々を救うために門を開けなさい」

「なんですと,教皇様と聖女様も来られたのですか」


聖女マリーが立ち上がり笑顔を見せる。

何もせずに微笑んでいるだけなら可憐な乙女なのだ。


「おぉぉ〜,聖女様。どうかこの街の人たちをお救いください」


警備隊長と衛兵達は涙を流しながら頭を下げ懇願していた。

その姿を見たレンは思わず呟いていた。


「やはり聖女の存在は大きい。流石は武闘派聖女・・・」

「レン様何か言いましたか」


聖女マリーから強烈な殺気が向けられる。

レンは無意識に魔力による防御壁を身に纏う。

同時にミスリルゴーレムを素手で破壊する聖女を思い浮かべた。

そして,この程度の防御壁は紙屑同然のように拳で破壊され,その拳で殴り倒されると確信。

思わず一歩程度聖女マリーから離れる。


「何でもありません」

「何故,離れるのですか」

「狭い馬車の中ですよ。気のせいかと」


聖女マリーをよく見るといつの間にか右手に白銀に輝くナックルがあった。

しっかりと教会の紋章が入っている。

嫌な汗が流れそうになる。

レンは,大きな指輪ですねと言ってやろうかと思ったが,その瞬間,白銀のナックルが装着された右の拳が飛んできそうな予感がしたため,黙ることにした。


「レン様ですので,特別に聞かなかったことにしてあげましょう。病に苦しむ人々が待っています。時間が惜しいので早く街の中に入りましょう。念のために言っておきます。私は武闘派などではありません」

「そ・そうですね。人々が待っています。急ぎましょう」


馬車は街に入ると病人達がいる街の教会へと向かう。

街の大通りを馬車が進むが人通りはほぼ無い。

多くの人が家に閉じこもっているようだ。

しばらくすると馬車は教会に到着する。

レン達が馬車を降りると教会の中から人が出てきた。

教会の服を着た若い司祭のようだ。


「ようこそおいでくださいました。この教会の司祭を務めますマリスと申します」

「レン・ウィンダーと申します」

「おお,次期公爵様自らおいでになるとは驚きました」


そこに教皇と聖女も馬車を降りて出てきた。


「えっ・教皇様,聖女様」


司祭マリスが驚きの表情をする。


「司祭マリス。日々,献身的に尽くしておると聞いている。これからも励んでくれ」

「聖女マリーです。お優しい方と聞いており,多くの人々を病から救おうと奮戦していると聞いております。私たちも手伝いますから,力を合わせて人々を救いましょう」


司祭マリスは感激の涙を流している。


「話しは中でしましょう。案内をお願いします」

「レン様。承知いたしました。どうぞこちらへ」


一行は教会の中に入っていく。

聖堂の中はすでに多くの病人が寝かされていた。


「どのような治療をしているのですか」

「街の医師,薬師,錬金術師が協力して薬の調合を行い,教会では回復魔法や解毒魔法で対処していますが効果がありません。そこで帝都から高名な錬金術師の方をきていただき対処しようと考え,先ほどその錬金術師の方が到着されたばかりです。あそこにおられる方です」


そこにいたのは緑の髪色が特徴の錬金術師。

帝都魔導錬金工房のオルビスことオルガであった。

レンはそっと教皇の顔を見る。

すでに柔和な表情が険しい表情に変わり,視線で射殺さんばかりである。

教皇はオルガに近づいていく。

オルガは教皇に気がつくと驚くがすぐに嬉しそうな顔になる。


「これはこれは,教皇様,聖女様,レン様。帝都の錬金術師オルビスと申します」

「ふん。オルガ・今はオルビスと名乗っているのか。ここは貴様のような輩が来ていい場所ではない」

「フフフ・・得意の天眼かな。怒ってばかりいると体に良くないよ。お爺さん」

「同じ人族で儂よりも年上でありながら,儂をジジイ呼ばわりするか」

「見た目の違いだから仕方ないよね」

「ここで因縁の決着をつけてやろうか」

「困ったお爺ちゃんだね。暴れるのは勝手だけど,ここで暴れると病人が巻き込まれるよ」

「貴様病人を盾にするか」

「一方的に喧嘩を売ってきているのは君だろう。その独善的な正義感は治すべきだと昔散々言ったよね。もっと視野を広く持つようにすべきだとも言ったはずだ。そもそも僕は病人を治すもしくは原因特定のために呼ばれている。君たちも病人を救うために来たのだろう。個人的なわだかまりで暴れる暇があれば,病人を救え」

「ウグググ・・」


憤慨している教皇に聖女マリーが声をかける。


「教皇様。今は個人的なことで怒っている場合ではありませんよ」

「・・・分かった。確かにそうだ。オルガ・いやオルビスか,今回は見逃してやる。しかし,いつか決着をつける」

「目的のためには怒りも飲み込む姿勢が必要だよ。君の挑戦は気長に待っているよ」


レン,教皇,聖女,オルビスの4者による協力が決まり,病気解明へ向けて進むのであった。

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