第119話 人外

馬車の中の教皇は落ち着いていた。

馬車の進路に魔物と盗賊。

そちらに騎士団が注力していたら側面から魔物の群れが迫ってきている状況の中でも慌てる素振りが見られない。

それは聖女も同じであった。


「進路上に盗賊団と魔物の群れで襲わせ、そちらに意識を向けさせ今度は横から攻めるか。なかなか手の込んだことだ。よほど我々を行かせたくないのか、それとも我々を襲うことが目的なのか」

「教皇様。この魔物の群れも仕組まれたものであると言われるのですか」


レンは、教皇の言葉に疑問を口にする。


「我々が病を調べようと馬車を走らせれば、そこに盗賊と魔物が襲ってくる。そちらに注意を向けているところに、さらに別の魔物の群れが馬車に襲いかかってくる。なかなかのタイミングですな」

「確かにタイミング的にはその通りですけど」

「今馬車に向かって襲いかかってくる魔物たちはいくつもの魔物が混じっています。いくつもの魔物が一緒に群れを組むことなど、本来あり得ないこと」


レンは窓越しに外を見ると確かに何種類もの魔物と騎士団が戦っている姿が見えていた。

見えるだけで、ゴブリン、オーク、オーガ、ダークウルフがいる。

今のところ騎士団が魔物を圧倒しており、危険な状況は無いように見える。


「だから言っただろう。武闘派教皇と武闘派聖女。そこにレンと僕がいるんだ。傷つけられる相手がいるはずないだろう」


水の大精霊ウィンの言葉に聖女が異議を唱える。


「ウィン様。私は武闘派などという野蛮な者達と一緒にしないでください」

「武闘派に違いないだろう」

「ですから違うと言っています」

「聖女で武闘術Lv7のスキル持ち。あり得ないな。ここまで来ると護身術なんて生易しいもんじゃないぞ。その辺にいる完全武装の騎士団を単身素手で壊滅させるレベルだぞ」

「そんなことしませんよ」

「昔やりかけなかったかな」

「記憶にありませんね」

「聖騎士団を相手に練度が足りないとか言って,素手で聖騎士団をボロボロにしなかったかな」

「・・・誰に聞いたんですか?」


聖女は眉間に皺を寄せながらウィンを睨む。


「笑いながらアーテル様が言ってたよ」

「え〜!!!」

「アーテル様がちょうど神託を出そうと注意を下界に向けた時に見たと言ってたよ。君は聖騎士団でも根をあげる教皇のシゴキをやり遂げた。そんな君からしたら聖騎士団が緩く感じるんだろうけど,君と違って聖騎士団はあくまでも普通の人だからね」

「ちょっと待ってこんな可憐な乙女を捕まえて化け物みたいに言わないでください」

「いやいや,武闘術Lv7は立派な人外だよ」

「ちょっと,誰が人外ですか」

「聖女マリー。人外の世界へようこそ。教皇様そして使徒レンとともに君も立派な人外だ。おめでとう」


水の大精霊ウィンは両手を広げ高らかに宣言していた。


「ひどい。私は至って普通です」


聖女マリーは顔を真っ赤にして怒る。

そんな聖女マリーにウィンは笑いながら質問をする。


「片手で鋼鉄の鎧を握り潰すのは普通かな」

「えっ・・い・え」

「ワンパンチで魔鉄の鎧に穴を開けるのが普通かな」

「・・・い・・え・」

「ミスリルの剣が欠けるほどの硬さの鱗を持つ土龍を,ひと蹴りで沈めるは普通なのかな」

「・・・・い・・・普通でいいのではないかと,そう,普通の出来事ですよ。普通です」

「僕が言ったことは,君がやったことだよ」

「ウィン様。最近の世界ではそのぐらいで普通なのですよ」


聖女マリーは誤魔化せないと考え全て普通のことだと言い出した。

馬車の中はしばらく静寂に包まれた。


「教皇様。マリー様をどうするのですか,もはや単なる聖女の枠をはみ出してますよ」


レンは思わず疑問を口にする。


「レン様。聖女の枠をはみ出してませんから,本当ですよ。本当」

「ハハハハ・・・あまりにも覚えが良くて,根性があるからついつい教えすぎてしまった。この際だ。戦える最強聖女でいいだろう。レン様に最強聖女の像を作ってもらい教会に置くか」


教皇の言葉にウィンが呆れてしまう。


「うわ〜,この爺さん。開き直ったよ」

「強くて損は無い」

「教皇様。損はあるんですよ。誰も私を可憐な乙女と見てくれなくなります」

「後はお前の努力だ」

「え〜」

「マリー様。あきらめましょう。ようこそ人外の世界へ」

「レン様までひどい」


聖女マリーは馬車を飛び出した。

そこに騎士団を蹴散らしてミスリルゴーレムが襲いかかっきた。

全身がミスリルでできている守りに特化しているゴーレムである。

騎士団の攻撃で傷一つつけることができずに騎士団は蹴散らされていた。

ミスリルゴーレムの拳が聖女マリーに振り下ろされてきた。


「邪魔よ!!!」


聖女マリーのパンチがミスリルゴーレムの腕を打ち砕いた。


「こんな可憐な乙女を捕まえて誰が人外よ」


聖女マリーの怒りの蹴りがミスリルゴーレムの体を蹴り砕いていた。

大きな音を立てて倒れていくミスリルゴーレム。

その音と共に聖女マリーは我に返った。

ミスリルゴーレムの残骸を見て途方に暮れるのであった。

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