第114話 謎の錬金術師

暗殺者オルガは百の顔を持つ男と言われており、その素顔は謎とされている。

そして、その住まいも数えきれないほどあると言われ、オルガがどこにいるのかも謎とされていた。

オルガに暗殺の依頼は、数人の情報屋が窓口になっているが、その彼らでもオルガのことはよく知らない。

依頼があればオルガ作り上げた謎の通信装置で依頼内容を伝え、オルガ自身が受ける受けないを決めて連絡するのだ。

依頼されても受けないことが圧倒的に多い。

何を基準に受ける受けないを決めるのか誰にも分からない。

その代わり受けたら100%依頼を完遂する。

そして、料金はとんでもないほどの高額であった。

1件あたりの依頼料は中規模の貴族の年収数年分になる。

通信装置も他の錬金術師が見ても構造が謎とされている品である。

一度だけ情報屋と錬金術師がオルガの素性を調べるため、通信装置本体を調べようとしたところ、通信装置が大爆発。

魔法陣を解析しようとした錬金術師とオルガの身元を探ろうとした情報屋が死んだ。

それ以来、誰も通信装置の解析とオルガの身元を探ろうとしなくなった。

そんなことをすれば確実に死が待っているからである。

そんな男が帝都にいた。

魔導錬金工房オルビス。

暗殺者オルガが店主となっている工房である。

魔導錬金工房オルビスは帝都でも屈指の腕前と言われるが、とにかく滅多に仕事を受けないことで有名な工房。

店主一人の工房であり、気が向かない限り仕事を受けないことと、店主が留守が多いことでも有名である。

そんな男が帝都の工房で目の前の魔法陣に驚いていた。

「こいつは驚いた。俺様以外に積層型魔法陣を扱える奴がいるのかよ」

積層型魔法陣とは、通常平面に描かれる魔法陣を、特殊な魔法を使い立体的に組み上げている魔法陣のことである。

この世界で魔法陣といえば平面に描かれたものが当たり前であった。

オルガの前にはレンが作り上げた冷蔵庫の心臓部とも言える魔法陣がある。

普通なら冷蔵庫から外した瞬間に魔法陣が壊れるのだが、オルガは魔法陣を壊さずに外していた。

「それにこれは漢字、カタカナ・・・日本語かよ!作ったのは日本人もしくは日本人の転生者か!」

レンの魔法陣は独特であり、魔法陣のどこかに日本語と漢字を組み込み、その日本語と漢字を魔法陣の中で機能させ、魔法陣を魔法文字と呼ばれる文字でしか書けないこの世界の人間達に、解析出来ないようにしていた。

「いや〜驚いたぜ、日本語を魔法陣の中で機能させるなんて、どうすればできるんだよ。これを考えた奴はおかしいぞ。まともな思考じゃない」

オルガは感動しながらも魔法陣を見ながらしばらく考え込んでいた。

「レン・ウィンダー侯爵か、公爵家の嫡男だから転生者だろうな。工房にレン・ウィンダー侯爵から錬金術の依頼が来ていたな。いい機会だ。会ってみるか」

オルガは、レン・ウィンダーに合うことを決めてさっそく向かうのであった。


ーーーーー


帝都ウィンダー侯爵邸。

レン・ウィンダー侯爵に絶対の忠誠を誓う腕利きの騎士団により厳しい警備が敷かれている。

屋敷の庭師からメイドに至るまでが厳しい戦闘訓練を受けたもの達ばかりであり、この屋敷の戦力だけでも近衛騎士団と互角と言われるほどである。

そんなウィンダー侯爵邸の中を執事長セバスの案内に従って進む、魔導錬金工房オルビスの店主。

想像を超える厳重な警戒と手練れとも言える多数の使用人を知り顔色は幾分か悪い。

窓から見えた庭には魔法陣による罠がいくつも敷かれているのが分かる。

「レン様。魔導錬金工房オルビスの店主(オルガ)をお連れしました」

「入ってもらってくれ」

執事長セバスがドアを開き中へと案内する。

「私がこの屋敷の主人であるレン・ウィンダー侯爵です。気軽にレンと呼んでください」

「魔導錬金工房店主のオルビスと申します」

「座ってください」

促されるままソファーに座る。

「帝都でも屈指の呼び声の高い魔導錬金工房オルビスの店主に来てもらえて嬉しいですよ」

お茶の用意を終え、部屋を出ていくセバス。

「あの〜、他に誰もいないのですか」

「錬金術の話ですから、できるだけ他に人がいない方がいいでしょう」

にこやかに話すレンを見て、その動きに全く付け入る隙がないことに驚いていた。

「なるほど、確かにそうですね。ですが、護衛くらいはいたほうがいいのではありませんか」

「ハハハハ・・大丈夫ですよ。十分に守りには配慮してますから」

周辺にはかなり強力な魔法陣の痕跡が感じられる。

「それでどうして私にお声掛けいただけたのですか」

「積層型魔法陣」

レンの一言でオルビスの顔色が変わる。

「私の錬金術を解析したのですか」

「素晴らしい魔法陣ですよ」

「ハァ〜、ならば腹を割って話しをしませんか・・・同じ日本人どうしですから」

今度はレンの顔色が変わる。

「えっ・・日本人!」

「侯爵様は日本人の転生者でしょう」

「・・・では、あなたも」

「私の場合は、迷い人ですね。次元の裂け目に落ちてこの世界に来ました。普通なら次元の裂け目に落ちてしまったら死にます。でもなぜか私は無事にこの世界に来ました。200年前の話ですよ」

「200年前!!!」

目の前の男は緑色の髪をしていてどう見ても20歳ほどにしか見えなかった。

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