第111話 流通革命 

スペリオル領から冷蔵庫が販売されると瞬く間に大ヒットとなり購入依頼が殺到。

現在、三ヶ月の予約待ち状態となっている。

アレク工房は規模を拡大してフル操業しているが追いつかない状態。

やや大きめの業務用,庶民の家庭用サイズの二種類を製造しており、価格も普及を考えやや抑えたものとしている。

飲食店は冷蔵庫を入れることで食材の品質が上がり,貴重な食材の保存も効くようになり,それが新たなメニューを生み出すことにもつながっていた。

そんな中,レンは帝都に戻り販売を担当するモーリー商会の帝都本店にいた。

モーリー商会は帝国でも指折りの商会。

これくらいの規模であれば悪い噂の一つや二つありそうだが,ここモーリー商会では悪い噂は聞かない。

誠実に商売に打ち込んでいると評判の商会である。

取り扱う商材は武具・魔道具・食品と幅広く,店舗ごとに違っており,帝都には10軒の店を持っていた。

目の前にはモーリー商会の会長であるモーリーさんがいる。

少し歳をとっているが裸一貫で商会を立ち上げ,誠実をモットーに長年商売をしてきて,ここまで大きくしてきたと言われていた。


「レン様。本日は当商会においでいただきありがとうございます。商会長のモーリーと申します」

「レン・ウィンダーと言います。お婆さまがモーリー商会に冷蔵庫の販売を任せてくれたお陰で帝国内での売れ行きが好調と聞いています」

「最初,ルナ様からモーリー商会に冷蔵庫販売の打診を受けた時は驚きました。これほどの魔道具を任せてもらえる。しかも,人々の生活をより良い方向へ大きく変える可能性を秘めている。冷蔵庫を見た瞬間思わず感動いたしました」

「そう言ってくれると嬉しいです」

「アレク工房は増産に取り組んでくれていますが,それでも徐々に予約が増えてきております。しかも行商人や輸送を行う者達から,馬車に積めて扱いやすい冷蔵庫を作って欲しいとの要望が来ております」

「馬車に積めて扱いやすいですか」

「距離があるため,食材の劣化を防ぐことができずに諦めているものも多いからでございます。収納の魔道具も少しはありますが,収納量が少なく劣化を止めることはできませんから,冷蔵庫は大きな福音なのです」


収納の魔道具は,二千年前には専門の職人が多数おり大量に作られていたが,今の時代には人族で作れる職人はいない。

エルフの里に行けば収納魔道具が作れる職人が数人はいるようではあるが,そうそう新たな収納魔道具は出てこない。

エルフの魔道具は,人族の世界には簡単に出てこない。

エルフの国が流通を厳しく制限しているかである。

そのため,二千年前に作られた収納の魔道具が大切に使われ,それが今も活用されていた。


「馬車に積める冷蔵庫ですか」


レンはしばらく考えこむ。

作り出した冷蔵庫は、屋敷や家・建物の中で使うことを想定した縦置きスタイル。

馬車に乗せて使用することはできるが,そもそも馬車の荷台は想定していないため、揺れたら倒れてしまう可能性がとても高い。


「馬車に乗せるのは荷台。縦置きだと振動で倒れてしまう・・・なら,横置きの箱型。なるべくシンプルな作りで丈夫なものになるのか・・いっそのこと馬車の荷台に冷蔵庫を取り付ける。もしくは荷台丸ごと冷蔵庫にしてしまえば良いのか」


レンの呟きを聞いたモーリーは驚きの声を上げた。


「なんと,荷馬車を丸ごと冷蔵庫ですか・・・それはまさしく冷蔵運搬の専用馬車。その発想は考え付かなかったです。流石はレン様です」

「い・いえ・・ただ単に思いついただけですから」


レンは現代日本社会で走る箱型トラックを連想して呟いていただけであった。


「荷台を冷蔵庫にした冷蔵運搬専用馬車。通常馬車用の箱型の冷蔵庫。良い、これは良いですよ。まずは箱型冷蔵庫を開発して、その後に冷蔵運搬荷馬車の開発。さっそく、アレク工房に提案してみましょう」

「アレク工房は大変なのではありませんか」

「アレク工房の者達は、ドワーフもしくはドワーフの血を引いている者たちですから、まさしく職人魂の塊のような連中です。新しい可能性や技術を聞けば試さずにはいられない者たちですから大丈夫かと思います」

「えっ、アレク工房はドワーフなんですか。ドワーフもエルフと同じでなかなか人族の社会では見かけないと言われていますけど」

「はい、帝都にはドワーフは少ないですがおります。多少無愛想ですが技術は確かですし、何よりも物作りにかける情熱はすごいものがありますから、彼らのその姿を見ればそれだけで圧倒されてしまいますよ」

「な・なるほど・・」

「そうだ。アレク工房はすぐ近くですから一緒に行ってみませんか」

「良いんですか」

「これから行く予定がありましたから、レン様がよろしければどうでしょうか。ですが彼らは無愛想ですからその部分は大目に見てやってください」

「分かりました。ぜひ、アレク工房にご一緒させてください」


レンは、ドワーフの喜ぶものを考え、従者として付いて来ていた者に帝都の屋敷に取りに行かせ、届いてからアレク工房に向かうのであった。

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