第109話 温泉といえば(2)

温泉まんじゅうはどうにか出来た。

レンが次に必要だと思ったもの。

温泉で熱った身体には、冷たいアイスクリーム。

しかしこの世界にはまだ冷蔵庫は無い。


「仕方ない冷蔵庫を作ることにするか。この世界に無いものを作り出すのは良く無いと思うが、冷たいアイスのため,食文化の発展のためには仕方のないことだ」


一人自分に言い聞かせるかのように呟く。

まずは冷却の魔法陣を二種類作る。

冷凍と冷蔵だ。

スキル木で作り出したミスリルと同じ性能である木製の板に魔法陣を書き入れる。

自然界にある魔力を自動的に吸収して発動するように作り上げる必要がある。

さらにその上から同じ木の板を貼り付け、剥がせば魔法陣が消滅するようにしておく。

最初にスイッチとなる場所に少し魔力を流す。

するとしばらくして板全体が冷たくなってきた。


「発動には問題無い。ならば冷蔵庫の本体を作るか」


再び、スキル木を発動させ冷凍室と冷蔵室を備えた冷蔵庫の形を作り出すことにする。

材質はどのレベルにすべきかしばらく考える。

戦うために武器を作る訳でも無いから高レベルにする必要はない。

鉄程度の強度の木製品作り出すレベルで冷蔵庫本体を作り出す。

よくイメージをしてスキル木を発動。

高さ1、5mほど、横幅が2mの冷蔵庫が目の前に現れた。


「まるで業務用冷蔵庫だな」


ドアを開けそれぞれ天井に魔法陣の板をはめ込む。

しばらく様子を見ているとしっかりと魔法陣が発動して中を冷やしていく。


「これも売り出すか・・・しばらくはやめよう。忙しくなりすぎる」


冷蔵庫を売り出すことを考えたが,今のところ作れるのは自分一人。

冷蔵庫増産で忙殺される未来が脳裏の浮かぶ。


「魔法陣は別として,冷蔵庫本体を普通に職人が作れるようにしない限り,売り出せないな。しばらくは自分の屋敷と温泉リゾートで必要な分だけ作ろう。」


いよいよアイスクリームそのものを作ることにする。

材料は牛乳,卵黄,生クリーム,砂糖。

日本だと牛乳だが、こちらでは黒山羊の乳をを使うことにする。

卵黄は,鶏よりも一回りほど大きいコッコと呼ばれる鳥の卵。

生クリームは温泉まんじゅうの失敗作に入れられていたものと同じ物を砂糖抜きで作ってもらう。

まずは,卵黄に砂糖を混ぜ合わせしっかりと混ぜ合わせる。

次に黒山羊の乳と生クリームを混ぜ合わせ,魔導コンロで弱火を使い加熱。

少し沸いてきたらそこに卵黄と砂糖を混ぜたものを少しずつ加えていく。

当然,混ぜ合わせ撹拌していく。

混ぜ合わせたら魔導コンロを止めて,そのままでしばらく熱を冷ます。

冷めたら冷凍庫に入れて3時間程度そのままにしておく。

3時間経過して様子を見ると固まってきているので,滑らかな食感のためにここでよくかき混ぜる。

しばらくしてから,さらに固まったアイスを丸くくり抜く,アイスディッシャーをスキル木で作った。


「全ての準備が整った」


レンが冷凍室に入れたアイスを出すとしっかりと固まっている。

横にしたり斜めにしたりしても固まったままであった。


「上手く固まったようだ」


レンはアイスディッシャーを使い,ゆっくりとアイスを丸くくり抜いていく。

小皿にそのアイスを盛り付けた。


「クククク・・・出来た。よし,いざ実食」


レンはスプーンでアイスをすくい口に運ぶ。


「これだ。これこそがアイス。苦労した甲斐がある。温泉の後にはこれだよ,これ」


レンの背後から突如声がかかる。


「レン君。何がこれなのかしら」


慌てて振り向くとそこにシェリルがいた。

その目はレンが持っているアイスに向けられている。

猛禽類が獲物をロックオンしたかのような目をしていた。


「それは何かしら」

「これは新しい特産品のスィーツの実食中でして」

「新しいスィーツですって,ならば私にもいいかしら」

「えっ・・は・はい,すぐに用意します」


レンは慌ててシェリルのためのアイスを用意して手渡す。

シェリルはスプーンでアイスをすくうと口に運ぶ。


「こ・・これは,冷たく滑らかな舌触り,口に入れた瞬間あっという間に溶けてしまう」

「これがアイスクリームと言う新しいスィーツです」

「素晴らしい・・・特に温泉で暑くなった身体には最高よ」

「ありがとうございます」

「いつから売り出すのかしら」

「開発したばかりで売り出し日程も値段もまだでございます。数日中には目処をつけたいと考えております」

「決まったら知らせてください。すぐに購入します」

「は・はい,分かりました」


シェリルの視線が冷蔵庫に向けられた。


「これは何かしら」

「そ・それは・冷蔵庫というもので,食料品を冷やして保存したり,冷凍して保存する物です」

「なんですって,本当なの!!!」

「本当です」


シェリルは冷蔵庫のドアを開けてみる。


「本当に冷えている。確かにこれなら食料を冷やしたり凍らせたりできる。いくらで売り出しているのかしら」

「これも先ほど試作したばかりで,売り出し予定も価格も決まっておりません」

「金貨200枚出しましょう。私たちの館用に1台買いましょう」

「え・・金貨200枚」

「もっとするのかしら,金貨300枚ならどうかしら」


スキルを使い元手ただで作り出して金貨200枚・300枚。

あまりの金額に背中に大量の汗が吹き出し,思わず背中が煤けてしまいそうになる。

最終的に新たに作り出して金貨200枚で冷蔵庫を2台納品することとなった。


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